創業55年・地元に愛され続けた尼崎の老舗ケーキ店 年明けに閉店へ...順調だったのに廃業のワケは「後継者がいない」惜しまれながら店主が抱く最後の日への思い
MBSニュース / 2024年12月31日 15時41分
創業して55年を迎える老舗のケーキ店。店主は年明けの1月5日に店を閉じる決断をしました。50年以上店を続けたケーキ店がなぜその歴史に幕を閉じる決断をしたのか、店主の思いと閉店の経緯を取材しました。
兵庫県尼崎市の阪急神戸線「園田駅」近くにあるケーキと洋菓子を販売する「洋菓子工房エトワール」。1969年に開店し創業から55年の老舗店です。
ショーケースには、ココアをたっぷりと使った生地にベルギー産ショコラノワールで作ったチョコレートケーキやいちごのショートケーキなどが並んでいます。
店主は父から継いだ2代目 修行を重ねるうちに菓子作りの楽しさ覚える
店主の濵田智行さん(57)。智行さんは2代目になります。智行さんは高校を卒業後、単身で関東方面のケーキ店に5年半修業を行い、エトワールに勤め始めたといいます。修行を重ねていくうちに菓子作りへの楽しさが沸いてきたと言います。
(濵田智行さん)
「最初はまず、高校3年生のとき、ちょっとお菓子でもやってみようかと思って、父にどこか修行できるところを紹介してと言ったら、関東に行かされて、そのまま5年半、向こうで、勤めて、帰ってきました。(その時に)やっぱりお菓子を作り出すと楽しいとわかって、学生時代、本なんか読むこともなかったのに、(お菓子に関する)本を読み漁ったりして、すごく楽しくなって今まで続いてしまった状態です」
店は順調なのに…突然「閉店」を決意
18歳の頃からケーキを作り始め、40年は経つという智行さん。12月に取材した日には、午前7時から厨房に立ち、ケーキが次々と仕上げられていきました。早い時には午前6時ごろ、夏場では午前7時ごろから厨房に立つといいます。
父親から店を継ぎ、順調に店を続けていた智行さん。しかし、今年秋ごろ、年明けの1月5日に店を閉めることを決めました。
(濵田さん)「本当はできればもうボロボロになるまでやれれば、本当はいいんでしょうけど、そうなってから店を畳むって、結構大変な事やなって。これが10年後に来たらちょっと自分ではしんどいなと思って。歴史もあるんで、できるだけ長く続けられるのがベストだと思いますけど、どこかで終わらさないとあかんというのもあったし、先代にもやめ方をよく考えとけよと言われていたので。今なら、きれいにやめられるかなというのもあります」
閉店の知らせを聞いた客からは惜しまれる声が多かったと言います。
(濵田さん)
「すごく寂しくなると言われて、それを聞くまでは閉めたら何しようとかしか考えていなかったのですが、これだけお客さんが言葉をおっしゃっていただけるので、ちょっと大変な決断をしたのかなという気持ちはあります。泣いてくださるお客さんがいると、ちょっと早すぎたんかなとも思います思いましたが、後悔はないです」
廃業のワケは「後継者がいない」「高額の設備更新」
店は地元に愛され続けた“町のケーキ屋さん”。売り上げも大きく減っているわけではありません。それではなぜ閉店してしまうのでしょうか?
(濵田さん)「後継者がいないっていうこと。長年、働いている子がもしいるとすれば、その子に、やってみるかということは言えたと思うんです。そういう状態でもなかったので。私には子ども2人いますけど、2人ともケーキ屋をやるつもりもないので。多分親2人がいつもせかせか働いている姿を見ているので、やる方には傾かなかったのだと思います。休みも少ないし、他の家のお父さんお母さん、週2回休んでどこどこに連れて行ってもらったって、そういうのを体験してきているから、後を継いで同じことをやると思うと、なかなかそういう踏ん切りはつかないと思います」
さらに、冷蔵庫などが老朽化し数年以内に買い替える必要がありました。そのためには多額の費用が見込まれましたが、濵田さん自身、60歳を目前に控える中、いつまで営業できるか不安になり、廃業を決めたといいます。
(濵田さん)「一つには、ショーケースがあるじゃないですか。ショーケースが壊れたらやめようと思っていたんですけど、それが壊れる前に他の物がどんどん壊れだして、壊れたものを全部入れ替えたとき、ショーケースが壊れてもやめられへんとなって、早めに踏ん切りをつけたというか。壊れたってもうあかんねんと、業者さんも古いから直せないと言われて、やっぱり正解やったなって。だましだましだまし使っていたものがそうなっていくので。古いから入れ替えていけばよかったんですけど、愛着がある機械とかって壊れてどうしようもなくなるまでやはり使い続けるんですよね。するとどういう結果になるかは身に沁みました」
客から相次ぐ「寂しい」の声「親の代からきていた」人も
ただ、地域の人たちにとっては「思い出の味」がまた1つ、なくなることになります。客からは閉店について惜しまれる声が聞かれました。
(客)
「ずっと長年ここ、園田駅にあって、ちょっと買いたいときにすごく助かっていたんですけど、残念ですね。お友達の家に行くちょっとした手土産を買おうと思ったので、そういう時にパッとよれる場所が近所にあったのがすごい助かっていたんですけど、それがなくなるとちょっと寂しい気持ちですね」
(客)
「いや~園田にケーキ屋さんがなくなる。たくさんあったんよ。もう本当にここしかない。元祖エトワールや。親の代から来ていて寂しいです。だからもう1回くらい多分買いに来ると思います」
(客)
「親の代からこちらでお誕生日の時とかケーキをいただいてまして。え、ショック~と思いました。母もよく愛用していたので、すごく慌てていました。ここのマドレーヌが1番好きで、何かあったら買ったり、去年退職したんですけど、会社のみんなに配るお菓子は全部ここで買った。そういう意味でも思い出がある」
専門家「後継者不在の企業が127万社…国難ぐらい深刻」
今、このケーキ店のように小規模ながら地元に愛されてきた店が「後継者の不在」が理由で廃業するケースが相次いでいるといいます。
日本の中小企業などに詳しい専門家に聞くと次のように話しています。
(日本M&Aセンター・谷川佑介西日本支社長)
「バブル前とか、その辺りの(創業の)企業様は、オーナー社長様が、もう70代を超えられているっていう現状。(日本の中小企業が)約360万社ある中で、後継者不在の企業様が127万社ある。『国難』と言われるぐらい深刻でございまして」
日本M&Aセンターによると、職業の多様化や、事業の先行きが不透明な中、家族が「家業を継ぐ」ということが当たり前ではなくなっているといいます。
「いいものを作り、最後までお客さんに喜んでもらえたら」
年明けの5日に最終営業を迎える、濱田智行さん。閉店の日まではいいものを作り続け、客に喜んでほしいと話します。
(濱田さん)
「いやもう、これだけだったんで、『これが全て』というか、ケーキしか知らないんで、これに支えられて、ケーキに支えられてお客さんに支えられたなっていうそういう思いでいっぱいですね」「いいものだけ作ろう。それだけですね。それはずっと思っています。もう最後だから何かやったら、こうせなあかんとかじゃなくて、もう今まで通り、ちゃんとしたものだけ作って、最後までお客さんに喜んでもらえたらなって思っています」
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