神戸の想定震度は「5強」か「6」か― 防災学者の反省「過去の最大は必ずしも『最悪』ではない」地下に潜む地震リスクの警鐘(2)【阪神・淡路大震災から30年】
MBSニュース / 2025年1月16日 19時4分
阪神・淡路大震災が起きる21年前、神戸市が地震学者らに依頼した調査報告書が「神戸と地震」だ。1974(昭和49)年に発行されたその結論は、断定的で明瞭だ。「将来都市直下型の大地震が発生する可能性はあり、その時には断層付近でキ裂・変位がおこり、壊滅的な被害を受けることは間違いない」。
その4年後の1978(昭和53)年、人口の多い都市が地震に襲われた。宮城県沖地震だ。最大震度5を観測した仙台市の死者は16人。うち11人がブロック塀の倒壊によって亡くなった。住宅の全半壊は4385戸、ライフラインが停止するなどした。宮城県沖地震は、人口50万人以上の都市(当時)が初めて経験した「都市型地震」とされている。
その5年後、1983(昭和58)年に神戸市は「地震時における建物倒壊・出火・延焼危険度に関する調査研究報告書(神戸市震災対策調査)」を発行。1986(昭和61)年には「地域防災計画地震対策編」を策定し、地震被害の想定などを進めていく。
「神戸市震災対策調査」を担い、「地域防災計画地震対策編」では委員として議論に参加したのが、当時助教授だった神戸大学の室崎益輝名誉教授(80)だ。
「予算も知らんくせに震度6なんて言うな」
神戸市の最大震度想定は、過去に発生した地震に基づいて議論が行われた。山崎断層地震や枚方断層地震などによる「震度5強」か―。「震度6」である「六甲山断層」とすべきか―。意見が分かれた。
会議には神戸海洋気象台(現・神戸地方気象台)の稲浦昴測候課長(当時)も出席していた。1996年の取材時に稲浦氏は「兵庫県内では、過去に豊岡で震度6が2回もある。当然想定を震度6にすべきではないか、神戸市として。そういうことを強調した」と。しかし、神戸市の担当者から「神戸市の予算も知らんくせに震度6なんて言うな」との発言があったと証言している。
垣間見える“地震対策の思想が不十分だった時代背景”
「震度6」を想定すると、対策に費用がかかりすぎるということで、結局想定震度は「5強」とされた。取りまとめを担ったのは室崎氏だ。
なぜ高い震度の想定にしなかったのか―。
当時の考え方をこう説明する。「まずは震度5クラスに耐えられるような街にして、何年か経って見直しをする。次は震度6や震度7に耐えられる街にするという考え方でどうだろうか」と。
先述のとおり、1978(昭和53)年の宮城県沖地震の最大震度は仙台市の「5」だった。また、神戸市の地域防災計画には、地震についてほとんど書かれていない時代だ。
「震度5強でも取り組んでいただけるのかどうかと思っていた」と室崎氏は答える。そして、その答えには、地震対策や防災の思想がまだ不十分だった時代背景が垣間見える。
『震度7』を経験した反省「起こりうる可能性への検討が弱かった」
しかし、阪神・淡路大震災で神戸が襲われた震度は「7」。室崎氏は最大想定をできていなかったと振りかえる。「震度6の想定でさえも、あくまで過去に兵庫県内で発生した地震。過去だけでなく起こりうる可能性に対しての検討が弱かったというのが反省」と。
気になった点を質問した。「神戸市の最大想定を震度7にする考えはなかったのか」と。
「震度7の想定を提起したとしても、対策が進んだかどうかは今でも分からない」と室崎氏は答えた。
「想定する最大地震は過去の地震だけではいけない」
「考えうる最大想定を」
阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大災害を経験した現在なら何の違和感もなく受け入れられる考え方だ。いつか起きる次の災害での「想定外」を減らすため、考えられる限りの想定と対策を行う“思想”が必要だ。
◆取材・文 福本晋悟
MBS報道情報局 災害・気象担当デスク。「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」特別研究調査員。阪神・淡路大震災発生時は滋賀県在住の小学3年生。震災で両親を亡くし転校して来たクラスメイトと過ごした。
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