【女子バレー】激闘が教えてくれたパリ五輪への『火の鳥NIPPON』復活への道のりは?「勝ちたい」ではなく「絶対に勝つ」
MBSニュース / 2023年9月28日 10時27分
バレーボール女子のパリオリンピック予選、残り1枚の切符をかけた一戦で、火の鳥NIPPON(バレーボール女子日本代表)はフルセットの大熱戦の末、ブラジルに敗れた。歴史に残る激闘も、あと一歩及ばなかった現実。敗因を問われた日本代表の眞鍋政義監督は、一夜明けた25日も同じ言葉を口にする。
「勝ちたいではなく、絶対に勝つ、最後は勝利への執念が勝敗を分けた」
勝利は目の前まで来ていた。試合の流れをものにするチャンスは幾度も訪れた。しかし、そのたびにブラジルの勝利への執念が日本を上回った。セットカウント1対1で迎えた第3セット、日本は24対22とセットポイントを握る。このセットを取り切れば日本に大きく試合の流れが傾く場面。林琴奈選手のサーブがブラジルを襲う。決まったかに見えたがブラジルは執念でボールをつないだ。絶体絶命のピンチから1点を返すと、ブラジルのエース・ガビ(ガブリエラ・ギマラエス)選手が強烈な一撃。まさに鬼の形相でデュースに持ち込んだ。
対する日本は25対24と、もう一度訪れたこのセットを取り切るチャンスも、ものにできなかった。攻め込むサーブが打ち切れずに逆襲を許すと、そのまま3連続ポイントを許して、このセットを奪われた。
最後の勝敗を分けた第5セットもしかり、序盤のビハインドの展開から10対10に追いつくのが精一杯。勝負がかかった場面で一段とギアをあげたブラジルに対して、日本がアウトと判断して見送ったブラジルのサーブがぎりぎりライン上をかすめる。最後はブラジルの勢いを止めることができずに決着がついた。
ブラジルが見せた、追い込まれた場面で精度の高いサーブを打ち込む技術と集中力、サーブで仮に崩されたとしても絶妙のつなぎとそれを決めきる対応力と決定力、届きそうで届かなかったパリへの道は、技術はもちろん終盤での精神力の大切さを物語っていた。
それでも日本には成功体験が残っている。ロンドン(2012年オリンピック)の時には、プレッシャーのかかる局面で正確なレシーブを上げ続ける佐野優子選手がいた。本当の勝負がかかった大事な時には、眞鍋監督が「背中から炎が見えた」と語った、絶対に決めてくれるエースの木村沙織選手がいた。そして誰よりも勝利への執念をみせる司令塔、メダルがかかった試合では、セッターにとって生命線ともいえる指に骨折を負いながらも、表情一つ変えずに正確なトスを供給し続ける竹下佳江選手がいた。
しかし彼女たちも一朝一夕にその域に達したわけではない。佐野選手は、当時は珍しかったリベロでの海外挑戦で、世界の強打を日常で経験することで精度の高い技術を身に着けた。10代のころから日の丸の重責を背負った木村選手は、幾度も悔し涙を流しながら頼れるエースへと成長曲線を描いた。竹下選手は、オリンピック予選敗退の責任を背負わされて、一度はバレーから離れる挫折を味わいながらも、復活して日本を28年ぶりのメダルに導いた。
来年のメンバー構成について質問を受けた眞鍋監督は「今回の14人がメインになると思うが、どのポジションでも新戦力が出てきてほしい」と技術的にもメンタルの面でも新しい力が必要と答えている。
もちろん、男子の高橋藍選手が東京オリンピックの直前に彗星のように現れて日本バレーのレベルを一段引き上げた例もある。だが今回悔しさを味わった14人も、気持ちが変わって、技術を身に着けることで十分に“新戦力”になり得る。だからこそ、悔し涙とともに、選手たちが語った言葉を信じたい。
「個人個人が成長することで、絶対にパリオリンピックの切符をつかみたい。私たちの目標は、オリンピックに出ることでなく、金メダルをとること」
パリオリンピック残りの5枠は、来年の6月、VNL(バレーボールネーションズリーグ)の予選リーグが終了した時点での世界ランキングで決定する。眞鍋監督は「(世界ランキングに反映する)VNLは1試合1試合勝ちにこだわって少しでもポイントを挙げていく。まずはオリンピックの出場権獲得に全集中」と来年の戦い方を示唆した。
パリオリンピックへの準備期間は短くなるかもしれないが、どの試合も負けられない戦いは、逆に一人一人を進化させる。チームとして、個人としても、ぎりぎりの局面での戦いこそが成長を促す場になるからだ、悔しさがあるからこそ、チームは必ず成長する、挫折があるからこそ、選手はたくましくなって帰ってくる。オリンピックイヤーの来シーズン、火の鳥NIPPON、バレーボール女子日本代表が、不死鳥のように、よみがえることを期待したい。
(MBSスポーツ解説委員 宮前 徳弘)
【現時点でのパリオリンピック出場国と世界ランキング(9月25日)】
世界ランキング (◎がパリオリンピック出場権獲得)
1位 トルコ ◎
2位 アメリカ ◎
3位 ブラジル ◎
4位 セルビア ◎
5位 イタリア
6位 中国
7位 ポーランド ◎
8位 ドミニカ ◎
9位 日本
10位 オランダ
11位 カナダ
12位 ドイツ
13位 タイ
14位 ベルギー
15位 フランス ◎
16位 プエルトリコ
来年のVNL予選リーグ終了時点(2,024年6月17日)で、すでに出場権を獲得した国を除く上位5チームが、パリオリンピックの出場権を獲得。ただし各大陸最上位チームは、優先的に出場権獲得(今回はアフリカ大陸1位チーム)。VNL(バレーボールネーションズリーグ)は世界のトップ16か国が出場予定。
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