再選ピンチ!フランス・マクロン大統領は「若くて、近くて、長い」?
MBSニュース / 2022年4月14日 1時16分
4月10日の仏大統領選の第一回投票の結果、マクロン大統領と国民連合のマリーヌ・ルペン氏の2人が24日の決選投票に臨むことになった。5年前の大統領選と同じ顔合わせで争われるわけだが、ウクライナへのロシアの軍事侵攻が続く中で非常に重要な意味を持つ選挙となる。いまのフランスの顔が誰になるかは、ヨーロッパの代表が誰になるかにつながるからだ。私は2017年の大統領選を取材し、当時39歳という若きリーダーの誕生を目の当たりにした。その後も、特派員として1期目のマクロン氏の施政を取材し生活者としてパリで暮らす中で、感じた3つの特徴がある。それは「安近短」ならぬ、「若近長」。「若くて、近くて、長い」リーダーだということだ。
若き大統領はまだ44歳...「寛容さ」や「落ち着き」が必要?
まず「若さ」だ。フランス史上最も若い大統領となったマクロン氏は、現在44歳。仮に2期目に入り任期を終えたとしても50歳に至らない。69歳のブリジット夫人とは四半世紀離れた年の差カップルとして有名だ。多数の大統領を輩出するENA(国立行政学院)出身で投資銀行に勤務していた超エリート。右でも左でもない政治グループ「共和国前進」を率い、就任後から経済、年金など改革プランを矢次早に繰り出した。実際、失業率を改善させるなど一定の成果を出してきた。また、外交面でも国際会議などでフレッシュなイメージをふりまき、レバノンやロシアなどへの仲介外交でエネルギッシュに立ち回ってきた。
ただ、一方で若さゆえの拙速さも目に付いた。ガソリン税の引き上げをきっかけに黄色いベスト運動が勃発し社会が一時混とんとした状態になり、年金改革への反発では交通機関などの史上最長50日以上のストライキを招いたこともあった。権利意識の強いフランスの労働者層の不興を買っていることが今回の選挙戦での苦境にもつながっている。
また、「NATOは脳死状態にある」とか「ワクチン未接種者をうんざりさせる」など若気のいたりとはいえ行き過ぎた発言で不要な混乱を起こすこともあった。去年まではヨーロッパの顔だったドイツのメルケル前首相が温かく包み込んでくれていた部分があったが、その庇護ももはやない。2期目となれば「若さ」に加えて「寛容さ」と「落ち着き」を増したリーダーとなりヨーロッパをまとめていくことが求められる。
国民との距離は縮まった?『心理的な距離』がカギか
次に「近さ」である。そもそもフランス人にとって政治は日本人よりもずっと身近なものであり、普段から政治談議をし、テレビの平日のモーニングショーでは延々と閣僚や議員がMCと討論している。そんな国の大統領には当然、国民との距離の「近さ」が求められてもいる。
余談だが、マクロン氏に限ったことではないが、フランスでは大統領が執務し生活しているエリゼ宮(仏大統領府)が年に1度一般公開されている。取材でも立ち入れないエリアに入れることから、ミーハーながら6時間近く並んで大統領の執務室や閣議を行う部屋などを見学した。もちろん警備や金属探知機のチェックを何度もクリアした上でのことだが、日本で言えば総理官邸を自由に見学できていることになり、もしテロでも起きたらどうするのだろうかと驚いたものである。
本題に戻るとマクロン大統領は常々、距離の近さを意識し、なかば演出してきたといえる。我々プレスとの囲み取材ではまさに目の前、肉薄できる距離に身を置くことがあったし、地方遊説や視察でも市民と超至近距離で口角泡を飛ばす議論を行っていた。それだけに、時に卵を投げられたり、平手打ちされたりするハプニングにも見舞われてしまうのだが、国民のそばにいるのだというイメージは伝わっているのだろう。
もっとも、決選投票の選挙戦で問われるのは、物理的な距離よりも心理的な距離。「本当に私たちのことを考えてくれているのか」国民にくすぶる改革での痛み、暮らしへの不満、特にウクライナ情勢による物価高、燃料高騰などへの具体的かつ納得できる回答を用意できるかが問われている。
決選投票で説得力を持つのはどちらか?日本との関係にも影響?
最後に「長さ」。マクロン大統領の演説や会見はとにかく長い。とうとうと実によく喋る。時に1時間近く1人で喋り続けるためニュースでの翻訳や編集では大変な思いをした。私のフランス語能力では味わえないのだが、文学青年で、作家を志したこともあるという彼のスピーチには随所に文学的な表現が散りばめられており、格調高くかつ論理的なものなのだそうだ。激しいデモの民衆をなだめるため、コロナ対策のロックダウンに理解を得るため、自らの言葉を尽くして原稿も見ずに長時間語り掛ける。理想を語りすぎているきらいもあるが、日本の政治家にはおよそ見られない弁舌能力を持っている。結果は出ておらず、パフォーマンスと見る向きもあるが、ウクライナ情勢で仲介に乗り出し、この間、数十回もプーチン大統領と会談し、長時間交渉して説得を試みようとはしている。言葉を駆使し、国民を説得できるかどうかがいまこそ問われている。
マクロン氏は対外的なイメージとフランス国内での評価・評判が一致しない人ではある。ただ、マクロン大統領をおいてほかにヨーロッパの顔となれる存在がいないのもまた事実だ。ルペン氏が当選すればEU、NATOに対するかかわり方や政策を変える可能性があるし、プーチン大統領とも近いためロシアとの向きあい方がかなり心配になってくる。もちろん日本との関係も。世界がこの選挙を見つめる眼差しとフランス国民が重要視しているポイントとは温度差があり情勢は予断を許さない。第一回投票での2人の差は5年前の数値より開いているものの投票率低下が気がかりでもある。4月24日決選投票は今後のヨーロッパと世界を左右する大きな節目となる。
大八木友之 MBS統括編集長・JNN前パリ支局長
(2017年~2021年に特派員としてフランス赴任。前回大統領選を始めフランスの内政、ヨーロッパの政治経済を広く取材)
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