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特定少年を『実名』で語る・司法担当記者の目線 全国2例目の実名発表"寝屋川事件"

MBSニュース / 2022年5月11日 12時17分

「特定少年の実名報道」についてMBSで今回の報道に関わった主なメンバー3人でコラムを書かせてもらいました。主題は、今年3月1日に起きた大阪府寝屋川市で20歳の男性が現金13万円を奪われ死亡した強盗致死事件において、犯行に関わった男女4人のうちの18歳19歳の2人の特定少年をめぐる実名報道についてです。

今年4月から改正少年法が施行され、検察当局から発表された特定少年の実名を報道機関の判断で報じることが可能になりました。寝屋川の事件は山梨の殺人放火事件に次いで全国2例目、近畿では初めての実名発表でした。従来は少年法61条で禁じられてきたものが「解禁」されたわけです。

MBSでは今回の寝屋川での事件で、大阪地検が2人の特定少年を起訴した4月28日、地上波テレビ放送で実名、WEBでの配信記事ではインターネットの特性を考慮し匿名で報じています。以下がテレビ放送で示した見解です。

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MBSでは、特定少年の被告を「実名」で報じるかどうか、事件ごとに犯罪の重大性や地域や社会に与える影響の大きさ、深刻さなどを考慮して判断することにしています。今回、寝屋川の事件については強盗目的で人の命が失われた結果の重大性や地域社会への影響の大きさなどを総合的に判断した結果、2人の「実名」を報じることとしました。
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報道各社における実際の判断は相当に困難なものだと考えますが、取材や判断に関わったメンバーそれぞれの視点や考えを形にしておくことは有益だと考えます。事件の取材にあたった警察担当キャップ法花直毅、実名発表する検察当局に向き合う司法キャップ清水貴太、そして「実名報道」判断でデスクを担った大八木友之の3者で拙稿を書かせてもらいます。
※なお本稿においては寝屋川で男性1人が亡くなった強盗致死事件を「寝屋川事件」と表記します。(文責:大八木友之 筆頭デスク兼MBS統括編集長)

司法担当記者として寝屋川事件を取材

私、清水貴太はMBS報道情報局の記者として大阪司法記者クラブに所属し、キャップを務めている。今回、全国2例目、近畿では初の特定少年実名発表の事件に接し、取材した記者として、また「実名」か「匿名」かの選択に向き合った者として、抱いた所感と特に司法的な観点から課題や疑問に感じたことを書き記しておきたい。

今回の「特定少年」らと向き合った家庭裁判所や弁護士、また起訴と実名発表を決めた検察幹部らは、それぞれ実名報道をどう受け止めてきたのだろうか。

「原則逆送」と「不適切な養育の影響」の狭間にあるものは…

4月20日、大阪家庭裁判所は、被害者の男性を刺した19歳の少年を検察庁に送り返す「逆送」を決めた。未成年で法を犯した人たちは、捜査機関による捜査の後、「更生の可能性はあるのか」「刑事裁判を受けるのは妥当か」を判断するため、検察から家庭裁判所に身柄を移され、非公開の少年審判を受ける。ここで重大な罪を犯したとされる場合は、原則として再度検察に身柄を戻す「逆送」がなされることになる。

19歳の男は強盗殺人の罪で、18歳の男は強盗致死の罪で検察から家庭裁判所に送致され、少年審判を受けた。家裁は審判の結果、19歳の少年について「刃物で被害者を刺した際、被害者は抵抗のため体を動かしていた可能性があり、刃物が予想外に深く刺さった可能性が残る」などとして、殺意を認めるには慎重であるべきだと判断。検察側は強盗殺人罪で送致したが、家裁は強盗致死罪にとどまるとした。強盗致死罪は、原則として逆送する対象となっているものの、果たして逆送としてよいのか、裁判官の迷いともとれるものが決定文から垣間見えた。

【大阪家庭裁判所 真鍋秀永裁判官の出した19歳の少年に対する決定文(抜粋)】
「少年が事件と向き合い始め、内省を深めつつある」「少年が共犯者の提案に応じて強盗の計画に加わり、刃物を持参し用いるに至ったのは、少年が幼い頃から受けてきた不適切な養育が強く影響している」

家裁が指摘した「不適切な養育」とはどういうものなのか。19歳の少年の代理人弁護士が4月25日に記者会見を開き、こう説明した。

(19歳の男の代理人 玉野まりこ弁護士:写真右)
「本人が非行に至ったというのは、(親から)幼少期から受けてきた虐待の影響が多分にあり、家裁の調査の過程で明らかになっています」

(19歳の男の代理人 小西智子弁護士:写真左)
「“悪いことをすれば暴力を加えられて当然だ”という考え方に陥っていた」

また19歳の少年は事件後に被害者遺族に対し、「大切に育ててきた息子さんの命を奪ってしまったのは自分勝手な行動だ」などとする謝罪の手紙を送り、反省の気持ちを示したという。これらの点も踏まえて小西弁護士らは報道各社に実名報道を控えるよう求めた。

一方、家裁は、19歳の少年の逆送を決めた2日後、18歳の少年についても逆送を決めた。その理由について、「他の共犯者が刃物を持って犯行に臨むことは知っていたと認められ、被害者の対応次第では重大な結果が生じかねないと考えることはできた。それでも犯行に及び、自ら激しい暴行を執拗に加えたから、少年の責任を特に軽いとみることもできない」としている。同じ真鍋裁判官が担当したにもかかわらず、19歳の少年の決定文とは情状面での内容に違いがあるという印象を受けた。

大阪地検幹部「法に則って粛々と…」

一般に、逆送された人について、検察は原則として起訴としている。4月28日、大阪地検は、男らをいずれも強盗致死罪で起訴した上で、2人の実名を発表した。殺意があったとされ強盗殺人で家裁に送致されたのち、家裁が「強盗致死罪を適用すべき」とし、最終的に強盗致死罪で起訴された19歳の男。大阪地検は「関係証拠を踏まえて殺意の認定に至らなかった」と説明。そして、2人の実名を発表した理由について「本件は重大事案であり、地域社会に与える影響も深刻であることから、諸般の事情を考慮した」としている。

検察は実名発表に対してどういう考え方を持っているのか。複数の検察幹部を取材した。

(地検幹部A)
「我々は法に則り粛々と。(総じて、実名が発表された特定少年に与える)影響も2年3年で出る話ではないですから」

(地検幹部B)
「最高検から各高検、地検に通達があった。それに基づいて実名を公表したということしか答えられない」

幹部が言う「通達」とは、今年2月、最高検察庁が全国の高等検察庁と地方検察庁に出したもの。特定少年が起訴された際に実名を公表する“基本的な考え方”を「特定少年の健全育成や更生を考慮してもなお社会の正当な関心に応えるという観点から検討すべき」とし、実名発表の際の基準の一例として「裁判員裁判」を挙げている。今回19歳と18歳の男が犯したとされる罪は強盗致死。裁判員裁判の対象となっていることから、大阪地検はあくまでも改正少年法と通達に従って報道機関に氏名を発表した。司法当局として法に則ってまさに粛々と、ということなのだろう。そして、発表されたものを実名で報じるかどうかの判断自体は各報道機関に委ねた。

少年事件に詳しい弁護士「制度そのものに疑問」

特定少年をめぐり、法制度と当局の対応が変わった中で、今一度話を聞きたい人がいた。大阪で少年事件を多く手掛ける土橋央征弁護士だ。土橋弁護士は、犯罪報道においては「匿名報道が原則であるべき」としたうえで、特定少年に位置付けられる男らの実名が大阪地検から発表されたことについてこう話した。

(土橋央征弁護士)
「法定刑が重たい、社会的に重たいとされている罪に関して、(実名を)広報するというのが検察庁の論理なんだろうなと理解はしていますけども、私としてはそれが妥当だとは思わないです。逆送されて起訴されたら実名になっていいという、そもそもこの法制度そのものに疑問を感じています。(Q“悪いことをしたら名前が出て当然だ”という意見も聞かれるが?)『推定無罪』という原則があり、有罪確定までは不利益を科されないとなっているのに、実名報道されることで、事実上社会的な罰が加えられてしまっているとみられます。(罪を犯した人が社会復帰しても)仕事ができなくなったら、またさらに再犯するリスクが高まる可能性は否定できないと思います。本当にそれで社会としていいのかというのは、私は問いたいと思います」

「実名報道」そのものの問題点を指摘する土橋弁護士だが「少年審判が公開されていないことが社会の理解につながっていない面もあるのではないか」とも話す。

(土橋央征弁護士)
「(少年審判では)少年自身の出生の秘密みたいなことも含めて取り扱うことがあり、そういったことをなかなか公開するのは難しいかなと思います。ただ、少年審判の内容や、どういうシステムになっているかということを、報道機関や社会の方々と共有する方法があればなと個人的に思っているのですね」

正解は…?突き付けられた根本的な問題

犯罪に対し社会の向ける目がより厳しくなる一方で、実名報道によって、若くして道を踏み外してしまった人のその後の人生まで左右してしまってよいのか。デスク、管理職含め、約1か月にわたり迷い、考え続けた。正解は事件ごとに違うのかもしれないが、ブレず、逃げずに判断していきたいし、もし正解があるとすれば、これまで以上に取材を丁寧に重ねることしかないのだと思う。

寝屋川事件には、単に特定少年の実名報道をどうするかという点に留まらず、報道機関が事件報道そのものにどう向き合うかという根本的な課題を突き付けられた。容疑者、被告だけでなく、被害者や遺族を実名で報じるとはどういうことなのか。逆もしかりで、匿名で報じる理由や意味は何なのか。私たちが当たり前としてきたことを常に見直していく必要がある。


清水貴太(MBS報道情報局 大阪司法記者クラブで司法キャップ 入社9年目 法学部出身 これまで大阪府庁・大阪市役所・経済・大阪府警の担当記者を経験)

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