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「金よりも国への恨みはらすため」生活保護不正受給の被告"34年前の『爆殺事件』"で「人生変わった」~司法記者がみたある男の半生(後編)

MBSニュース / 2022年9月16日 17時36分

爆殺事件で狂わされた人生…補償を求めるも敗訴 「ダイナマイト爆殺事件」で容疑者として疑われ、その疑いは晴れたものの34年の時を経て生活保護の不正受給で囚われの身となった水谷受刑者。弁護士に宛てた手紙には、「爆殺事件」をきっかけに人生が大きく暗転したことがつづられていた。

 「1月の夜中 寒い中夜逃げ どれだけ悔しく惨めな思いをしたか」(手紙より)

 水谷受刑者によると、爆殺事件後自宅に住めなくなり、愛媛県でトラック運転手をしたり大阪でタクシー運転手をしたりと職を転々としながら、自家用車で寝泊まりする日々を過ごしたという。そして、この犯行動機についても、手紙に次のようにしたためていた。

 「この度の事は、金よりも国に対する恨みを少しでも晴らすためでした」(手紙より)

 水谷受刑者が「爆殺事件」に巻き込まれ、人生が暗転したと感じたことは言うまでもない。警察や検察の謝罪を諦めつつも、どこかで救われることがあるかもしれないと葛藤する中で、金銭的な補償を求めた民事裁判では敗訴した。国や役所への"憤り"が晴れることはなく、生活保護の不正受給という犯罪行為で爆発させてしまったという。とはいえ、その行為は法に触れ、許されないことは明らかである。

被告人席で「過去の変な事件が無かったら...」

 5月12日に開かれた裁判。被告人質問で、検察側は罪の認識を問いただした。

 (検察官)
 「(生活保護費を)受け取ったらいけないのに受け取ったのはどうしてですか?」
 (水谷受刑者)
 「(当時逮捕されて会社を追われ)何億という損害を受けた。(不正受給が)良いことやとは思わない。それ以上に腹が立ったんです。迷惑かけた分払える分を払います。(亡くなった)母もそう言うと思うから。」
 (検察官)
 「もう同じように不正受給はしませんか?」
 (水谷被告)
 「それはない。言い切れます。今健康な体だし、まだまだ(タクシー運転手として)働くから。」
 (検察官)
 「生活保護は今後受け取るつもりはない?」
 (水谷受刑者)
 「軽々しく受け取ろうとは思いません。働いたらどないでもなる」

  検察官は「自身が生活保護を受給できないのを認識しながら、利欲的動機から本件犯行に及び、不正受給した現金を遊興費等として費消しており、身勝手な動機・経緯に酌むべき事情はない」として、懲役3年6か月を求刑。一方、弁護人は「タクシー会社での勤務態度は良好で、社会復帰の素地はある」などとして執行猶予付きの判決を求めて、公判は1回で結審した。

 最後に裁判官から言いたいことがないか聞かれた水谷受刑者は・・・

 (水谷受刑者)
「過去の変な事件が無かったら、こんなことはしていません」

 迎えた判決の日。

 (大阪地裁・松本英男裁判官)
 「主文、被告人を懲役2年8か月に処する」

 松本裁判官は刑を決めた理由について、「被害額は4年9か月分、合計約650万円と多額で、長期間にわたり、継続的な勤労収入があるのにこれを届け出ず、強い非難を向けなければならない」としつつ、「詐取金を弁済したい、生活保護費を受給するつもりはないなどと反省の態度を示し、年齢を考慮して刑を決めた」と説明した。ただ、「経緯動機に特に酌むべきものはない」として、34年前の事件には触れなかった。

 まっすぐ裁判長を見つめて判決を聞いていた水谷受刑者。控訴はせず服役することを選んだ。

 81歳。それでも、「タクシー運転手として働いて金を返したい」と繰り返し訴えてきた。なぜ高齢の身でタクシー運転手として働き続けたいのか、判決言い渡しの後、弁護人が明かしてくれた。

 (弁護人)
「水谷さんは、タクシー運転手をしていれば、いつか事件で離ればなれになった娘さんを自分のタクシーに乗せるかもしれない、と話しています。だからこそ、本気で働き続けたいと考えているようです」

 生活保護の不正受給は犯罪である。ただ水谷受刑者の場合、理不尽な取り調べを受け、疑いが晴れてからも警察や検察から納得のいく謝罪が無かったことが、犯罪につながる遠因だったこともまた然りである。世の中には、同じように過去に理不尽な思いをさせられ、あるいは人生を狂わされるような出来事に遭ったことで、長きにわたって恨みを募らせ、時として取り返しのつかない大事件を起こす人もいるのではないか――。

 水谷歌二受刑者の事件や裁判の過程は、メディアで全く報じられていない。傍聴した法廷で耳にし、その後を取材して知ることになった「国への長年の恨み」は、裁判官から言及されることもなく、この先も彷徨い続けていくのだろうか。数多(あまた)の事件の中にそれぞれの事情や人生があり、それを「知る・伝える」。司法記者として改めて考えさせられた、そんな傍聴取材だった。

(MBS司法担当 清水貴太記者)

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