「礼儀正しくハキハキ話し、時折の笑み」孤立した男には生活相談した女性がいた 北新地ビル放火殺人 背景に「再起の壁」はあったのか
MBSニュース / 2022年12月16日 21時15分
「あのとき、生活保護を受けて立ち直ろうとしていた。SOSを出していたのにー」。大阪・北新地。事件現場のビルを見上げて、女性はこう話した。4年前、近くで女性に「生きるための相談」をしていたのが、谷本盛雄容疑者本人だった。交友関係がほとんどない中、“わずかに”つながりのあった女性の話は、私が想像していた容疑者像と、大きく異なっていた。
男は5年で100回以上通院の元患者
心療内科クリニックに放火して、26人を殺害した疑いがもたれている谷本盛雄容疑者(当時61、死亡)は5年間で100回以上通院していた元患者だ。このクリニックでは、さまざまな事情で離職した人などの再出発を図る「リワークプログラム」が行われていて、警察は「復帰を目指す前向きな患者たちと、再出発できない自分自身を比べ、妬みに似た感情があったのでは」と犯行動機を推定した。
谷本容疑者自身、再出発すべき環境にあった。2008年に離婚、2011年に長男に対する殺人未遂事件で懲役4年の判決で服役した。出所後は、ほぼ定職に就かず、交友関係もなく、2015年時点で150万円あった貯金を切り崩していったようだ。
所持金5万円以下で「ドヤ暮らし」女性に生活相談
そんな中、谷本容疑者は冒頭の女性に生活相談のために会っていたのだ。2017年当時の所持金は5万円以下、此花区の家に住んでいたが、トイレもなく劣悪な環境だったため、浪速区にある簡易宿舎で半年間ほど暮らしていたという。1泊1300円、いわゆる「ドヤ暮らし」だ。
女性によると、谷本容疑者は「すごく礼儀正しくて、ハキハキ話していた。時折笑ってコミュニケーションがうまくとれる人」だったという。凶悪犯罪の容疑者とは、かけ離れた違う印象だ。仕事を探していたものの、インターネットで過去の犯罪履歴調べられ、面接するも採用には至らなかったという。
「不安」「家族と疎遠」アドバイス受け生活保護を申請
女性のアドバイスに従って、谷本容疑者は生活保護を申請していた。申請書には「生活に困窮していて、この先食べていけるか不安です」「家族とも疎遠です」と記されていた。申請したのは簡易宿舎のあった浪速区役所だったが、「自宅のある此花区で申請するよう」断られたという。その後、此花区に戻り、申請したとみられているが、最終的に生活保護の受給には至らなかったようだ。
そして4年後、重大事件を起こした。メモには「ジッポに火がつくか確認する」「果物ナイフを必ず持っていく」。そして、自転車にガソリンを積み、クリニックに向かったとみられる。
女性「絶望して事件を起こしてしまったのは、彼1人の問題ではない」
事件から1年を前に、現場を初めて訪れた女性はビルをじっと見上げ、少し間をおいて、こう話した。「約4年前に会った時は、前を向いて立ち直ろうとしていたのに、彼はなぜ人を恨んで巻き添えにしようと思ってしまったのでしょうか」「SOSを求めていた人が絶望して事件を起こしてしまったというのは、彼1人の問題ではない」
女性は、「過ちを犯した人を受け入れられる社会であれば、事件は起きなかったのではないか」、と感じていた。
1年間この事件を取材する中で、発達障害で孤立していた女性は「苦しいことがたくさん重なると心は簡単にペチャンコになってしまう。人を恨むことで自分を保っていた。もしかしたら事件の犯人は私だったかもしれない」と取材に答えていた。元受刑者の男性は「服役中は自暴自棄になっていた。事件はありえないことだが、容疑者の気持ちがわかってしまうこともある」と話した。
聖マリアンナ医科大学の安藤久美子准教授(犯罪心理学)は「自分の境遇自体に不満があり、その中で他責的になって誰かを巻き込んで殺したいという、そういった心性が考えられる。今回の事件の予備軍となる人は一定数いると考えられる」と指摘している。
こうした境遇にいる人たちへの対応は非常に困難が伴う。ただ地道だが、そこに目を向ける企業や取り組む団体が少しずつ増えているというデータもある。孤独で苦しんでいる人を取り残さない社会を目指すことも、この事件の教訓ではないかと思う。
MBS報道情報局
法花直毅
この記事に関連するニュース
-
米軍人や軍属の摘発6163件 復帰後の50年間、沖縄県警まとめ 殺人や強盗など凶悪犯は584件
沖縄タイムス+プラス / 2024年6月26日 8時17分
-
昏睡強盗事件「ハイボール2杯を飲んでから記憶がない」被害者は強引な客引きで入店…系列店含め2年間で約60件の被害相談
MBSニュース / 2024年6月24日 12時15分
-
「明日も生きていこうと思える制度に」犯罪被害補償の改革、歩みを止めるな
産経ニュース / 2024年6月17日 17時41分
-
社説:犯罪被害給付金 一歩前進ながら課題が残る
京都新聞 / 2024年6月16日 16時0分
-
容疑者、女性と面識なしか 大分商業施設で刺され死亡
共同通信 / 2024年6月11日 17時32分
ランキング
-
1市営住宅で76歳女性死亡 殺人事件として捜査 同居の次男と連絡取れず 高知
ABCニュース / 2024年6月25日 22時30分
-
2副作用や死亡要因疑い後も中止せず ハンセン病患者に開発中の薬投与
毎日新聞 / 2024年6月25日 19時24分
-
3「富士山コンビニ」の幕、黒から茶色に張り替えへ 丈夫な別素材に
毎日新聞 / 2024年6月25日 18時40分
-
4「三木楽器」の取締役を逮捕 ワシントン条約で規制されている木材をパラグアイから密輸しようとした疑い「20回から30回ほど輸入し、ギターとして販売していた」
MBSニュース / 2024年6月25日 17時25分
-
5岸田首相の「独断専行」に苦言=伊吹元衆院議長
時事通信 / 2024年6月25日 23時29分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)