大阪・道頓堀川でニホンウナギが獲れた 『あの発見』がニュースになったホントの意味を知ってますか? 絶滅危惧種に指定した専門家は「生物多様性の保全に新たな切り口」
MBSニュース / 2023年1月31日 17時16分
「道頓堀川でニホンウナギ獲ったどー!」。毎日放送テレビのバラエティー番組の成果を、NHKをはじめ関西各局、全国ネット番組、ラジオ、一般紙、スポーツ紙、地方紙など1週間で60を超えるメディアが報道した。確かに、道頓堀川で絶滅危惧種が獲れたことは、耳あたりの良いニュースであるように思える。ところが一部の人たちの間では、以前から道頓堀川にはウナギはいると知られていたし、実質釣りができない川であるにもかかわらず、夜こっそり釣り上げて食べる人もいたと聞く。ではなぜ《道頓堀川でニホンウナギが獲れた事は大きなニュース》なのか。そのホントの意味を、テレビ・ラジオで20年に渡り生き物ニュースを解説してきたMBSの『お魚博士』、元報道局解説委員の尾㟢豪が解説する。
ニュースになった2つの理由
まず1つは、【公の記録がなかったという科学的目線】だ。大阪市は20年来定期的に道頓堀川で生態調査を行なっているがニホンウナギの存在は確認できていなかった。その理由は、大阪市が公的に行っている生物調査は、投網と言う漁具を使い、河川に広くどのような生き物が生息しているかを調査するもので、特定の魚種を狙ったものではないからである。
そんなエアポケットに目をつけたのがバラエティー番組『関西ジャニ博』だった。バラエティーという要素が実は大きい。通常のニュース番組なら、誰かの調査結果、もしくは誰かの調査の様子を取材させてもらうことはあるが、自らが特別採捕許可を取り、ロケの許可を取り、観光船の往来を止め、ダイビング調査してまで大掛かりなロケをするような事はなかなかない。バラエティーだからこそ、道頓堀川のニホンウナギはその姿を現すことができたのだ。
もう一つのポイントは。ニホンウナギという生き物が、【古より日本人の食文化に深く浸透している生き物という文化人類学的な興味】だ。人々の生活に非常に近しい存在で、さらに絶滅危惧種のニホンウナギが、大阪にとってシンボリ
ックな象徴の道頓堀川で、初めて確認できたということは、大きなニュースとして各社が取り上げる結果となったのである。
ホントの意味は、もっと深いところにある
元魚類学会会長で淡水魚の生態系に詳しい近畿大学の細谷和海名誉教授に、今回獲れたニホンウナギを見ていただき、道頓堀川でニホンウナギの生息が確認されたことの意味を伺った。
「これだけの形のいいウナギが、健康で病気もない状態で10匹も、大阪の道頓堀川という、まさに都市河川の中に居ると言う事は、環境保全、自然保護の視点からも、かなり注目する結果だと思いますよ。」
細谷さんは2013年、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定した人物だ。
「たまたま環境省のレッドデータブック淡水魚・汽水の部会の座長をさせていただいたときに、ニホンウナギを滅危惧1B類、カテゴリーから2番目に指定しました。様々な抵抗がありましたけれども、その後追いであの国際自然保護連合IUCNが、国際的にもこれを同じカテゴリーにしました。こんな絶滅危惧種がまさか健全な形で大阪のしかも道頓堀川にいるとは正直驚きだなと思います。」
年末、カナダではCOP15が開催され、まさに生物多様性の大切さが宣言された。
細谷さんは続ける。「都会の中の生物多様性っていうのはどうしても見過ごされてしまいがちなんですね。そういう意味では、あの道頓堀川でまさかこんな都会のど真ん中で、こういう個体が見つかったということでは、ブレイクスルー、『生物多様性の保全』に新たな切り口が見つかったような気がしますね。」「こうやって自然にウナギが戻ってくるということを、もっと大阪市民や大阪府民が知るべきで、そしてそのことによって啓発が行われるならば、もっと充実した大阪市の川まちづくりというものが展開できるのではないか。」
細谷氏さんは、都会のウナギが、むしろ他の河川より健全に生きている点に注目し、ウナギに【シナントロープ=人と共生し得る潜在的な能力】があるのではないかと見ている。そして、自然保護を進める場合、自然環境だけではなく、人工的な環境にも目を向けていく必要があるのではないかと、新たなものの見方を示した。
ウナギは『公の記録』として未来へ残る
生態系の頂点にいるウナギは、世界的にも、水域の生物多様性保全のシンボル生物として注目されている。未開の大自然を守ることはもちろん大切だが、『都会の中の生物多様性保全』に目を向けるきっかけになったという点で、この道頓堀川のニホンウナギは、学術的にも新たな視点からの研究の第一歩となるに違いない。
今回バラエティー番組で捕獲されたニホンウナギは、大阪市立自然史博物館の収蔵庫に「道頓堀川で採れたニホンウナギ」の標本第一号として、番組名と捕獲した関西ジャニーズJr.の『Aぇ! group』リーダー・小島健さんの名前とともに登録された。「この時この場所に、この生き物がいた」その事実は、未来永劫 公の記録として残されることになる。何年か先、道頓堀川にニホンウナギが生息している、という環境をあたりまえだと思えるように、道頓堀川を、ひいては地球全体を見守っていかねばならない。
執筆者 尾㟢豪 MBSプロデューサー(事業局)
京都大学農学部水産学科卒。元報道局解説委員。これまで情報番組を中心に『お魚博士』として、テレビ・ラジオで20年に渡り生き物に関するニュースを解説。2010年には、絶滅種クニマスの発見に関わり、一部始終に密着したドキュメンタリー番組『クニマスは生きていた!〜“奇跡の魚”は、いかにして「発見」されたのか?〜』で、放送文化基金本賞、科学技術映像祭内閣総理大臣賞、など五つの賞を受賞。今回、道頓堀川でニホンウナギを捕獲したバラエティー番組『関西ジャニ博』に監修として関わる。
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