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祇園祭の始まりに「大地震」が関係!?八坂神社に移された神様『牛頭天王』 1200年前の"大地動乱"時代...歴史は繰り返すか

MBSニュース / 2023年7月24日 10時43分

 京都の夏を彩る祇園祭。7月17日、猛暑の中、前祭のクライマックスである山鉾巡行が、そして24日には、後祭の山鉾巡行が行われました。この祭り、実は「地震を治めるために始まった」とする説があることをご存じでしょうか。(※この記事は、2017年7月にMBSテレビで放送した内容に加筆し再構成したものです)

神輿を出して穢れを払う 祇園祭の始まり

 日本三大祭りの1つにも数えられる京都・祇園祭。その歴史は約1200年前の平安時代前期にまで遡るとされています。歴史書などによりますと、平安時代の貞観11年=西暦869年、京の都で疫病が流行した際に、国の数にちなんだ66本の鉾を立てて、京都の八坂神社から現在の二条城の南側にある寺院「神泉苑」まで神輿を出して穢れを払ったのが始まりといわれています。祇園祭の始まりとの関係について、神泉苑の住職は次のように話します。

 「平安時代、国内で流行した疫病を鎮めるために、日本にあった国の数の66本の鉾をつくって、八坂神社から神泉苑にやってきて、境内にある池で鉾を清めて帰りました。その行列がまた鉾を持ち帰り、その行列が後に祇園御霊会(疫神怨霊を鎮める祭礼)となり、そして、いまの祇園祭となったときいています」

 祇園祭が始まった平安時代には、全国で疫病、今でいうインフルエンザが猛威を振るい、民衆を苦しめていました。祇園祭はそれを厄払いするための神事だとこれまでされてきました。

歴史学者「地震が祭りの始まりに関係しているはず」

 しかし、東京大学史料編纂所の保立道久名誉教授は、祭りが始まった理由は疫病だけではないと指摘します。

 「祇園祭の始まりは869年といわれていて、貞観11年になりますが、その年の5月に貞観地震というM9クラスの東北の巨大地震が起きています。この地震が祭りの始まりにどうしても関係しているはずです」

 歴史学者の保立さんは、平安時代、日本全国で頻発していた大地震が祇園祭の始まりに深く関わっていたという説を説きます。

 「祇園祭が始まる7年前の862年に、京都で有感地震が19回もありました。しかし、その年の末からインフルエンザが猛威を奮ったため、今までこのインフルエンザ、つまり疫病のほうに注目が集まっていたわけです」

富士山噴火、阿蘇山噴火、巨大地震…貞観の時代は「大地動乱」

 たしかに、貞観の時代(859~877年)は地震などの自然災害が多発しています。864年に富士山の噴火が起こります。この噴火は宝永(江戸時代)の噴火と並ぶ最大クラスの噴火でした。その同じ年と867年には阿蘇山が噴火。868年には播磨の国(現在の兵庫県)で大地震が起きて、869年に東北の三陸沖で2011年に起きた東日本大震災を彷彿させる巨大地震が発生します。この後も火山の噴火と地震が国内で相次ぎます。

地震を治めるという「牛頭天王」 祇園祭との関係は…

 保立さんは、その自身の著書『歴史のなかの大地動乱』(岩波新書)の中で、貞観の時代、全国で続いていた大地震を治めるために「牛頭天王(ごずてんのう)」と呼ばれる地震の神様を、播磨から八坂神社に移したことが祇園祭の始まりと深い関係があると分析します。

 牛頭天王は、インドの神の化身の1つで、密教とともに日本に伝来し、神仏習合で後にスサノオノミコトと同一視されるようになり、疫病や災害などの厄難を防ぐ神様として全国に広まりました。その牛頭天王の総本宮とされているのが、播磨の国(兵庫県)、姫路市にある広峯神社です。つまり、当時の権力者が、大地の神・牛頭天皇を兵庫から京都に移すことで、頻発する地震を封じようとした、もしくは、民衆の動揺を抑えようとしたと、保立さんは推測するのです。そして、それを広く知らしめようと祭りにしたのが、祇園祭だったというのです。

 その説を裏付けるかのように、姫路市にある広峯神社には、スサノオノミコトとして牛頭天王が現在も祭られています。筆者が2017年、広峯神社を取材に訪れた際に、八坂神社に牛頭天王が移されたことについて尋ねてみると、広峯神社の権禰宜は「昔からそう伝わっている。京都で疫病や地震の災いが起きるかもしれないので、ここでお願いするより、京都の御所の近くの神社に持ってきて、祭ろうということになったと聞いています」と答えてくれました。さらに、移転先である京都の八坂神社も、2011年の東日本大震災の際に貞観の地震のことを改めて調べてみて初めてこの事実を知ったといいます。神社に残る歴史書を読み返してみたところ、解釈の違いがあることに気付いたそうです。八坂神社の禰宜は次のように話していました。

 「とにかくびっくりしましたね、あまりにもすさまじい天変地異がこの貞観時代にも続いていましたからね。貞観11年、天下大厄といってもいいのかもしれない。私どもも今まで疫病退散だけが、祇園祭、この祇園御霊会の目的だろうなという解釈でしたが、どうもそうじゃないだろう、この厄という中には疫病神がもたらす禍、天変地異、地震、津波、大雨、そういったものすべてが含まれている。それを鎮めるのがこの祇園祭、昔の祇園御霊会だったのではなかいと、今では解釈しています」

歴史的に“地震は繰り返す”

 地震を扱う学問の世界でも、「歴史は繰り返す」と言われています。現代に起きた東日本大震災は、震源地や地震の規模、それに津波の遡上高などから、1200年前に起きた「貞観・三陸沖地震」(869年)と酷似しています。2017年当時、取材していた際には、知るはずもなかったのですが、貞観の時代、地震とともに起きていたのが、先述したように、なんとインフルエンザの大流行でした。2019年から始まる「新型コロナウイルス」ともなにか符号するような感じがするのは筆者だけでしょうか。もし、令和の時代が貞観の“再来”であるとするならば、いまは正に「大地動乱」の時代で、今後も地震や火山噴火などによる激烈な自然災害が待ち構えている可能性が高いとみるべきです。私たちは、“神頼み”をしなければならぬような「厄難」に備える覚悟が必要です。


◎太田尚志 元JNNマニラ支局長。阪神・淡路大震災で自身が被災して以降、地震・火山などの専門記者として災害取材を継続。MBSラジオ「ネットワーク1・17」やJNN地震特番のプロデューサーなどを歴任。日本災害情報学会会員。

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