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2050年には台風の脅威を恵みに変える!?「タイフーン・ショット計画」について台風科学技術研究センター長・筆保弘徳教授に聞いた(後編)

MBSニュース / 2024年7月25日 12時36分

 7月24日は台風3号の接近により、沖縄県の与那国島で最大瞬間風速50.2m/sを観測し、先島諸島では暴風による停電被害も発生しました。毎年のように台風の襲来により甚大な被害が出るなか、2050年の未来では台風の脅威はなくなり、台風は“恵み”の存在になっているかもしれません。「タイフーン・ショット計画」について、横浜国立大学の筆保弘徳教授にインタビューしました。(気象予報士・広瀬駿)(画像:記録的な暴風により関東地方に甚大な被害をもたらした令和元年房総半島台風)

衝撃的だった令和元年房総半島台風の現場

 2019年、令和元年房総半島台風によって千葉県では甚大な暴風被害が発生、長時間に及ぶ停電被害も出ました。筆保教授は「自分たち研究者の予想していた進路や強さの通りに台風がやってきましたが、予測以上の被害が出て、そのときに被害を止める方法が全く思い浮かびませんでした。台風のメカニズムなど研究成果が出されているのに、実際は台風の研究が社会に貢献できていないことを痛感し、敗北感みたいなものを感じました。」と振り返ります。

 被災地に立って味わった“敗北感”が、台風被害を減らすプロジェクト始動のきっかけとなりました。

(画像:台風科学技術研究センター(TRC)センター長である横浜国立大学教育学部・筆保弘徳教授。筆者が大学院生だったころの指導教官でもある)

“台風の脅威を恵みへ”タイフーン・ショット計画

 2021年10月に横浜国立大学に台風科学技術研究センター(TRC)が設立されました。日本では初となる台風専門の研究機関で、国内の様々な大学や民間企業と連携して、台風に関する研究が行われています。センター長である筆保教授らが取り組むプロジェクトの一つが、“タイフーン・ショット計画”です。

 「台風を完全になくすわけではなく、人間の力で少しでも台風を弱めて、日本に来たときには100の強さだった台風を90や85ぐらいにしたい。そうすると、いまのインフラでも耐えられ、台風被害から守られるのではないか。」と筆保教授は説明します。風のパワーの大きさは、風速の2乗で比例します。風速が2倍になれば風のパワーは4倍に、風速が3倍になれば風のパワーは9倍となります。風が強くなればなるほど、暴風被害は指数関数的に拡大します。裏を返せば、少しでも台風の風を弱めることで、被害は大きく軽減することが期待されます。

(画像:2019年10月9日 令和元年東日本台風の衛星画像 ※気象庁ホームページより)

半世紀前にアメリカで熱帯低気圧を弱める実験が行われていた

 実は、台風の勢力を落とす研究は、半世紀前に同じ熱帯低気圧のハリケーンに対してアメリカで行われていました。プロジェクト期間中に発生した3つのハリケーンで実証実験を行い、そのうち1つのハリケーンが弱まったという報告がありました。しかし、実際に人間の介入の効果がどれほどか判定できず、それがプロジェクトのうまくいかなかった原因となりました。

 筆保教授はいいます。「半世紀前にできなかったことは、コンピューターの中での影響評価です。いまでは数値シミュレーションというコンピューター上で台風を再現することができます。コンピューターの世界で発生させたバーチャル台風に人間が介入した場合と、しなかった場合の影響を比較できるようになりました。」

 コンピューターを最大限活用することで、半世紀前にアメリカの研究者が挑んだテーマに、現代の日本の研究者たちが立ち向かっています。

(画像:タイフーン・ショット計画で考えられている台風制御・発電の主な手法イメージ)

無人の飛行機や船、防風ネットも活用!?台風制御の構想

 タイフーン・ショット計画では、台風の制御や発電をするための10ほどの手法が考えられています。候補のひとつは、無人の飛行機で台風に近づいて氷やドライアイスなど様々な物質を撒くという手法です。あえて台風の中心から離れた場所に雲をつくりあげて、中心へ向かおうとする風の流れを変えて、台風全体の雲の構造を変えて弱めようという考えです。

 そのほか、自然界への負荷の小さい界面活性剤を海の上に散布する手法も、工学を専門とする先生からの提案で考えられています。筆保教授によると、この手法では海面からの水蒸気の蒸発量が30~50%ほど抑えられ、台風の勢力が約10%弱まるようなシミュレーション結果が導き出されています。

 無人の船舶が台風へと向かい、“台風発電”をする構想もあります。台風の暴風を利用して発電を行い、かつ暴風を和らげることで台風の弱化にもつながるというわけです。筆保教授らの狙いは、脅威である台風の存在を、“恵み”の存在に変えることです。

 「1個の台風が持つエネルギーは、日本の消費電力に換算すると10日から100日分、令和元年東日本台風で計算すると約100日分になります。台風は水資源でもあるため、完全になくすことはできません。しかし、数日分のエネルギーを電気として蓄えて、人間の生活に利活用できるような未来が来ればいいなと思っています。」

(画像:筆保弘徳教授と研究室のみなさん)

 砂浜で見る防風ネットも、台風を弱めることに役立つかもしれません。名付けて、“ベイブロック”作戦です。「たとえば三浦半島と房総半島の間、東西約16kmの浦賀水道に防風ネットを張ったとします。防風ネットでは、台風の強度はさほど変わらないかもしれません。しかし、湾へ吹き込む風がわずかに弱まることで、高潮が途端に10~20%軽減されます。海水が堤防を越えず、いまのインフラのままで高潮被害がゼロになれば」筆保教授らはこのようなストーリーを描いています。

 タイフーン・ショット計画に参加している研究者は、気象学者だけではありません。筆保教授はいいます。「ベイブロック作戦でいうと、どのような防風ネットにしたら良いか工学の専門家が実験を進めています。防風ネットを張ることで効果が得られても、船舶の航行をストップする損失が生まれます。コストや被害額の比較を試算するために、損保会社で働く経済の専門家もプロジェクトに参加しています。また、本当に社会実装したときに、社会がどれだけ受容してくれるか、法律や心理学の専門家が調べています。」

 理系と文系の垣根を越えて、様々な分野のプロフェッショナルが、アイデアを出して議論を重ねている段階のタイフーン・ショット計画。プロジェクト10年目には室外での検証実験を行い、2050年にはプロジェクトの実現を目指します。

(画像:2018年台風21号 大阪府内で起きた電柱被害の様子)

台風による人的被害をゼロへ

 2050年の目標を生き生きとした表情で語ったあと、筆保教授は語気を強めます。「台風による人的被害はまだ起きています。令和元年房総半島台風でご家族が亡くなった人に会ったことがあります。台風研究者として、自分が関係してしまったように思いました。人が亡くなることは、本当に辛いです。建物や物が壊れても直すことはできますが、亡くなった人は帰ってきません。まずは人的被害をゼロにしたいです。」

 2050年の未来の台風防災に期待を膨らませながら、いまを生きる私たちは、強大化する台風とどのように向き合えばいいのでしょうか。筆保教授は話します。「“台風が来ないでほしいから、来ないだろうな”という発想を、そろそろ改めた方がいいかなと思います。一度“必ず台風が来る”と言い聞かせるもう一人の自分をつくって、どう対策をするか考えてほしいと思います。台風と一口に言っても、本当にいろいろな顔があります。雨をたくさん降らせる雨台風や、局地的に強い風をもたらす風台風のように。台風が接近する数日前から早めに情報を入手して、“この台風の特徴はなんだろう”と探って、それに合わせて対策をしてもらいたいです。」

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