ひとり親家庭 ラグジュアリーホテルでスペシャル体験「お母さんとの思い出ずっと残ると思う」夏休みに深刻な子どもの体験格差、解消へ一歩
MBSニュース / 2024年8月27日 12時18分
「格別です!いつも食べているのと全然違う」。中学3年生のリョウ君(仮名)は、慣れないナイフとフォークに四苦八苦しながらも、デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグをおいしそうにほおばりました。その姿を見守るお母さんのエリさん(仮名)と顔を見合わせてにっこり。二人がいま幸せな時間を過ごしていることは間違いないようです。
8月23日、ひとり親支援団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が企画した「東京ステーションホテル食事会」に、ひとり親家庭の親子21組・約50人が参加、応募総数が230組もあった狭き門でした。親子はまず、ホテルツアーで豪華な客室を見学し、精緻な調度品や歴史ある建物の説明を受けます。「まるで外国に来たみたい」という声やため息、緊張しながらも弾む親子の会話が聞こえてきます。
ツアーの後は、東京駅舎の屋根裏にあたるゲストラウンジ・アトリウムでテーブルマナーを学びながらコース料理に舌鼓を打ちました。
メニューは
・スモークサーモンと無農薬野菜のサラダ
・仙台牛ハンバーグステーキ&ローストビーフ キノコ入りデミグラスソース ターメリックライス添え
・マスクメロンのショートケーキ 季節のアイスクリーム添え
リョウ君、プロの仕事に興奮「パーフェクトだと思った」
テーブルマナーの講師は、東京ステーションホテル料飲マネージャーの深澤聡史さん。この日のためにパワーポイントで投影資料を作り、テーブルマナーの心得、高級レストランでの椅子の座り方、正しい乾杯のやり方、ナプキンやカトラリーの正式な使い方など本格的なマナーを、時間をかけて丁寧に伝えます。子どもたちもお母さんも集中して聞き入っていました。
エリさんは、「子どもが大人になって初めて体験して恥ずかしい思いをするより、今こうしてテーブルマナーを失敗しながら学べることはありがたい」と話します。一方、リョウ君は「サービススタッフが腕の上に何皿も料理を載せて運んだり、細やかな気遣いをしているのを見てパーフェクトだと思った」とプロの仕事ぶりに興奮を隠せません。
経済的に厳しく、夏休みの体験格差も深刻
この食事会は「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」アドバイザーの薄井シンシアさんが発案し、東京ステーションホテルが賛同して実現しました。ひとり親家庭は経済的に極めて厳しいことが多く、特に夏休みは遊びや学びの体験格差も深刻になります。
ひとり親家庭サポート団体全国協議会(全国33団体)が実施した、夏休みがひとり親家庭に与えている影響についてのアンケート調査(調査期間:2024年7月20日〜28日 対象:各団体の会員 回答数:2111)によると、小中学生がいる家庭の半数が「遊びに連れて行く予定がない」と答えています。経済的な厳しさが主な要因ですが、子どもにとって、ほかの友達との差を感じるだけでなく、体験を通した学びの機会が得られないことにつながります。
アンケートには
• 小学校のクラスの友達が家族旅行に行った話などを聞くと羨ましがっているので悲しい(北海道、50代、子ども1人、7月の月収19万円)
• 子どもが友達と遊びに行きたくてもお小遣いをあげられない。どこかに連れていくお金も時間もない。スポーツを教えてあげられない。焼肉やお寿司をほぼ食べたことがない。周りの子と同じような思いをさせてあげたいが、できない自分が情けない。(北海道、40代、子ども1人、14万円)
• 絵日記に書く内容がないと言われて凹む(東京都、30代、子ども3人、就労収入なし)、といった声が寄せられています。
今回の企画には、子どもたちの体験格差を減らし、こうした経験を通して社会的な学びをしてもらうこと、例えばホテルというひとつの場所でも支配人、料理人、サービス係、部門責任者など様々な仕事があることを目の当たりにすることで、子どもだけでなく親にも自分自身の今後の仕事キャリアを具体的にイメージしてもらいたいという思いが強くあります。
「いつか、このホテルに1泊でいいから泊まりたいね」
参加したお母さんたちも、体験を通して、新たな気づきや目標を感じていました。
・いつか親子3人で、このホテルに1泊でいいから泊まりたいねって話しました。そのために仕事を頑張って、給料アップができる会社に移りたいなっていうふうに思えたので、新しい目標ができました
・シングルマザーで、普段は3つ仕事を掛け持ちしているんです。そこまで頑張ってもやっぱりこのレベルの場所には私の力では絶対に連れて来られないので、支援のお米をいただいたりとかも嬉しいんですけど、こんな素敵な世界があるよっていうのを娘に見せられる機会が本当にありがたくて嬉しかったです
東京ステーションホテル副総支配人の八木千登世さんは、「ホテルを含む観光業界は人手不足。でもインバウンド需要もありこれからの日本を支える重要な業界なので、こうした体験をきっかけにホテルで働きたいと思ってもらえたらうれしい」と話します。そして狙い通り、今回の体験でホテルの仕事に興味を示した子どもたちやお母さんが複数いたということです。
ホテル副総支配人の心を最も動かした光景
この日、八木さんの心を最も動かした光景は、食事の後のお皿でした。「どのお皿もきれいに召し上がっていただいて、カトラリーもちゃんと揃えて置かれていて、みなさんがテーブルマナーをまじめに学んでくださったことが伝わってきた」と晴れやかな表情で話しました。今後のイベント継続も前向きに検討するということです。
今回のイベントが、この夏休み唯一の体験だと話す親子が多くいました。子どもたちが「夏休み一番の思い出です」「学びがあって、来てよかった」「お母さんとの思い出としてずっと残ると思う」などと嬉しそうに話す様子から、いい経験ができたことが伝わってきます。
受験生のリョウ君は「お母さんが頑張ってくれているから、おれも勉強頑張る」と決意を新たにしました。夏休みに特別な体験をさせてあげたい、というお母さんの気持ちは、しっかり子どもに伝わったようです。(MBS東京報道部 石田敦子)
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