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『テレビに騙された』兵庫県知事選挙が突きつけた刃 私たちは変われるのか?

MBSニュース / 2024年12月16日 10時15分

 

「あなたたちは嘘を伝えていた」街頭で浴びた厳しい声

 11月17日、午後8時。MBSでは開票速報特番(配信)ですぐに斎藤元彦知事の当選確実の速報を打った。想定をはるかに超える大逆転劇だったのだが、兆しは選挙期間中の街頭取材で感じていた。

 当初は「たった一人で始めた」という斎藤知事の選挙戦だったが、演説会場の人垣と熱気は他の候補とは一線を画すものがあった。人の輪は日を追うごとに大きくなり、やがてうねりとなっていった。

 一方でメディアに向けられた視線は非常に厳しいものがあった。斎藤知事を支持する方々に話しを聞いたが、「テレビに騙された」「あなたたちは嘘を伝えていた」と叱責を受けた。「これが民意だから」「(選挙で)あなたたちと私たちのどちらが正義かわかるはず」と厳しく指摘された。

 斎藤氏に敗れた稲村和美候補が「何を信じるかの戦いになっていた」と漏らすように、事実とは何かを超え、何が正義かをめぐる異様なムードに包まれていた。

 今回の兵庫県知事選挙が持つ意味は単なる一地方の首長選挙にとどまらない。私たちテレビメディアに対して強烈な問いかけがなされた選挙だと思う。果たしてこのままの選挙報道で良いのか?と。

選挙期間中のジレンマ 報道機関が抱える積年の課題

 街頭やネットでの盛り上がりに比して、今回の兵庫県知事選挙でテレビは十分な報道ができていただろうか。MBSでは選挙が告示されて以降、関連の短いニュースに加え各候補者の主張を同じ秒数に揃えた、いわゆる選挙企画VTRを放送した。

 一方で、斎藤知事の当選を目指すためにと立候補した立花孝志候補が発信した元県民局長の私的な情報や死因の根拠については扱わず、選挙戦終盤に22人の地元首長が稲村氏を支持すると表明した記者会見を取材はしたが報道はしなかった。

 現実に起きている選挙戦のモメンタムを捉えてニュースにするという点で十分であったかは改めて問わなければならない。公職選挙法の公平性、放送法上の中立性を担保する必要は当然ある。ただその法の遵守をある種の建前にしているが、政党や視聴者からのクレームを避けたいという本音、潜在意識が働いてなかったか。

 結果、テレビでは選挙に入ると報道する機会や分量が減ってしまう面がある。これがテレビでは有権者が投票する際に必要かつ有益な情報が、欲しいタイミングで十分に提供されないということにつながっている。選挙報道に携わった者であれば少なからず抱いてきた葛藤であり甘えであり、長年の課題ではないだろうか。

報道番組の『情報番組化』にも課題が・・・

 一方で課題は選挙期間中の報道にだけあるのではない。兵庫県知事選挙においてテレビのあり方が批判や議論の対象となった主な要因は、告示前の斎藤知事や告発文書問題の報道の伝え方と伝わり方にあったと考えている。

 MBSの夕方の報道情報番組においても今年の春ごろから文書問題を取り上げ、特に告発した元県民局長が亡くなって以降、頻度はかなり上がっていった。毎回番組の編集長やスタッフ、出演者でかなりの議論をしてのぞみ、その中で、告発が公益通報にあたるかどうかや、知事の下した懲戒処分のタイミングは適切だったのかといった問題の本質にしっかりと焦点を当てようとシフトして伝えてきたつもりだ。

 ただ一方で伝わり方としてはパワハラ疑惑やおねだり行為のほうが相対的により多く伝わったのではないか。これは弊社の番組に限らず情報番組の1つの特性なのだが、生で記者会見や百条委員会の様子を時間的にも長く取り放送、それぞれの事例を細かに紹介することで視聴者にとって「問題行為を重ねる知事が県政を混乱させている」という印象が色濃く残る結果を招いた可能性が高い。

 また視聴率の観点からも「パワハラ」「おねだり」というワードに引きずられてしまう面はなかったか。多くの報道番組が情報番組化し、「わかりやすさ」「キャッチー」さを追求するなかで、その弊害が前に出てしまうケースがある。つまり、この選挙戦前と選挙戦中の報道の伝える量と伝わり方の質の差が、「テレビの伝えていることは間違いでネットに真実がある」と多くの人が感じる原因となったと推察している。

どうする?これからの選挙報道

 今回の兵庫県知事選挙で起きたことには頭を思いっきり殴られた思いだ。だからこそテレビに向けられた厳しい声に真摯に向き合わねばならない。ではどうするのか。2つのアプローチがあると考える。

 1つは結果重視からプロセス重視へ。選挙は言わずもがな結果が重要だ。それゆえ情勢取材も放送も選挙結果を伝えることに重きを置いてやってきた。国政選挙ともなれば人員と予算を開票特番へ集中投下する。一夜の花火大会のごとくドーンと打ち上げるのだが、実はその花火大会を誰と一緒に、どんな浴衣を着て、どこから見るのかというプロセスも同じくらい大切なのではないか。有権者は選挙戦での情勢や各候補の人となり、資質、掲げた政策などを知り、評価して判断を下し、投票に及んでいる。その有権者の思考の過程に私たちは的確にコミットできているのだろうか。プロセス報道へ比重を移し政策課題など有効な判断材料を提示し、投票行動へとつなげることこそメディアの役割である。

 その上で、もう1つのアプローチはSNSやネットとの対話だろう。先に述べたように選挙期間となれば報道の量がぐっと減ってしまうという長年の課題がある。しかし、街頭で起きていること、ネットやSNS上での話題や言説に敏感になり、我々メディアが取り上げ、分析し、時に情報の正誤も含めて伝えることはできるのではないか。そんなことをしたら論争を呼び、面倒が増えるだけだと感じるかもしれないが、ネットやSNSと対話の無い状態が「テレビは無視した」と言われてしまう結果を生んでいる。選挙はSNSとテレビの勝ち負けではない。普段の番組でやっているようにネットやSNSをうまく取り入れ選挙期間中も対話を続けることが必要だ。

 SNS、ネット、テレビなどさまざまな媒体から情報を取り入れて投票を冷静に判断した人も多いはず。もちろん我々テレビの側も放送時間に縛られず選挙関連の配信番組をすでに多数放送している。今後、地上波とWEBを併用した選挙情報の発信はさらに増えるし有効活用していきたい。

『愛される老舗』になるために求められる変化

 時間に制限が無く、情報量、ユーザー主導という点でネットは優れている。一方で我々テレビメディアは正確性、分析力に強みとこだわりを持っている。「テレビに騙された」「あなたたちは嘘を伝えていた」という叱責は、逆説的だがまだなんとかテレビを見てくれている、信頼を寄せてくれていたという証左だと信じたい。オールドメディアという呼ばれ方に抵抗はあるのだが、なんとか愛される老舗にはなれないか。もちろん厳しいのはわかっている。長く生き残る老舗は伝統を守りつつも日々変化を繰り返している。今回の兵庫県知事選挙での経験を変わるチャンスにしなければならない。

MBS東京報道部長兼解説委員 大八木友之


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