直談判で「ロッテ」社長になった熱い男が手掛ける「社内改革と次なる戦略」
MBSニュース / 2022年12月5日 15時5分
国内のガム市場で約65%のシェアを占める大手菓子メーカー「ロッテ」。1979年発売の「パイの実」や1984年発売の「コアラのマーチ」など消費者から長く愛される商品を数多く持つ。2018年に自ら立候補して社長になった牛膓(ごちょう)栄一社長。こよなく会社を愛し「営業は天職だ」と語る。文豪・ゲーテ作品のヒロインで永遠の恋人として知られる「シャルロッテ」から社名を取り、長く愛される会社にと願う牛膓社長が取り組む社内改革と次なる戦略を聞いた。
野球漫画「キャプテン」が組織を率いる原点
―――牛膓さんはずっと横浜で育ったいわゆる浜っ子ですよね?
私は一人っ子だったので、どちらかというと人見知りの気の小さい子で、なかなか人としゃべるのが苦手というか「お母さん大好き」な子でしたね。関西弁で言う「あかんたれ」です。小学校に入ってもその調子だったので、小学3年の時に親が無理やり地元の野球チームに入れたんですよ。そこで結構、もまれましてね。チームメイトと色々やるようになって少しずつ仲間を広げて活発になってきました。だから感謝していますよ、親には。
―――野球漫画の「キャプテン」がお好きだとか?
谷口君というキャプテンが、あまり実力はないんですけど、チームメイトから慕われて1つのチームをつくりあげていくストーリーで、こういう過程がものすごく新鮮で、当時は憧れましたね。会社も色々な個性ある人間の集まりですから、長所をいかにして引き出して際立たせるかを一番大事にしたいと思っています。その原点は「キャプテン」という漫画にあるのかなと。組織も野球チームも似たところがあると思いますね。
「営業は天職」イケイケで「嫌な社員」だった30代
―――最初の配属先は大阪。初の関西で、しかも大阪でしたが大丈夫でしたか?
必死でしたね。当時、寝言でも挨拶していましたから。家内が「あなた寝言を言っていたわよ」というんです。「なにを?」と聞いたら「おはようございます」とか「ありがとうございます」と寝言を言っていたと。当時は必死だったんでしょうね。
―――30代は結構イケイケで、ちょっと嫌な社員だったという話もありますが?
自分で思い出しても恥ずかしいくらいです。本当に「アホ」でしたね、大阪でいう。36歳まで13年ちょっと大阪支店で勤務したんですが、期間が長くなると人間ってどうしても天狗になるんですよね。慣れきっちゃうというか。当時、全国の中でも大阪は販売のウエイトも高いですし、そこで成績を伸ばすと「自分が会社を背負っている」みたいな感じになって。もうね、恥ずかしいばかりです。
―――それが改まったのは何かきっかけがあったのですか?
いよいよ転勤となった時ですね。36歳で本社にある広域営業部、全国チェーンの会社を担当する部署に異動しました。でも同僚はみんな構えるわけですよ、噂に聞いていますからね。「アイツって...」という感じで。周囲から煙たがられている感じだと自分でも気づいて...。そこまで態度や振る舞いが悪かったんでしょうね。
「30代を恥じた」支店長時代 組織で動く大切さを思い知る
―――その後、支店長になりますよね?
40歳前で茨城県の水戸支店長の辞令が出ました。まさにそこにいた2年間で組織のことを色々勉強したんですね。支店には25、6人いて家族みたいなもんですね。茨城県で一生懸命営業しているわけですけど、それを束ねていた時に支店のメンバーには色々な個性があって、自分は責任者ですからやっぱりその人たちの良いところを伸ばしていきたいと。そうやって毎日やっていると、さっきの漫画のキャプテンではないけれど、達成感とか1人1人の大事さとか、業績が上がるのも支店長の自分がやっているのではなくてみんながやって上がっているんだな、というのに気がつきましたね。
―――支店長になって大きな気づきがあったと?
自らを振り返って大阪での30歳の頃やその後の本社広域営業部でやってきたことを思い返すと「自分はなにをやっていたんだ」と。ひとりよがりだったと。だからちょうど40歳くらいが会社員人生の転機だったと思います。いやぁ本当に気づきましたね、良かったと思います。大きな転機でした。
「自分が社長になれば会社は良くなる」と信じ社長に立候補
―――社長に立候補されたそうですが、その10年ほど前、関連会社の役員をされていた時に起きた創業家の「お家騒動」が1つのきっかけだったのですか?
56歳の時です。格好悪いでしょ?立候補なんですよ。これからという時に色々あって、悔しさもあって。「いい会社だな」ってロッテのことをずっと思っていたのでね。社内には経営陣にどこか遠慮しているところがあって、もっと弾ければもっと世の中のためにできることがあるんじゃないかと思うようになりました。すごいリーダーシップのあるオーナーに引っ張られてきたからこそこれだけ成長できたんですが、組織のしがらみや忖度をなくせば、組織の長所を生かして活性化させて社員たちに自由にやらせれば、もっと伸びしろがあるんじゃないかなと。だから「やらせる立場」に自分がなれば会社が良くなるんじゃないかと思い立候補しました。
―――手を挙げて社長になって、その後、コロナ禍もありましたが手応えは?
いままでやってこなかったことをやっていかないといけないと思っています。消費者の趣向がどんどん変化しているので、新しいものもやっていく。例えば、アイスのクーリッシュのブランドを使った新商品は、フローズン状態のお酒です。飲むアイスをお酒にしました。ほかには、アイスの「雪見だいふく」の中身を生クリームにした商品を今年9月に関西で限定発売しました。それに加えていま一番感じているのは、お客さまの価値観がサステナブル(持続可能な)だとか平和への思いだとか環境問題というものが主たるものになって、その前までの価値観から大幅に変わってきたと感じています。この時代に「ロッテの役目ってなに?」と考えると「我々はこんなこともできる」とアイデアが出るようになりました。
「サステナブル」を意識しないと消費者だけでなく社員にも見放される時代
―――サステナブルという言葉が出ましたね。
いまの時代、方向性としてサステナブルを一番目にもってこないと。社員たちもやっぱりいま、そこを見ています、自社を冷静にね。「うちの会社ってどうなんだろう?世の中に対してちゃんと社会的な活動しているのかな?」とか。「SDGsな会社になっていっているの?」というのをとても冷静に見ています。今年1月、京都でチョコレートを製造販売する「ダリケー」をグループ化しましたが、カカオ豆の農家と技術協力して自然環境に配慮するサステナブルな取り組みに共感したのがきっかけです。
―――良いもの・おいしいものを作るだけではなく、社会的貢献もできているかと?
良い商品、おいしい商品を作るというのは当たり前ですよね。まじめに良い原料を使って。それプラス「製造過程の中で二酸化炭素の排出を下げているの?」とか「プラスチックを減らしているの?」とか、その辺の環境作りに対して貢献しているかを社員たちは冷静に見ていますから。その辺をちゃんとしていると社員の会社に対する思いに繋がると信じています。ただ単に働いているわけではないですよね、社員たちは。好きな人のために一生懸命やるみたいなもので、好きな会社だから一生懸命やる。これは私自身がそうなので。
夢は「あの時と比べたら会社は随分良くなったね」といつか思えること
―――最近はお菓子に限らず原材料高で値上げは避けられないようですが、ロッテではいかがですか?
いまは本当に原材料高、エネルギー高、為替の円安の問題ともう3重苦で値上げをせざるを得ない状況です。品質の良い商品を作り続けるためには値上げは仕方がないと判断しまして、この秋の9月・10月、一部8月から改訂しました。本当に厳しいですね。常に危機感ですね。きのうきょうの成功は、翌日はないと。だからそこは、過去の成功体験はありますが、否定していかないと次の成長はないと思っています。
―――社長になってから会社の雰囲気だとか「変えたい」と思ってきた点はできていると思いますか?
まだまだ実感が得られていない部分もあるので、これからかなと。何年かして振り返れば「あの時と比べたら随分良くなったね」とか「だいぶ成長したよね」と思えたらいいかなと。自分の時に結果が出なくても、そういう道筋を作っていければと。まだまだロッテは発展途上で、もっと多くの消費者に会社を理解してほしいというか「本当に良い商品を作っているね」とか「おいしいね」とか「気持ちが和むよね」というようなことをたくさん言われたいというのが夢だし、働いている従業員が「ここで働いてよかったな」と思える会社にしていくことが役割だし夢ですね。
―――最後に、牛膓さんにとってリーダーとは?
常に現状を否定して新しいことを生み出せる力がある人がリーダーであり、それを従業員に挑戦させて、その結果については失敗があってもすべて受け止められる。そういう人がリーダーだと思います。
■牛膓栄一 1960年、神奈川県横浜市で生まれる。1983年、明治大学政経学部を卒業し同年にロッテ入社。 2008年、ロッテ商事営業統轄部執行役員。2016年、同社専務。2018年、ロッテ社長、現在に至る。
■ロッテ 重光武雄が1948年、チューインガムを手掛け会社を創業。1950年に「新宿チューインガム工場」が完成。昨年度の売上高は約2400億円。従業員は約2500人。
※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。
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