「ロゴスを救ってくれ!」不仲だった父からの願い 女性・子ども目線でアウトドアブランドが快進撃
MBSニュース / 2023年1月16日 10時31分
いまや空前のアウトドアブームだ。コロナ禍が長く続き「密」を避ける消費者心理も追い風となり、民間の経済研究所はアウトドア市場が初めて3000億円を超えると予測する。群雄割拠のアウトドアメーカー業界の中で「女性や子どもに愛されるブランド」を掲げる『ロゴスコーポレーション』。いまは7期連続の増収増益と好調だ。だが、かつては倒産寸前だった時期があった。長く不仲だった父からの要請で家業に戻り、国内屈指のアウトドアメーカーに育てた柴田茂樹社長に、その知られざる復活劇の裏側を聞いた。
スポ根ドラマ「柔道一直線」に憧れ中学・高校時代は柔道部
―――中学・高校と柔道部で黒帯の腕前だそうですね。
スポーツ根性ドラマで「柔道一直線」というのがあって、それを見て憧れましてね。当時は柔道部に入る人が多くて部員が50人ぐらいいました。その頃、剣道部は「おれは男だ!」という青春ドラマ、バレーボール部は「ミュンヘンへの道」とか「サインはV」、野球部は「巨人の星」と、スポ根ドラマやアニメの影響を受けて部活を始める人が多かったですね。柔道着はいまでも処分ができなくて、時々、手に取ります。勇気づけられたり思い出したりすることが多い大切な品物です。
―――大学進学時にお父さんと学部をめぐって揉めたとか。
付属の高校に通っていたので、大学進学時、父に学部について相談しました。父は「家業があるから商学部へ」と。私もそれがいいと思い商学部に申請を出したんです。それから2週間ぐらいして、父がちょっと酔っ払って帰ってきて「茂樹」って呼ぶわけです。「どうしたん?」って聞いたら、「経済学部に行きなさい」と。「え?商学部って言ったやん」って言ったら、「いま銀行の人と飯を食っていたら『同志社大学は経済学部の方が良い』って言っていた」と言うんです。唐突な話で思わず「え?」ってなりました。
―――しかも酔っ払って、ご機嫌さんで?
その時は既に先生に「商学部を希望」と伝えていて、先生に相談すると「いまさら経済学部は無理や」と言われて、結局、諦めることになりました。自分の進路について父に初めて真剣に相談したことを簡単に翻意したことに腹が立ってね。以降、口をきかなくなりました。自分のことを一生懸命に考えてくれていると思っていた父に裏切られた気持ちでね。まあ、多感な時期ですから…。
突然、父から電話「会社が年末までもたない」
―――お母さんは心配されませんでした?
心配していましたね。大学3回生の終わりぐらいの時に母親に呼ばれて、「あんた就職どうするの?」って。「お父さんが心配しているみたいだから」と言うので、私は「俺は家業を継がないよ」と。もうその一言だけですね。あまりぐちゃぐちゃ説明する必要はないなと思ったので、「継がない」と。「自分で考えて就職するから」と言いました。
―――でも結局、20代で家業に戻るに入ることになったきっかけは?
ある日、父から電話かかってきまして、「年末まで会社が持たないかもしれない」と言うんです。「年末まで持たないかもしれない」と言う割に、「お前が入ったら必ずこの会社は伸びる」と言うんです。意味不明な話で…。「何を言っているのかな?」と思ったんですけど、少し時間を置いて妻に相談したら「自分の考えの通りに進めたら」と言われました。それが結構、ドーンと後押しになりましたね。
「海から陸に行くぞ!」と大号令 アウトドアメーカーに
―――会社に入られた時の状況はいかがでした?
当時、会社はアルミボートやゴムボートを中心とする海洋レジャー用品の販売をしていたのですが、20代の私でもわかるほど在庫が多いんですよ。色々な在庫を抑えながら商品を絞り込んで、業績がちょっとずつマシになって…。そんな時、少しだけ輸入をするとすぐ売れ切れちゃう製品があったんです。収益性も高いし、入荷即出荷という具合で。それは何かと言うと、「アウトドア用のテーブルセット」だったんです。これをみて「これからはキャンプ用品かもしれない」となって、社員には「海洋レジャー用品からキャンプ用品に行くぞ!」と。「海から陸(おか)へ上がるぞ!」と宣言しました。
―――「海から陸」ですか?
そういうキャッチフレーズで舵を切りましたね。キャンプ用品の分野にどんどん進んで、1985年から1995年までの10年間はずっと右肩上がりでした。ところが、1995年から1996年ぐらいから業績が急に悪くなったんです。当時、我々の主力取引先だった当時の大手スーパー『ダイエー』が、その辺りから業績が急速に悪くなり出しまして…。あおりで弊社の業績が悪くなったタイミングで父に「お前やれ」と言われて、1998年に社長になりました。
「山ガール」と「5m・800m理論」が会社の危機を救う
―――大変なタイミングで社長になったんですね。
社長になってから7年間のうち3回赤字で、そのうちの2回は連続赤字でした。流石に社長に就任して7年連続業績が悪ければ銀行が黙っていませんね。銀行が「ちゃんと説明してください」と。要は「融資を止めますよ」という具合です。2005年のことですが、仕方なくペーパーを作って銀行へ説明に行くんですが、その週だったか、日曜日に家族を呼んで家族会議ですよ。「こうこうこういう理由でうちの会社がなくなるかもしれない」と。
―――起死回生の策はあったのですか?
起死回生の策はあまりなかったんですよね。ただ、1985年から1995年までにあった我々の「第1次隆盛期」にキャンプを経験した子どもたちが大人になったら、きっとキャンプをするようになるだろうと。そうなったら「第2次のブーム」みたいな隆盛期が来るはずだと考えました。すると、2009年に「山ガール」というブームが来たんですよ。やがて彼女たちは母親になるから、子どもを連れてキャンプに行くことになると見込んで、「いよいよチャンスが来た!」と思って準備を始めました。
―――「女性と子どもに特化する目線で」というのは、そこからですか?
お母さんと子どもたちをターゲットにしようと決めて。「きっとこれが差別化にもなる」と考えました。『5m・800m理論』を勝手に作ってね。この理論は、ロゴスが目指すアウトドア用品のフィールドです。海辺5mのところから高さ800mのエリアのものを専門的に作ろうと。800m以上になると登山だから登山専門店に任せたらいいと。
―――「山ガールブーム」は2009年で、そこから業績が上がった感じですか?
徐々に業績は上がりだして、ちょうど「山ガール」の人たちがお母さんになって、子どもが2から3歳になったのが2015年ぐらいからだと思うんですけど、そこから2022年まで7期連続増収増益ですね。コロナ禍にもかかわらずで、まさに「山ガールさまさま」です。
女性や子どもをターゲットにした「コンビニエンスなアウトドア施設」を作りたい
―――アップダウンを経験して、この先の経営ビジョンは?
突拍子もない業種業態に入り込んでしまうと失敗して取り返しがつかなくなります。「アウトドア」というワードを軸にして1つの曲を奏でる多重奏な経営をしようと。例えば、『ロゴスランド』のようなテーマパーク事業ですね。いま、高知県須崎市と京都府城陽市にあって、いくつか新しい案件も来ています。車で10分から30分ぐらいの場所にあって、そこに行ったら子どもが遊べる遊園地があって、目の届くところに子どもたちがいて、お母さんたちはカフェで何かを飲める、みたいな所がいいと思っているんです。週末になったらお父さんと一緒にお泊りもできるしね。
―――ロゴスランドの宿泊施設は部屋の中にテントがありますね。
「雰囲気だけはアウトドア」的な、そんな感じですね。全天候型でエアコンも付いています。「虫もいるし、夏の暑いときは嫌だ」っていうお母さんたちに向けて、あるいは子どもたちに向けてハードルを低くしてあげようということで考えた部屋です。部屋によってはテントが3つあるので、グループキャンプみたいに2から3組の家族で来てワイワイガヤガヤできます。
―――アウトドアメーカーは色々ありますが、ロゴスの強みは?
我々の支持者といいますか、お客さんの多くは女性と子どもです。女性や子どもたちをメインターゲットにしてロゴスのメイプルマークを見たら子どもたちが笑顔になるような、自然に喜んでもらえるようなブランドを目指しています。思いついたら「いまから行こう!」と言ってもらえるような、コンビニエンスなキャンプ場施設をたくさん作りたい。我々はファミリー、女性や子どもたちに愛されるブランドとして、マニア以外の人たちの認知度が相当上がってきました。そんなブランドはほかにはありません。我々の一番の強みで特色だと思っています。
―――最後に、柴田社長にとってリーダーとは?
明るい行先を共有して、道なき道を進む勇気と覚悟と行動力のある人。それがリーダーだと思っています。
■柴田茂樹 1956年、大阪市生まれ。1979年、同志社大学商学部卒。同年、スポーツ用品卸売会社入社。1982年、大三商事(現ロゴスコーポレーション)入社。1998年、社長就任。現在に至る
■ロゴスコーポレーション 1928年、柴田茂樹氏の祖父が船舶用品を扱う「大三商会」創立。父が社名を「大三商事」に変更。1997年にいまの社名「ロゴスコーポレーション」に。国の内外に85店舗。グループ全体で働く600人あまりのうち、女性比率は50%を超える
※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。
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