「村田製作所」をスマホ部品で飛躍させた立役者が『初の創業家以外の社長』に!いま語る「会社の未来図」とは?
MBSニュース / 2023年6月2日 10時21分
電気を蓄えたり放出したりする「積層セラミックコンデンサ」。実に世界シェア40%を超えてトップに立つ村田製作所。1944年に京都市で産声を上げた村田製作所は、いまや国の内外にグループ企業89社・1兆円以上の売り上げを誇るグローバル企業に成長した。これまで創業家が社長を務めてきたが、2020年に創業家以外で初めての社長となった中島規巨氏(61)。実は、スマートフォンには欠かせない電子部品を作り出し、スマホの小型化に貢献した人物だ。会社の成長に貢献するヒット部品を生み出した中島社長に「モバイル製品」と「村田製作所の未来図」を聞いた。
『自分で調べて実験せえ!』 最初の配属先は“ほったらかしの部署”だった
―――中島さんはどんな新入社員でしたか?
電子部品メーカーって基本、何をやっているか分からないじゃないですか。僕も同じで、何を作っている会社かも、どういう仕事をするのかも全く理解せずに入社しました。配属された部署が材料の開発部で、セラミックスを研究開発する担当だったんです。でも、ほったらかしの部署でね。「自分で調べて実験せえ!」というような感じでした。元々、材料の知識も全くなかったから、会社にある小さな図書室に1日中籠っていましたね。
―――そこでセラミックスの勉強していたのですか?
時間が十分にあったこともあって、図書室の本は結構な数を読みました。あと、入社した年が阪神タイガースが優勝した1985年で、この地域は“虎の帽子”を被っている人が多いので、先輩社員に命じられて金曜日になったら甲子園球場の席を取りに行かないとダメでした。「ちょっとだけ早く出ていいから」と言われて、いい席をとって。
―――村田製作所はずっと創業家が代々経営を担ってきましたが、バトンを渡された時の気持ちは?
NOという返事は求められていないし、「えらいことになった」と思いましたよ。それと同時に、2020年から新型コロナウイルスがまん延して、3月に予定していた社長就任の記者会見が中止になったんです。京都の企業に挨拶回りも行けなかったので、社長になった実感はあまりなかったですね。徐々に慣らされた感じで、ようやく最近「社長なんだな」という感じが芽生えてきたというか、自覚はできてきたのかなと思いますけどね。
焼鳥屋さんでの提案が「やがてスマホには欠かせない部品に」
―――長いサラリーマン人生の中で大きな転機は?
1995年頃、携帯電話の部品開発をやっていたんですが、その頃の世界ナンバー1シェアの会社がスウェーデンにあって。そこの技術開発の責任者が日本に来たので会食の機会があったんです。先方が持ってきた提案が「半導体の技術」を駆使して作るようなものだったんですね。その提案は村田製作所の強みが発揮できる部分がなかったので、それに対してカウンターの提案をしたんです。
―――とっさにこれではダメだと思って提案されたのですか?
会食の場が東京の焼鳥屋さんだったんですが、その頃、技術メンバーはレポート用紙を持ち歩く習慣があったんですよ。そこでレポート用紙に「こんな回路でどうですか?」と提案をしたら、最終的に私が書いたのを採用してくれて商品になったんです。そのメーカーが使ったことで他のメーカーも追従して使うようになって、その頃の携帯電話のアンテナに信号が出たり入ったりする信号処理の回路を、村田製作所が標準を作ることができたんです。
―――焼鳥屋さんでの提案が、世界標準になったと?
「スイッチプレクサ」という電子部品で、携帯電話のサイズを小型化できるようになりました。携帯電話はすごく進化しているんですが、その時々にお客さんと交渉しながら進める仕事が多かったので、どの携帯電話も相手先のエンジニアの顔が浮かぶし、その時に一緒に「こんな部品があったらいいよね」と言って作ってきた部品が入っていて思い出深いです。
―――それにしても、会議で提案するような話を焼鳥屋さんでやってのけたのですね。
スピード感には非常に価値を感じていますね。やはり、「人が人を信頼するかどうか」という話なので、「持ち帰って相談します」では個々の信頼関係はなかなか構築できないと思っています。思っていることや考えていることは結構、正直ベースで腹を割って話をすることが大事だと思っています。
いまのスマホに「嘆き」…、『0.1mm薄く』 「軽薄短小」を追い求めてきたのに…
―――開発する中で、こんな無理難題を言われて記憶はありますか?
そうですね。いかに小さく、いかに薄くするか、いわゆる「軽薄短小」を極めることを常に要求されていましたね。「今回は0.8mmの部品を、次回は0.6mmにして下さいね」とかね。だから、スマホにいっぱいジャラジャラ付けている人が許せないんです(笑)。スマホに大きなケース付けているのを見ると、思わず「0.1mm薄くしたんだけどな…」って嘆きたくなります。
―――村田製作所の強みはなんでしょうか?
すごく先のことを準備する習慣があって、「短期目線でどんな成績になるか」というよりも、「中長期的にどうやって企業を成長させていくか」。そのためには、どのような準備が必要か?という視線で見ています。企業価値を向上させるのは、そういう準備を怠りなくやっていって、技術革新のタイミングで打ち出すということが必要だと思いますし、それができるのが会社の強みだと思っています。「顧客と社会から最善の選択肢として選ばれる世界一の部品メーカーになろう」という心構えですね。
―――具体的に期待している新しい技術を教えてください。
例えば、レーダーのモジュールですね。60GHzのレーダーを使って物体や形状を検知するというデバイスなんです。これによって、自動車での子どもの置き去り防止などに使えないかと検討をはじめています。卵になって芽が出て、という技術はたくさんあります。それを先読みして、「未来のためのデバイスとして何を準備しておくのか」が大切なんです。まずは「軽薄短小」を軸に、どんどん小型のモジュールとかデバイスを提供するのが我々の使命だと思っています。
理想のリーダー像は『何度でも会いたくなるような人』
―――社長としての一番大きな決断は?
「技術革新に対して、いかに準備をしていくか」が大事だとお話ししましたが、その準備の段階で村田製作所の技術だけでは足りないところについては「M&A」をしています。だから、新しい技術や新しいビジネスを獲得するときの決断はスピード感を持ってやらないといけないと思っています。実際にいま、実行している段階ではありますね。
―――社長としての夢は?
最終的な夢はやはり、安心できる状態で次の世代に経営を任せたいですね。企業価値は少し前まで「村田製作所ってよく儲かっているよね」という部分で非常に価値を感じてくれる株主さんが多かったんですけど、いまは企業価値ってそうではないじゃないですか。「経済的価値」と同じウエイトで社会に対してどれだけ役に立っているかとか、定量的に見えないところの価値、いわゆる「社会的価値」と呼んでいる部分ですね。
―――社会的価値とは?
例えば、「再生エネルギー100%にする」だとか、あるいは「ゴミを減らす」という取り組みが経済的価値と同じくらいの評価項目になってきているんですよね。そういうところをドンドン底上げして習慣にして安心できる状態を作りたいと思って実行しています。そして、バトンタッチしたいと思っています。
―――最後に、中島社長にとってリーダーとは?
何かと先行き不透明な状況なので、我々が行くべき道を示すということ。その道をわかりやすく多くの人に伝えることができる人だと思います。あと1つ付け加えるとすれば、また会いたくなる、あるいは何度でも会いたくなるような人。これが、リーダーの条件かなと思っています。
■中島規巨 1961年、大阪で生まれる。1985年、同志社大学工学部卒、同年入社。2006年にモジュール事業本部通信モジュール商品事業部事業部長、2013年に常務、2017年に専務を経て、2020年に社長就任。現在に至る。
■村田製作所 1944年、村田昭氏が京都市に創業。ラジオに使う磁器コンデンサを手掛け、以降、テレビ・携帯電話・スマートフォン・パソコンなどの電子部品で業績を拡大。1991年に本社を京都府長岡京市に移転。
※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。
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