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数学好きの中学生は、やがて「三菱UFJフィナンシャル・グループ」社長に いま『パーパス経営』で変革に取り組む!

MBSニュース / 2023年6月8日 13時47分

 三菱UFJ銀行・三菱UFJ信託銀行・三菱UFJ証券ホールディングスなど、実に50社あまりを束ねる「三菱UFJフィナンシャル・グループ」。巨大金融グループの先頭に立つ亀澤宏規社長は、中学生の時に『数学』に魅了され、東京大学大学院理学系修士課程を修了した。学問を続けるか悩んだ末、「社会の役に立ちたい」と旧三菱銀行に入行。金融の規制緩和に伴い新規業務を数多く手がけ、理系出身初の社長となった。社会的な存在意義を定める「パーパス経営」を導入し、グループ全体の変革に挑む亀澤社長が描く未来図を聞いた。

『数学』に魅了され、中学生で「数学者になりたい」と夢描く

―――傘下の三菱UFJ銀行がWBCのスポンサーを務めた縁で栗山英樹監督と会われたとか?
 WBCでアメリカを破って栗山監督が侍ジャパンを世界一に導かれた。金融業界って欧米が強いと言われていますが、我々も真っ向勝負でグローバルに勝たなければいけないんだって、勇気をいただきました。お会いして直接「ありがとうございました!」って栗山監督にお礼を申し上げました。

―――小学生の頃は運動が得意だったと聞きました。
 運動会の最後のメインイベントに、各クラスで一番足の速い人だけが出場できる全校リレーがあったのですが、毎年選ばれていました。リレー選手として走るのはとても楽しかったですね。でも、中学生になって数学がすごく好きになりまして、中学2年生の時には「数学者になりたい」と思っていました。ちょっと変わっていますよね。数学ってちょっと哲学と似ているところがあるんですけど、理論がいろんなものを包含すればするほど美しいんですよね。普遍的で、一般的で、抽象的なモノであればあるほど本当にきれいな理論になるんです。本当にそれがすごいなと。

―――いまでも好きな数字はあるのですか?
 すごくこだわるのは、例えば、枝豆を食べる時には何個食べるとかは結構気になるんですよ。「変な数字」では食べ終わりたくないんですよね。「縁起のいい数字」とか「縁起が悪い数字」とかがあるんですよ。数字に悪いので具体的な数字は言えませんけどね。

東大大学院を修了し、「社会の役に立ちたい」と銀行に

―――大学院を修了されて学問の道に進む選択もあったわけですね。
 そこは一番悩んだポイントですね。「整数論」は特にそうなんですが、すぐに世の中の役に立つかと言えば、そうでもないんです。一方で、自分としては「社会の役に立ちたい」という思いがあって、社会に出るかどうするかですごく悩みました。結局、金融業界、特に銀行は世の中に直接色々な影響を与えると思って、就職先に決めました。

―――入行してどのような部署で働いてきたのですか?
 特にキャリアの前半は新しい業務を立ち上げることが多くて、前任者がいない部署への異動が多かったですね。つまり、ポジションが空いて異動するとかではなかったんです。新しくできた部署ですから、上司と2人で始めたこともありました。金融規制の自由化のタイミングで新しいことができるようになると、例えば、銀行が株式業務に参入できる時には証券に出向しました。2人でスタートした部署が、出る時には150人ほどが在籍する「部」にしたこともあります。

50歳を過ぎて初めての「海外赴任」 サラリーマン人生で最大の苦境に

―――サラリーマン人生で最大のピンチだったことは?
 ピンチはたくさんありましたが、一番苦しかったのはアメリカに行った時ですかね。53歳で初めてアメリカに赴任して「米州副本部長」になりました。副本部長は組織の全体を見る立場だったのですが、落ち着く間もなく部下のリスク担当役員が辞めてしまったんです。その役割を急に私が担当することになりまして、苦労しました。

―――初めての海外赴任で慣れない仕事を任されたんですね?
 部下が2500人ぐらいいるリスクチームを束ねなくてはならなくなりました。規制当局が当時、サンフランシスコにあったんですが、私はニューヨークが勤務地だったので、しょっちゅうサンフランシスコに飛んで色々な議論をしました。「あなたはチーフリスクオフィサーとしてどう思うんだ?」とか質問されて。でも結構、分からないことも多いし、英語で専門的なやり取りがあって分からなかったりして、会議の議事録を帰りの飛行機で読むと会話がいかにすれ違っていたかがわかるんです。向こうの英語が十分に理解できてなくて、間違えたまま答えているわけですよ。それを私の部下のアメリカ人がうまくフォローしてくれていて、「こういう会話だったのか。危なかった!」ということがありました。

判断を誤らないために社員の「本音」を引き出す

―――2020年に社長になって巨大組織をまとめる難しさは?
 最近、感じるのはやはり「生の情報」が入りにくくなっているといけないなと。社長になってもう4年目に入ったので、だんだん何となくみんなが入れてくるのが「きれいな情報」になっているといけないなと思っています。本当の情報や本音とか、そういうのをとれるようにしておかないと判断を誤りますのでね。いま心がけているのは、従業員ひとりひとりの本音を聞くことですね。

―――これまでで一番大きな決断は?
 アメリカの地銀「MUFGユニオンバンク」の売却ですね。国内の経済が小さくなっていく中で、収益が落ちるのをものすごくカバーしてきたんですが、金利が低下してきて、いわゆるリスクに対するリターンがそんなに高くなくて、どうしようかという話になりました。アメリカは競争が激しいので、結構スケールが必要というか。システム投資とかコンプライアンスの投資がものすごく大きいので、規模がやや中途半端になっていたのもありました。売却交渉はコロナ禍の最中だったので、結局、一度もアメリカに出張せずに私の家と向こうのCEOの家をつないでオンラインで売却交渉をしました。

「世界が進むチカラになる。」をパーパスに掲げ、欧米の「巨人」たちと競う

―――「パーパス経営」を導入されました。
 「世界が進むチカラになる。」と、社会での存在意義「パーパス」を定めました。決める過程ではいろんな議論をしました。「世界」という言葉の中にはお客さまも入るし、社会も入る、従業員も入る、そして未来の世代も入ります。そうした人たちが「前に、次に進む力になりたい」という思いを込めました。従業員たちには「この会社に入った時の思いがあると思いますし、お客さまのためにどうお役に立っているかって、日々の仕事の中で感じにくいこともあるかもしれませんが、もう一度自分のコトにしながらつなげていってもらえたら」と話しています。

―――従業員たちが変わってきたというのは感じられていますか?
 結構変わってきたと思いますし、お客さまから「変わったね」って言われることは増えました。ただ、これもよく言っていますが、まだ2合目~3合目ぐらいだと思うんですね、ゴールに対して言えば。パーパスが出て「挑戦するんだ。みんな褒めてくれる。いいぞ!」となっているんですけど、少しすると冷めるので。とにかく我々のカルチャーとかを変えて、自由闊達な議論をちゃんとやって、会社の強みを完全にチームとして生かせるようにしないと、これだけ変化が激しい中では生き残れないと本当に思っているので。だから、そのためにも我々は常にメッセージを出し続けて、継続していかなければならないということで、もっともっとこれからという感じですね。

日銀の植田総裁に「すごく期待しています」

―――今年4月から、日銀の総裁が植田和男総裁になりました。
 すごく期待しています。我々もよくコミュニケーションをとりたいと思っていますし、是非いろんなマーケットや我々ともコミュニケーションとってもらって、うまい舵取りをしていただければいいなと思っています。金利だけが上がるというよりかは、世の中の景気がよくなっていきながらなので、金利も上がるといういわゆる「正常化」していくと思うので。経済が上がっていくのをしっかり支えたいなと我々も思っています。

―――会社の強みはなんでしょうか?
 やはり、何と言っても「お客さま」ですね。圧倒的なお客さまの基盤を持たせていただいているので、強みはお客さまの基盤・信用・信頼だと思っています。特に、国内は本当に多くのお客さまに預金をしていただいていて、実はこのコロナ禍でも弊行の預金は24兆円から25兆円も増えているんです。これは、信頼していただいて、安心していただいて、お金を預けていただいているお客さまがガッと増えたということです。我々はそれを生かしていかないといけないと思います。グローバルにはネットワークがたくさんあるので、グローバルのネットワークと国内の基盤とを組み合わせてやっていきたいと思っています。それができるのが強みかと思います。

リーダーに必要なのは「洞察力と実行力」

―――社長として思い描く夢はなんでしょうか?
 今年6月に三菱UFJ銀行が所有していた約6万平方メートルのグラウンドを地域に開放する「MUFJ PARK」がオープンします。そこには図書施設などがあり、「地域とか社会が進むチカラになる」ために活用したらどうだろうね、というのでみんなに考えてもらいました。単純にマンションにするとかではなく、地域に開放してみんなで作れるといいね、ということで始めました。このように、いつか「世界が進むチカラになっている」状態になっていればいいなと思っています。「パーパスを体現しているなぁ、うちの会社は」と思える状況になっているといいなって思います。もっともっともっと、従業員たちの力を引き出せて、自由闊達な感じでみんなが楽しそうにしている会社になるといいなと思っています。

―――最後に、亀澤さんにとってリーダーとは?
 「洞察力と実現力」だと思っています。色々な事象が起きているので、その事象の本質をしっかりと捉えて仮説を立てて、実際に物事を実現する、実行する。その場合、もちろん決断をしてやっていく。これがリーダーに求められるものだと思っています。

■亀澤宏規 1961年、宮崎市生まれ。1986年、東京大学大学院理学系修士課程修了、当時の三菱銀行に入行。2019年に副頭取、MUFG副社長。2020年にMUFG社長。

■三菱UFJフィナンシャル・グループ 源流は岩崎彌太郎が創業した「三菱為換店」と、大阪の豪商・鴻池家が作った両替店「横浜正金銀行」にさかのぼる。2005年にMUFG統合。総資産は370兆円を超える。

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時30分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。

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