<驚きの憲法審査会から>なぜ、オウンゴールは生まれたか?
メディアゴン / 2015年6月10日 7時0分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
6月4日の衆議院憲法審査会で、安全保障関連法案について、与党+次世代の党推薦を含む3人の学識経験者(憲法学者)全員が「今回の安保法制は憲法違反に当たる」という認識を示したのには驚きました。
しかもお三方ともに四の五の言う余地もなく断言しています。これはあちこちで「自民党のオウンゴール」とか、おそまつとか、いろいろ言われています。
それにしても、なぜ自民党は早稲田大学法学学術院教授の長谷部恭男氏を推薦したのでしょうか。もしかすると、長谷部氏は昨年2014年11月に特定秘密保護法について賛成意見を表明し、「一部から『御用学者』などと批判された」ことがあるそうで、これが関係しているのかも知れません。
6月7日の毎日新聞(朝刊)によると、当初、自民党は佐藤幸治京都大学名誉教授に要請したが断られて長谷部氏に依頼したとあります。同じ記事に、佐藤教授はシンポジウムで「憲法の解釈変更で安保法制の整備を進めることには反対の立場であることを語った」とありますから、憲法審査会に佐藤氏が出席しても結果は同じだった可能性が大なのですが。
自民党が求める見解を主張される方なら駒澤大学名誉教授の西修氏が良かったのかもしれません。この方は安倍総理の私的懇談会であり、今回の安保法制の理論的支柱となった「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」メンバー13人中ただ一人の憲法学者です。この方だったら安保法制を「合憲!」とおっしゃったに違いありません。
この西教授と長谷部教授が登場する1年前の新聞記事を見つけました。2014年4月14日の毎日新聞『特集ワイド:「集団的自衛権行使は合憲」 砂川判決、根拠は「暴論」』という記事です。
昨年、安倍総理が1957年の砂川事件最高裁判決を引いて、
「砂川判決が集団的自衛権を否定していないことははっきりしている」
と主張したのですが、これは西教授の「砂川判決が言う自衛権も当然、双方(個別的自衛権も集団的自衛権も)が含まれると解すべきだ」という主張をベースにしての発言だったと言われています。
これについて、この記事の中で長谷部教授は、
「(砂川判決に)集団的自衛権を否定する文言はありませんが、だから『(集団的自衛権を)否定していないことははっきりしている』と言われても……」
「このような砂川判決の〝解釈〟は私は聞いたことがありません。まともに反論したり、議論したりすることが恥ずかしくなるほどの暴論です」
とまでおっしゃっているのです。与党のみなさんがこの記事を読んでいたら今回の憲法審査会に長谷部さんを推することはなかったでしょうね。
憲法審査会で3人の憲法学者が安保法制、とりわけ集団的自衛権が憲法違反であるとはっきりと断定したことについて菅義偉官房長官は、
「安保法制は合憲であり、『違憲じゃない』という憲法学者もいっぱいいる」
と述べました。
そりゃそうでしょう、と思って「安保法制もしくは集団的自衛権行使は合憲」という憲法学者を探してみました。しかし、筆者のググり方が下手なのか中々見つからないのです。
ようやく見つけたのは前述の西教授の他に、百地章日本大学教授、八木秀次麗澤大学教授のお二方ぐらいでした。
憲法審査会に民主党の推薦で出席した小林節慶応大学名誉教授は審査会後に記者に対し、「日本の憲法学者は何百人もいるが、(違憲ではないと言うのは)2、3人。(違憲と見るのが)学説上の常識であり、歴史的常識だ」と言い切ったそうです。なんだか筆者のググりと人数が合ってしまいました。もちろん偶然ですが。
そう言えば、6月4日の憲法審査会に先立つ6月1日の『報道ステーション』でいま売り出しの若手憲法学者、木村草太首都大学東京准教授もきっぱりと以下のように断定していました。
「憲法が認めているのは日本の自衛のための武力行使だけですから、日本への攻撃の意志のない国に攻撃をするなんて事はできるわけがないわけです。存立危機事態というのが日本への攻撃の意志のない国へ攻撃できるような条件だったら、それは違憲無効ですから政府は即座に法案を取り下げなければいけないということですし、そうではない、これは日本の自衛のためなんだというなら、きちんとこの法案では日本への武力攻撃の明白な危険がない限りは日本から攻撃を加えることはできませんと、はっきりとそういう解釈を示すべきです。ですから、これは取り下げるか、明確にそういう解釈を示すか、どちらかしか政府に道はないと思います。」
一般にテレビのコメンテーターは自説が100%正しいとばかり言い切ると様々な抵抗があるので、ある程度多様な意見に配慮した発言をするものですが、これはそうした配慮はなく、驚くほど断定的に語っています。
170人を越える憲法学者が安保法制に反対する声明を出したことや、憲法審査会の3氏の発言、そして木村草太氏のコメント、いずれもがいささかの躊躇やエクスキューズを含まずきっぱりと断言しているのは、「日本国憲法は自衛のための武力行使しか認めていない」という解釈が「説のひとつ」ではなく小林教授が言うように「学説上の常識もしくは歴史的常識」となっているからなのかもしれません。
安倍首相のブレーンであり「戦後70年談話に向けての有識者会議」のメンバーでもある宮家邦彦氏は6月5日朝のラジオで憲法審査会の人選について「おそまつ!」と断じたあと、
「(安保法制が違憲であるという見解で)憲法学者は割れていないのでは・・・」
と語っています。言外に、今回の安保法制や集団的自衛権について現在の憲法学的には〝違憲〟とされるので、この点については争えないとおっしゃっているようにも聞こえます。
では、どこで争うのか。安倍首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の座長代理・北岡伸一東大教授は、講演でこう言っています。
「安保法制懇に正統性がないと書かれるが、首相の私的懇談会だから、正統性なんてそもそもあるわけがない」
しかし、こうも主張します。
「安全保障の専門家は集団的自衛権に反対の人はほとんどいない」
そしてこちらのみなさんの多くは改憲などという手続きを踏んでいる暇はないとお考えのようです。憲法の専門家と安全保障の専門家、どちらの示す道筋が私たちを幸せにしてくれるのか、二つの道の行く末を比較できないのがつらいところです。
ドラえもんの「タイムテレビ」があれば未来が視られるのになあ。
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