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<「Dr.倫太郎」は治療倫理より愛が勝つ?>堺雅人・精神分析家は蒼井優・患者との一線を越えるか

メディアゴン / 2015年6月12日 7時10分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/社会臨床学会会員]

* * *

放送作家として、社会臨床学会々員として日本テレビの10回連続ドラマ「Dr.倫太郎」を欠かさず観てきた。今回は、社会臨床学会の会員としてとしてみたドラマの感想を記してみたい。

第9回の作品では精神疾患名として主人公の新橋芸者・夢乃(蒼井優)の実母・るり子(高畑淳子)の「ギャンブル依存症」と倫太郎の先輩医師・荒木重人(遠藤憲一)の「摂食障害」が明らかになった。

ギャンブルに限らず依存症は治すのには数年かかると言われる。有効な薬品はなく、倫太郎のような精神分析家や行動療法家、認知行動療法家といった人が心理療法で治癒を目指す。

それから、同じ悩みを持つ人たちの自助グループでの話し合いも効果的とされる。筆者の認識では自助グループが最も効果的だと感じている。

「ギャンブル依存症」は、なぜなったのかということを本人が認識することも大変大切なのだが、ドラマでは同輩芸者に客の円能寺(倫太郎勤務の病院理事長)を取られたという、駆け足の解説しかなかった。

依存症は深刻なだけにその疾患を持つるり子を、怪物のようにだけ描いているのはあまり感心しない。最終回で救ってくれるのだろうか。

荒木医師は「摂食障害」である。過食症や拒食症も含む概念である。思春期・青年期女性で有病率が高い。醜形恐怖などがあり、「摂食障害」になる女性もいる。

荒木医師はエクレアを食べ出すと止まらない過食症である。時に吐く。倫太郎は荒木医師を訪ねるとき、よく土産にエクレアを持って行っていたが、あれは、精神分析家としての何らかの深慮遠謀があったからなのだろう。その辺は精神科医の和田秀樹氏のアドバイスを受けているはずである。

さて、荒木医師が「摂食障害」になった理由として描かれるのは深いトラウマを含むストレスである。荒木医師は逆転移してしまった女性患者を自分の判断ミスで(と、思い込んでいる)死なせてしまったのである。

ここで、誤解を恐れず「逆転移」と言う言葉をもう一度説明する。精神分析家は治療しているあいだに、患者から好きになられてしまうことが往々にしてある。これを「転移」と言う。

逆に精神分析家が治療している患者を好きになってしまうこともある。これを「逆転移」と言う。

「転移」も「逆転移」も、これに陥ってはならないと、精神分析学の祖フロイト先生は厳しく、これを戒めた。その後、「転移」や「逆転移」を治療に利用しようと考える乱暴な精神分析家もいたが、これは主流ではない。

患者に恋愛感情を抱くのは精神科医師としての倫理違反である。特に倫太郎が用いる精神分析は(精神分析にもいろいろな派閥があるのだが、そのどれかはドラマでは面倒くさいから省略しているのだろう)「患者への共感的理解」が大切だとドラマ上では解説される。

「共感的理解」とは患者の言葉を「傾聴」(とにかく聴く、こちらの意見は差し挟まない)し、傾聴の結果、患者との「共感状態」(ラ・ポールという言葉の訳語である。簡単に言えば信頼されて何でも話せる状態のことである)を築くのが大切だというのである。

一般的に、女性からみれば、「自分の話に異論を差し挟まず、何でも聴いてくれる、心から信頼できる男性」なんて言うのは、現実には存在しないから、そう言う人がいたら好きになるのは当たり前です。それでも、心理療法上の「共感的理解」では、好きになられたら治療は失敗とみなされる。

だから、好きになっても、なられてもいけない心理療法上の「共感的理解」のテクニックをマスターするために精神分析家はやらねばならないことがある。スーパービジョンといって他の精神科医に自ら精神分析を受けることが義務づけられているのだ。

「共感的理解」は、つまり、精神分析家のテクニック。テクニックで語弊があるなら診療技術として、学習されるもので、本心ではいけないと言うことにもなるのである。

で、こういうことがあるから、堺雅人・精神分析家が、蒼井優・患者との一線をのり越えるのか? というのがこのドラマの見所であろうかと、思うのだが・・・。まあ、想像としては、こういうのは「愛が勝たないと終われない」のではないか。

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