<大人の事情?の「アメトーーク」>あまりにも中途半端だった「スーパーマリオ芸人」は素材の無駄遣い
メディアゴン / 2015年6月28日 7時0分
高橋維新[弁護士]
* * *
6月25日放映のテレビ朝日「アメトーーク」は「スーパーマリオ芸人」がテーマとなった。
何度も述べているが、アメトーークでは「何かをバカにする回」がおもしろくて、「何かを褒める回」がつまらない。そして、今回のように「何らかの表現作品」をテーマにした回は、すべからく「何かを褒める回」になるので、基本的にはつまらなくなる。
今回も、あまり期待せずに見たが、予想通りどっちらけの出来であった。
最初に言っておくが、筆者はかなりテレビゲームをやってきた方の人間であると自認している。世代的にもマリオシリーズにはそれなりに親しんでいるので、予備知識がないわけではない。そのような筆者から見てもおもしろくないと感じてしまったのである。
アメトーークにおいて何らかの表現作品をテーマにする場合、基本的にその作品が「すごい」「おもしろい」という形で話が進んでいく。これは、例えばある店の料理が「うまい」と褒める情報番組とか、紹介している掃除機を「すごい」と賛美する通販番組と同じ構造であって、そこにファニーさはない。
笑いというのは、通常から「ズレ」ているものをとりあげてそれを嘲る作用なので、何かを褒めても基本的には生じないのである。
何かを「すごい」「おもしろい」と賛美する場合、「インタレスティング」なエンターテインメントになる可能性はあるが、注意しなければいけないのは、大人の事情で特にすごくもおもしろくもない物をそう言わざるを得ない場合が今のテレビにはかなりあるということである。
例えば、普段ドラマにしか出ないような役者にわざわざバラエティ番組に出てもらう場合、見返りとして、その役者が出演している映画や舞台の告知を許すことは非常によくある。その場合、見返りなのでその映画や舞台をけなすわけにはいかない。そうすると、実際には大したことのないものでも「すごい」「おもしろい」と褒めざるを得ない。
スポンサーの商品も褒めざるを得ないだろうし、番組の取材に協力してもらった飲食店の料理や、通販番組で紹介する商品も褒めざるを得ないだろう。ここには、一定の嘘があるため、視聴者としても、その嘘が僅かな片鱗でも見せた瞬間に全てが鼻についてしまう。
こういう嘘を平気でつける演者(ロケに行った店の料理がまずくても「美味しい」リアクションをとれる演者)はテレビの世界では重宝され、多用される。しかし、テレビに慣れ親しんだ者ほど、いつも「すごい」「美味しい」という感想しか言わないこの手のタレントの振る舞いに辟易するものである。
今回の「スーパーマリオ芸人」も構造としては同じであろう。テレビをやるのだから、実際のゲームの映像は出さざるを得ない。そうなると、任天堂に協力してもらわざるを得ない。任天堂に協力してもらわざるを得ないから、基本的にその作成物をけなすわけにはいかない。
アメトーークにおいて何らかの表現作品をテーマにした回は、全てこのような問題を構造的に抱えている。今回唯一、マリオ自体がけなされたのは、麒麟・川島明の、
「マリオUSAという作品は、少し他のシリーズと毛色が違い、ピーチ姫もプレイヤーで動かせるので、マリオが何のために冒険しているのか分からない」
という発言である。これを言えた川島はエラいが、ここで生じた笑いは全体から見ればわずかなものに過ぎない。
結果として、笑いをとるためには「マリオ以外の何か」をけなすしかない。今回その役を担っていたのは、ゲームの知識をほとんど持っていないゲストの漫画家・蛭子能収と司会の蛍原徹(雨上がり決死隊)である。
彼らが何の知識もない状態でマリオをプレイし、ヘタクソなりに翻弄される様子をけなすことで笑いが起きていたが、これであればテーマを「スーパーマリオ芸人」とする必要は全くない。「テレビゲーム知らない芸人」でいいはずである。
現に、何らかの表現作品をテーマにした回で、この手の知識に疎い蛭子や蛍原に笑いを担わせるという演出はこの番組で多用されており、マンネリ化も甚だしいところである。
では、どうすべきなのか?
マリオ自体のおかしなところはたくさんあるので、そこをけなせば笑いはもっと起きると思われる。なぜあんなに甲高い声なのか。なぜオーバーオールなのか。配管工の分際でなぜテニスやゴルフや医者までできるのか。あくどいピーチ姫に振り回され過ぎではないか。その他もろもろ。
ただこれは、任天堂に協力してもらう以上難しいというのは分かる。ならば、むしろ「インタレスティング」の方を追究するというのも一つの手である。マリオが今までどのような軌跡をたどってきたいかに素晴らしいゲームかを紹介する本気のドキュメンタリーである。
「スーパーマリオブラザーズ」は、日本で初めてバカ売れしたテレビゲームであり、その後のゲーム業界の先鞭をつけた偉大な作品である。「プロジェクトX」のような演出でその製作過程をドキュメンタリー化することは可能だろう。ちなみにこれをやるなら、有野よりもちゃんと喋れる人にスポークスマンを任せる必要がある。
ところが今回の「アメトーーク」は、どっちをとるわけでもなく、逃げ道としてもう散々使い倒された蛭子と蛍原をあてがっただけで、「ファニー」にも「インタレスティング」にも真剣に向き合おうとしなかった。
その結果、全てが中途半端になり、「マリオ」という最高の素材が全く活かされていなかった。せっかくファアグラを買ってきたのに、子供のままごとで粘土と一緒にこねくり回され、犬も食わない生ゴミの山を築かされた感覚である。
マリオシリーズを知らない人が見たらよく分からないだけであるし、マリオシリーズを知っている人から見れば全く深みがない。
筆者は、マリオシリーズの一ファンとして怒っている。
こんな演出しかできないようであれば、もう「表現作品」をテーマにするのはやめた方がいい。どうせ、ファニーともインタレスティングともつかない、毒にも薬にもならないような映像が出来上がるだけなのである。
既に売れっ子番組になってしまった「アメトーーク」には、「うちの○○を扱って下さい」という横槍が色々と入ることは想像に難くない。ただ、これをはねのけてこそ本当の職人である。
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