<セクハラ・芸人いじり・スタッフいじり>とんねるずの「一線越えの芸」が飽きられていることは本人達が自覚している?
メディアゴン / 2015年7月7日 13時30分
高橋維新[弁護士]
* * *
2015年7月2日放映のフジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」は2時間半スペシャルであり、「めちゃ×2イケてるッ!」(フジ)とのコラボ企画も行われていた。
とんねるずの笑いの特徴は、大きく言うとたった一つである。
「一線を踏み越える」
というものである。
普通の人であれば、
「これをやったらまずいんじゃないか」
「これをやったらお客さんが引いてしまうんではないか」
と考えて踏みとどまる一線を、石橋も木梨も簡単に踏み越えてくる。この踏み越えの対象の違いによって、この特徴も細分化できる。
第一が、セクハラである。
女優やアイドルや女子アナを相手に、普通の芸人であれば、
「あとで怒られるんじゃないか」
と尻込みしてしまうようなセクハラを仕掛ける。今回過去映像として放映されていた、
「石橋が赤ん坊に扮したキョンキョンのおしゃぶりをくわえる」
というのはその典型例である。実際には怒って降板した女性タレントも過去にいるだろうし、クレームも結構な量が入っているだろうから、今も放送されるのは「被害者」の側の女性タレントが笑って許したようなものに限られている。
逆に言うと、とんねるず相手に大らかになれる女性タレントは、バラエティで仕事の道が開けるということでもある。
第二が、芸人いじりである。
いじる対象とした芸人を殴り、蹴り、湯水をかけ、無茶ブリをする。こうやってリアクションがとれるような絡みをしてくれるうちはまだいい方であり、もっとひどくなると無視したり、ロケの現場に置き去りにしたりする。
最近よくターゲットになっているのはダイノジの大地洋輔とハライチの岩井勇気である。普通の人からすると
「ここまでやるとさすがに可哀想ではないか」
と考える一線を簡単に踏み越えてくる。
ちなみに、とんねるずは脇をこういういじれる芸人で固めているが、彼ら自身(特に石橋)が吉本嫌いなところがあるためか、「非吉本芸人」が多く起用される。
現在の代表的なところは、有吉弘行(太田プロ)・バナナマン(ホリプロ)・おぎやはぎ(人力舎)・TIM(ワタナベエンターテインメント)・ずん(浅井企画)などである。
とんねるずの番組でいう「関東芸人」とは、「非吉本芸人」のことである(広島出身の有吉なども混ざっており、「関東」という括りでは捉えにくい)。吉本芸人は、よっぽど彼らにハマるか(中川家礼二・博多華丸・次長課長の河本など)、よっぽど彼らを慕っていない限り(ナイナイ・山本圭壱など)、彼らの番組では使われない。
第三が、スタッフいじりである。
通常であれば芸人相手にしかできないようなことをスタッフみたいな一般人にも容赦なくやってのける。普通の人なら、
「素人相手にこんなことをやっていいのだろうか」
「素人にこんなことをやって果たしておもしろくなるのだろうか」
と考えて踏みとどまるところを、彼らは踏みとどまらない。今回も、「弦さん」というディレクターが木梨の手によって水に落とされていた。
あとは、細かいものは色々とある。番組が用意したゲームのルールを無視する。コントの設定を守らない。飲食店にロケに来ているのに出されたものをけなす。質的に見ても、殴る蹴るといった暴力の程度はかなり強い。
とんねるずの2人は、クレームが来ようがスタッフから怒られようが20年以上に渡ってこの姿勢を貫き通したため、この「一線越え」を芸風として確立してしまった。
その結果、視聴者は画面上にとんねるずを見たときに、「ある程度無茶苦茶をやるのだろうな」という予想ができるようになって、彼らが暴れてもそれを芸風として幾分許容するようになった。それゆえ、彼らは20年以上にわたりテレビに出続けた。これは、同じ「一線越え」を芸風とするビートたけしにも同じことが言える。
当然、この芸風には問題点もある。
第一に、いくら視聴者が許容しているとはいえ、とんねるずに慣れていない人もいるだろうから、見ている方を引かせてしまう危険性は常にある。クレームも少なくはないだろう。
第二に、とんねるずが芸人やらスタッフやらをいじる構図に、多少イジメの要素が垣間見えてしまう。石橋も木梨も他の芸人がやるような無様な仕掛けには付き合わないので、余計にこの構図が際立ってしまう。現に彼らは今回の全落でも、芸人のくせに「落ちる」側には一切回っていない。
細かい話をすれば、石橋と木梨にも若干の違いはある。実のところ、木梨は石橋よりもカッコつける傾向があり、石橋よりもいじられることを忌避している感がある。
先日個展なんぞを開いていたのもこのカッコつけの一環であろうし、「みなさん」の最近の回では、「イタ飯」という古臭い言葉を使ってしまったことを石橋からいじられて、本気で嫌がっていたのが記憶に新しい。
普段は芸人をいじる側に回っている石橋の方が、イメージに反して自分に対するイジリにも寛容である。この点では石橋の方がプロ根性を備えていると言える。
最後の一つは、最も根本的な問題であるが、笑いがワンパターンになってしまう。
「一線越え」が笑いを産む可能性を秘めているのは、当然笑いの対象になるズレがあるからである。筆者の原稿では何度も述べているが、笑いは、ズレから生まれる。男なのに女の恰好をしているとか、アフリカ出身のくせに運動音痴であるとか、強面なのに声が甲高いとかである。
一線越えにあるズレは「越えてはいけないラインを越えている」というズレであって、これは全てに共通している。だから、何度もやっているうちに見ている方に飽きられる。
勿論、ワードセンスや動きのセンスで細かいバリエーションを出していくことは可能である。芸人いじりも言葉巧みに行えば、視聴者を飽きさせない。
ところがとんねるずの2人には島田紳助や松本人志ほどのワードセンスがあるわけでもなければ、宮迫博之や岡村隆史のような演技力や身のこなしがあるわけでもない。結果として、常に一線の飛び越え方がワンパターンになる。同番組企画「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」でも、とんねるずは基本的に笑っているだけで、おもしろいことを一切言わない。昔は一世を風靡していた仮面ノリダーも、当時は子供には人気だったのかもしれないが、今見ると何がおもしろいのかさっぱり分からない。一応、石橋は色々なスポーツの知識を持ってはいるが、マニアックすぎるきらいがあるためバラエティでは生かしにくい。
「一線を軽々と超える」以上の芸はとんねるずにはないのである。
それはすなわち、彼らの芸人としての耐用年数ももうとっくに過ぎているということでもある。実際、現在の彼らのレギュラー番組は「みなさん」一本になっており、全盛期のような露出はもうない。
本人たちも自らが全盛期を過ぎたことは自覚しているだろうから、だからなんだというわけではない。
さて今回の2時間半スペシャルだが、とんねるずのこの特徴がいい意味でも悪い意味でも全面に出ていた。
2本立ての企画のうち、1本は「みなさん」をディレクターとして支えてきた港浩一が制作会社の社長になったことをお祝いし、過去のVTRを流すという内容だった。石橋による石田EP(ダーイシ)のモノマネ、木梨による港のモノマネはこの番組で何度も目にしており、スタッフいじりという特徴がよく出ている。
普通の人なら「こんな内輪ネタをやってもいいのだろうか」と踏みとどまるところなのに、とんねるずはこれをしつこいぐらいに繰り返し、視聴者に知識を与えて「内輪」に巻き込んでしまうのである。過去のVTRに出ていた宮沢りえやキョンキョンに対するセクハラも彼らの面目躍如である。
もう1本は、この番組で何度もやっている「全落」であり、出演者を落とし穴に落とすという古典的なドッキリ企画である。このコンセプト自体は古臭いので論ずるレベルにはないのだが、その中でとんねるずは様々な芸人いじりやスタッフいじりを仕掛ける。
前述したように仕掛け人のスタッフを落としたり、(今回はあまり見られなかったが)一部の芸人を落としもせずに無視したりする。でも、自分たちは一切落ちないというのは前述の通りであり、安全な位置から芸人を苛めるとんねるずの態度は終始鼻につく。
まとめると、今回の放送もいいところも悪いところもあったが、全部今までにやってきたものと何ら変わりはない。全く、新鮮味はない。
石橋は過去に「もうテレビから必要とされなくなったらしがみつくつもりはない」という趣旨の発言をしていたので、本人たちはそれでいいのかもしれない。テレビで好き勝手暴れてこれだけ稼げたのだったら文句はないだろう。
一線級のプロで居続けるには、視聴者に飽きられないように常に新しいことを考える必要がある。それは、とても大変なことなのである。
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