<夏の風物詩「おまつり」がつなぐ日本の絆>「阿波踊り」にあわせて帰省する徳島の若者たち
メディアゴン / 2015年7月11日 8時47分
黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]
* * *
先日、たまたまつけたテレビで、北海道「YOSAKOIソーラン大賞」の受賞演技を観た。札幌の新たな風物詩となる「市民の祭り」を目指し、1992年に始まった、YOSAKOIソーラン祭り。札幌市内各所に設けられた桟敷での練り歩きとともに開催されているのが、この「YOSAKOIソーラン大賞」なのだそうだ。
高知県の「よさこい祭り」をルーツとしているだけあって、どのチームも、躍動感あふれる演技で、観客を魅了していた。色とりどりの法被(ぱっぴ)姿が大地を駆け巡り、鳴子片手にソーラン節のリズムに合わせて、北の大地北海道を表現する。
高校の体育祭の応援合戦を彷彿とさせる懐かしさを感じつつ、みなぎるパワーに圧倒された数十分だった。
若い人たちが、日本の伝統装束の法被を身にまとい、民謡のリズムに合わせて、壮大な日本の風土と漁業を身体全体で表現するさまは、すばらしかった。
筆者の住む町、徳島にも「阿波踊り」という郷土芸能がある。5月、6月になると、夕方過ぎから町のあちこちから、「ぞめき」(阿波踊りのメロディー)が聞こえてくる。阿波踊りの練習が始まるのだ。生まれた時から徳島に住む筆者にとって、この「ぞめき」が聞こえてくると、「今年も夏がやってくる」と感じる。「ヤットサー、ア、ヤットヤット」一緒に踊り出したくなる。
徳島は、地元大学の学部数が限られており、毎年、多くの高卒生が進学とともに県外に出ていってしまう。就職を機に、そのまま県外に住み着いてしまう人も多い。どこの地方都市にも見られる「人口流出」の典型的な形だ。
ただ、阿波踊りのおかげで、徳島の若者が毎年、夏のお盆の時期(阿波踊りシーズン)に帰省してくる確率は、けっこう高い。徳島で幼い頃から「連」(阿波踊りのチームのようなもの)に所属して踊っていた子供たちは、東京に進学後も高円寺阿波踊りの姉妹連に所属して、躍りを続ける人も多いと聞く。
阿波踊りを続けたいから、進学先は徳島か東京、と言う生徒もいるぐらいだ。そして、彼らは、阿波踊りシーズンに合わせて帰省し、地元の夏を満喫し、エネルギーを充填している。
連に所属していなくとも、旧友に会うために阿波踊りシーズンに合わせて帰省する人も多い。おかげで、徳島という田舎に住む祖父母たちも、お盆には孫の顔を見ることができている。
かつて「祭り」は文字通り、祭事であった。それぞれの土地の神社において、五穀豊穣を祈る神事であった。農耕民族であった私たちの祖先にとって、祭りは大切な年中行事であり、地域社会をつなぐ絆の象徴でもあった。
現在、放送されているNHK朝ドラ「まれ」においても、能登の元治さんは、祭りに命をかけており、東京の息子に「祭りの日は帰って来い」と電話をかけている。
今、夏の観光スポットともなっている全国の「お祭り」は、昔とはずいぶん形を変えて、神事のイメージは薄くなってしまったかもしれない。けれど、地方のコミュニティを守る、つなぐ役割は、もしかすると、昔以上に果たしてくれているのかもしれないと思う。
徳島は、阿波踊りのおかげで、けっこう地域社会のつながりが強い。若者の帰省に一役買っている。阿波踊りに魅せられたという理由で移住してくる人も、いくばくかは生んでいる。
顔を合わせてのコミュニケーションがどんどん希薄になってきている現代だからこそ、ふだんはまったく違う仕事をして、生活上の交わりのない人たちが、同じ目的のために、皆で集まって、心を一つにし、集団美を作っていく様は、当事者のみならず、観客の心をも魅了する。
「阿波踊り」しかり、隣県の「よさこい祭り」しかり、ソーラン大賞もまた、見事な集団美であった。こうした祭りが、日本社会に及ぼす影響は、計り知れない。
今年もまた、阿波踊りの季節がやってくる。踊り子の浴衣姿、町に吊された提灯、沿道の桟敷、屋台の綿菓子、三味線や笛、太鼓のお囃子。そこには、年齢、性別を超えた、人の絆と笑顔が輝いている。
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