<ほとんどの日本人の意志?>新国立競技場の見直しと安全保障関連法案の是非
メディアゴン / 2015年7月14日 7時0分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
筆者はラグビーが大好きで「Sky・Asports+」というCSチャンネルで年間100試合近くを視ています。しかし、ラグビーをやったことはありません。あのスポーツは、ひ弱な上に根性なしの筆者にはとうてい無理です。
ボールの奪い合いは、球技とばかり言えないまさに「格闘技」です。フォワードと言われる体格の大きな選手たちは、スクラムを押し合い、ボールを奪うために相手と組んずほぐれつの格闘戦をひたすら繰り返します。一試合で一度としてボールに触れないことすら珍しくないのに。
一方で小柄でやせっぽちの選手だって全速力で走ってくる巨漢相手に何ひとつ防具を着けないままでタックルに飛び込まなければなりません。ラグビーこそ勇気のいるスポーツです。
就職試験の面接で、好きな言葉は? とか、座右の銘は? という質問に
「One For All, All for one」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)
と答える方が時折います。この言葉はラグビーという競技を表すよく知られた二つの言葉のひとつで、泥臭いラグビーにとてもふさわしい言葉のように思えます。ラグビーではたとえ自分はボールに触れることさえなくても、一人がトライをとるためにガンバリ続けるのです。
日本ではメジャースポーツとは言えないラグビーのワールドカップが東京オリンピック・パラリンピックの前年、2019年に日本で開催されることが決まっています。
しかし、最大の問題はそのメイン競技場が新たに建設される新国立競技場であることです。その新国立競技場の建設費が当初予算よりとんでもなく膨らみました。
そもそも2012年のデザインコンペで示された当初予算の1300億円ですら直近のロンドンオリピックのメイン競技場建設費の約2倍ですから、元々べらぼうなうえに、いまや2520億円の建設費が見込まれ、さらに改装費や維持費も…、、というのですから、そんな計画は見直せと大騒ぎになっているのはご承知のとおりです。
国会でも、辻元清美議員が安倍総理に質問すると、安倍総理が「私も辻本さんと同じように考えたことがあった」と同調する珍しい場面も。それでも安倍首相は「今から変更しては期限が間に合わないので」と答えるに留まっています。
期限が間に合わないというのは、オリンピックに間に合わないのか。それとも、ラグビーワールドカップに間に合わないのかがはっきりしないのですが、今決めて間に合うのなら、計画を見直して1年後に決めてもラグビーワールドカップには間に合わなくともオリンピックには間に合いそうな話です。
ラグビーワールドカップは全国12カ所で試合が行われる予定です。開幕戦と決勝戦は6万人以上の観客収容能力が求められていますが、新国立競技場だけではなく横浜国際総合競技場もその要件を満たしています。
ならばラグビーワールドカップは横浜国際総合競技場をメインとしてやれば、となるのですが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長である森喜朗元総理がつい先日まで日本ラグビーフットボール協会会長であったためなのでしょうか、かなり強引に現状のままの建設が進められようとしています。あたかも1000億円程度のお金はなんということもない、といった感じです。
しかし世論は違います。7月はじめの読売新聞の世論調査で、「あなたは、国立競技場の建設計画を、見直すべきだと思いますか、そうは思いませんか。」という質問に対して「見直すべきだ」と答えた人が81%でした。80%を越えれば、「ほとんどの日本人の意志」と同意語でしょう。
「ほとんどの日本人」にはラグビー選手や関係者も多く含まれるはずで、有名なラグビー選手からも声があがっています。同志社大学から神戸製鋼で活躍し日本代表経験もある平尾剛氏がツイッターでこうつぶやいたのです。
「新国立競技場。スポーツに携わる者として元ラグビー選手として、これまでかなり自制してきたけれどもう辛抱たまりません。おかしいでしょ! やっぱり。あんなスタジアムに頼らずとも開催する方法を探ればいいだけの話ちゃいます? 声、あげませんか、スポーツ界の中から! こんな不条理は断じて許せない。」
ラグビーには「One For All, All for one」のほかにもうひとつよく知られた言葉があります。元フランス代表、ジャン・ピエール・リーブ氏の言葉です。
「 Le rugby permet aux enfants de jouer comme des grands et aux adultes de redevenir des enfants. 」(ラグビーは少年の心を大人にし、大人にいつまでも少年のような心を抱かせてくれる)
自己流に解釈すれば、「ラグビーは少年に人生の厳しさや忍耐を教え、大人には少年の純粋な気持を持ち続けることの素晴らしさを教えてくれる」と言った意味でしょうか。
大人になっても、もし少年のような無垢な心を持って見るならば、「ほとんどの日本人」が見直すべきと思っているような新国立競技場でプレイすることはラグビー精神とは相容れるのでしょうか。ラグビーはそんな馬鹿げた入れ物でやらなくてももともと素晴らしいスポーツなのです。
「あんなスタジアムに頼らずとも開催する方法を探ればいいだけの話ちゃいます?」
という平尾剛さんの言葉は、そんなラガーマンの純粋な気持と誇りを示しているように思えるのですが。
ところで、同じ読売新聞の世論調査で80%以上の回答があったもうひとつの質問項目がありました。質問項目はこうです。
Q. 政府・与党は、安全保障関連法案の内容について、国民に十分に説明していると思いますか、そうは思いませんか。
そして、その質問に対する答えは以下のようなものでした。
1. 十分に説明している 13%
2. そうは思わない 80%
3. 答えない 7%
「そうは思わない 80%」。これも「ほとんどの日本人の意志」ということだろうと思います。さて、民主主義の国で、ふたつの「ほとんどの日本人の意志」はこれからどう扱われてゆくのでしょう。
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