<ザハ作品の本質を理解しない批判に疑問>安藤忠雄氏は新国立競技場の採用理由を説明できるか?
メディアゴン / 2015年7月16日 7時10分
岩崎未都里[学芸員・美術教諭]
* * *
ますますヒートアップする新国立競技場を巡る論争。
2012年11月に国際デザイン・コンクールが実施され、英国の設計事務所、ザハ・ハディド・アーキテクトの案が基本デザインとして採用。なぜ、五輪開催決定の前に決めてしまったかといえば、2019年のラグビーワールドカップの会場として使うことが決定しており、五輪招致の成否にかかわらず建設する必要があったからです。
この新国立競技場の建築のデザインを巡る論争は、予想をはるかに超えた巨額の建設費用、その原因とされるザハのデザインが批判の対象になっています。
しかし、学芸員の筆者から見ると「ザハの作品の本質を理解しないで批判されていること」がとても気になります。
筆者がザハ・ハディドの作品を実際に初めて観たのは、シャネルの「モバイル アート展」のための移動パビリオンです。ザハの建築作品を賞賛してやまないカール・ラガーフェルドが「私のためにパビリオンを設計してほしい」と求め、ザハは柔らかく艶やかな流線型の未来的なパビリオン「アートコンテイナー」をデザインし、応えたのです。
シャネルのキルティング・バッグをモチーフに、各国の著名なアーティストが制作した作品を展示する移動美術館として、2008年に香港、東京、ニューヨークを巡った「アートコンテイナー」は移動した先のどんな都市の環境にも負けない圧倒的な存在感を発揮していました。
筆者は東京の会場である代々木公園で、実際に眼にした時の驚きは、今も鮮明に覚えています。まさに代々木公園に舞い降りた宇宙船でした。景観との調和ではなく、圧倒的な存在感が、ザハ ハディドの建築の魅力なのです。
館内に一歩踏み込めば、そこはザハならではの流れるような曲線が織り成す、まるで人間の体内のような有機的な建築構造、建物に飲み込まれる感覚は初めてのことでした。
ザハ・ハディドは1950年イラク・バグダッド生まれで、英国を拠点に活動する女性建築家。ステレオタイプ(固定観念)が死ぬほど嫌いで、10歳からわざわざ変な服だけ選んで着ていたというアーティスト気質。それゆえ長らく「アンビルトの女王」として知られてきました。あまりに斬新な現代アートのような過激なデザインと妥協を許さない設計姿勢であったため、実際の建築として実現できなかったのです。
ザハが「アンビルト」のレッテルをはがすことができたのは、コンピューターCADの解析技術が進み、複雑な流線型形状の構造計算が短時間でできるようになったことが大きいと言われています。最近ではローマの国立21世紀美術館(2010年)やロンドン・オリンピックの水泳競技会場(2012年)が大胆な流線形のデザインで話題となりました。そして次回作が日本の新国立競技場です。ザハは今回も流線形のスタジアムを提案。
「神宮外苑の景観になじまない」「日本らしさはどこにあるのか」といった声も出ていますが、彼女の持ち味は「ロケーションになじまない圧倒的な存在感(違和感)」なのですから、それを選出者は説明する義務があります。
デザインの採用を決めた審査委員会で委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏が、7月16日にも東京都内で記者会見する方向で調整しているそうですから、是非とも審査基準を拝聴させていただきたいところです。
筆者は、ザハのオリジナルデザインから、予算的に改変された現状のデザインのほうが問題だと思っています。「ザハ建築の流麗さが無くなり、何だかアニメキャラ的な二次元臭さを感じるな」と、思っていたら、早速SNSツールなどネット上で改変後の新国立競技場「カネゴン」や「宇宙船」になっているコラージュ画像祭りになっていました。
よほど、コラージュしたオタクの皆さんのほうが本質を突いているかもしれません。
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