<バラエティーに侵食されたノンフィクション>「町歩き」は話芸のない芸人が「ただ町で人と話すだけの番組」ではない
メディアゴン / 2015年7月24日 11時33分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
「ノンフィクション」といわれるジャンルの番組はどんどん姿を変えてきた。いまや、独立したジャンルとしてノンフィクションなどというものはなくなったようにも感じられる。
ノンフィクションが退潮しているのではなく、実に多くの番組の中で取り入れられてしまったのだろう。
たとえば「町歩き」という手法は一昔前にはノンフィクションの手法だったが、いまやバラエティーの手法になった。ぶっつけ本番がバラエティーにとって格好の刺激になり、そこからネタを求めるのではなく、リアクションそのものが番組の目的になっている。
かつて「町歩き」は何かネタと遭遇するための方法だった。ネタの良し悪しが番組の命だった。だから歩く人の資質よりネタの資質のほうが問われた。
だが今はネタがどうのうこうのより歩く人が誰かが問われる。「町歩き」は目的に向かって進む道中だったが、今は目的地が余り意味を持たなくなった。
以前、こんな「町歩き」の番組を見たことがある。大阪は堺の話だったと思うが、歩いてみると井戸があちこちにある。深い井戸が多く、水もきれいだ。野菜を洗ったり、冷たく冷やすために浸けていたりする。
井戸を覗いてみると井戸の水が流れているように見える。普通は湧いてくるものだが、その井戸は違う。何故、流れいるのか? 番組は疑問を追っていくことになる。この辺に川は無いか? 誰に聞いても無いという。だがかつて川があったことが明かされる。それもずいぶん昔の話だ。豊臣秀吉の時代である。
秀吉は川の氾濫が続くので川の流れを変えたのだ。淀川の治水工事である。その影響が今も堺には残っているという。現在の淀川は大阪市内へ流れていくが、地下では秀吉の時代のまま堺に向かって流れている。淀川は暴れ川だったから、他にもいくつもの流れがあるのだろう。
今も数は少なくなったが、このようなテーマの番組も残っている。昔も今も変わらないのは、こういったネタを探すのは大変だということだ。もちろん時間もかかる。
作り手側からすると、「こんなネタをどう自然に見せるか」を考えるものだ。いきなり秀吉の治水の話を見せられても興味はわかない。見ているうちに自然に引き込んでいく、そんな手法をとろうとする。ネタが番組のうちの一番大事な部分だと思っているからだ。
ネタに合わせて「町歩き」をするために、時にはさまざまなロケ現場を歩くこともある。一日では終わらずに何日もかかる。衣装をそのネタの収録が続く限り換えられないということにもなる。
だが、バラエティーになると違ってくる。こんなネタに寄りかかることは出来ない。勝負は話芸である。ネタにスケジュールをあわせることなど出来ない
それでもバラエティーはどんどんノンフィクションの領域に入ってきた。ネタに打ち勝つような話芸はそうできない。興味を引っ張り続けることは難しい。ノンフィクション番組が衰退して行ったのではなく、他のジャンルに侵食して行ったのだ。
いや、取られていったというほうが適切だろう。事実には実に面白いものがあるものだ。
だがこうも言える。バラエティーに持っていかれた手法をノンフィクションの手法と間違えてはいけない。「町歩き」は周到な準備が必要なのだ。バラエティーがうまくやっているからといって、これをノンフィクションの手法と混同すると、ノンフィクションは細っていく。
ぶっつけ本番などという物は導入部分でしかない、本記であってはならない。自然さを求めるために生み出した、イントロでしかない。許されるのは話芸がある人のぶっつけ本番だけだろう。ちょっと増え過ぎたような気がするが。
ぶっつけ本番の番組は難しいのだ。独特の話芸が必要だ。だが、最近話芸も何もない人がただ町で人と話すことだけの番組も多数見かけるようになってきた。こんな番組は見ているとすぐにチャンネルを変えてしまいたくなる。
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