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笑いと感動の両取りを狙った「めちゃイケ」大久保佳代子の27時間マラソンは中途半端

メディアゴン / 2015年8月10日 10時22分

高橋維新[弁護士]

* * *

2015年8月8日のフジテレビ「めちゃ×2イケてるッ!」について。

前週が放送休止であり、今回が「27時間テレビ」明けの初回である。内容は「27時間テレビ」の「大久保佳代子の27時間マラソン」の特集であり、27時間テレビの焼き直しであった。

基本的には、視聴者に一度見せた映像を編集し直しただけなので、手抜きと言われても仕方ない。思い返せば、4年前の2011年の「めちゃイケ」メインでの「27時間テレビ」も明けの初回は矢部浩之の「マラソン特集」だったと記憶している。この時から進歩がないのは遺憾極まりない。

さて、以前も述べたが、「大久保マラソン」は、「笑い」と「感動」を両奪りしようとして、どっちつかずになっていた中途半端な企画であった。

過去にも、「めちゃイケ」がメインを張った「27時間テレビ」は2回放映されている。

この2回では、加藤浩次(2004)と矢部浩之(2011)がマラソンを走った。2004年の加藤マラソンは基本的にお笑いが志向されていたが、2011年の矢部マラソンは何がやりたいのかよく分からなかった。矢部マラソンの反省を活かして軌道修正をしてほしかったが、今回の大久保マラソンも中途半端に終わってしまった。

具体的な話をする。

27時間テレビにおけるマラソンは、基本的に他の企画の合間合間に中継が入るという形で放映されている。今回の大久保マラソンも、過去の加藤マラソン及び矢部マラソンも、全てこの形で模様が伝えられていた。そして、大久保マラソンでは、中継が入るたびに、基本的に他の芸人が絡んでミニコントが行われていた。

コントのコンセプトは、「大久保がマラソンランナーをやるに当たって事前にスタッフに出していた要望を、大久保の想定とは違う形で叶える」というものである。大久保が出していた要望は、以下の5つである。

1. メイク直しをきちんとしてほしい
2. 親友が帯同してほしい
3. 汗をかいたらお風呂に入りたい
4. 好きな音楽を聞きたい
5. ドラマチックに演出してほしい

ところが番組側は全く大久保の希望に沿ったことをやってくれない。

メイク直しをやれと言ったのに、アラーキーや角刈りのおっさんのメイクを施されてしまう。お風呂に入りたいと言っているのにダチョウ倶楽部から熱湯風呂に入れられる。好きな音楽を聞きたいと言っても出てくるのはモノマネ芸人の偽者(ダイノジ大地・山本高広・清水ミチコ)ばかりである。「ドラマチックな演出」も、ドラマ「101回目のプロポーズ」のワンシーンが再現されるかと思ったら、武田鉄矢に扮していたのが大久保の実兄だった。ずっとついてきた親友も、「平田さん」というインパクトのあるおばちゃんを筆頭としたコント要員が主であった。彼女たちも、一緒に熱湯風呂に入れられるなどして笑いを生み出すための人員に過ぎない。言うまでもないが、「平田さん」は実際の大久保の友人ではなく、仕込まれたプロだろう。

このコントで「ボケ」ているのは、番組とスタッフである。番組が「大久保の要望を全然叶えられていない」という「ズレ」を作っている。

これを視聴者に分からせるには、事前に「大久保の要望が何であるか?」をしつこく周知する必要がある。前述1.から5.までの要望を、ある程度の時間をかけて説明するのである。これを、「フリ」という。

詳細は別稿を参照していただきたいが、フリとは、ボケに先立って「通常の状態」がなんであるかを説明あるいは設定して、ボケにおける「通常の状態からのズレ」をわかりやすくするための技術である。

普段の「めちゃイケ」なら、木村匡也のナレーションとともに1.から5.までの要望が説明される映像が放映されたはずであるが、今回は大久保中継を担当していた西山アナがコントの直前も直前に(中継に入ってから)「大久保が事前にこういう要望をしていた」と簡単にしゃべっていただけであった。

すなわち、フリが甘かったので、大久保が変なメイクを施されたり熱湯風呂に落とされたりしてもそれがズレているというのが分かりにくかったのである。大久保の事前の要望が希薄な方しか伝えられていないから、番組がやっていることが大久保の要望からズレているというのも分かりにくいのである。視聴者としては、大久保がひどい目に遭う様子を見ても何が何だか分からず、ポカーンとするばかりであった。

もちろん「ツッコミ」が入ればまだ救いようもある。ツッコミは、当然自分の要望が叶えられていない大久保の役割である。彼女が「全然アタシの言っていることと違う!」とキレればそこで笑いの芽が生まれるのだが、大久保はマラソンランナーで疲れているのでちゃんとしたツッコミができる状態にはないし、できていなかった。

マラソンで疲れている大久保にはツッコミを期待できないことが事前に分かっているはずである。ランナー大久保にツッコミをやらせる必要があるコントのコンセプト自体に無理があるのである。その割に、フリも甘い。何から何まで中途半端なのである。

そうすると、大久保マラソンの存在意義を説明するためには、「感動」志向の企画だという方向に逃げざるを得ない。結果的に、「笑い」か「感動」かという意味でもどっちつかずになることは不可避だ。

それでも、今回の映像はきちんと編集がされ、生放送のグダグダ感はある程度消えていた。いったん生放送用に撮ったものを編集しているので、最初から完全に収録で作った映像と比較すると若干グダグダしているのだが、編集を通しておもしろいところが抽出できていたし、おもしろい発言には効果的な字幕も入っていた。例えば、平田さんが初登場して自己紹介の時に発した「平田です」という言葉には大きな字幕が入っていたが、大きな字が平田さんというキャラクターのインパクトを増して、笑いを助けていた。この字幕は、27時間テレビの本放送時にはなかったものである。

「編集をした結果おもしろさが向上した」ことが信じられない人は「27時間テレビ」の本放送の大久保中継を全部つなぎ合わせたものと、今回放映されためちゃイケを見比べて欲しい。絶対に後者の方がおもしろいはずである。

最後に、光浦のナレーションはヘタだったので、彼女にナレーターを任せた意図はイマイチ伝わってこなかった。

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