<NHKオンデマンドで見て再認識>NHK「にっぽん紀行」にココリコ遠藤は要らない
メディアゴン / 2015年9月4日 7時0分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
先日、新聞を読みながら、何気なくNHKテレビを見ていた。よって、ちゃんと見たわけではない。しかし、あるシーンで筆者の目は釘付けになった。
番組は「にっぽん紀行 同じ空見上げて 大阪千里川土手」。8月24日夜7時30分からの30分番組である。
この番組は不定期の連続で放送されているらしいが、見るのは初めてである。いわゆるルポルタージュに属する番組である。ルポルタージュとは、ドキュメンタリーが時に仕掛けて内面に踏み込むのに対し、観察による報告という側面が強いものだと思っている。
番組の内容はこうだ。大阪空港(伊丹空港)の脇を流れる千里川の土手には、頭上を間近に飛ぶジェット機を見ようといろいろな人がやってくる。そこで取材を始める中で、カメラがとらえた人たち。
「土手のおかん」と呼ばれる50歳の園部さんは、集まる人たちにどんな飛行機がやってくるか時刻表で確認して教えるのが役目である。夫の浮気が原因で離婚して以来、鬱病で入退院を繰り返している。娘二人は養護施設で育てざるを得なかった。現在は娘たちは巣立ち、ひとり暮らしである。
「土手のおとん」と呼ばれるのは62歳の矢野さん。矢野さんは自動車修理の仲介業をしながら両親と3人で暮らしている。矢野さんは会社を抜けだして土手にやってくるので、いつもネクタイ姿だ。直腸がんと闘っている。
「土手ドル」と呼ばれる29歳の矢田さんは地元佐賀で美容師になって就職したが、堪えきれずすぐに辞めて、大阪に出てひとり暮らしだ。3人はなぜ飛行機を見に来るのか。
筆者の目が釘付けになったのは、次のようなシーンだ。矢田さんが、なぜ、土手に飛行機を見にやってくるかと話し出したときのことだ。
「ここに来れば同じ空を見上げる仲間がいる」
新聞を読みながらの「ながら視聴」だったのに、なぜこんなに詳しく書けるかというとNHKオンデマンドで購入して見直したからである。見直して分かったことは、余計なことやものが、番組にいろいろと挿入されていることだ。
上記3人の主人公がいれば、余計なものを入れずに番組をつくれることが、手練れなら分かるだろう。
しかし、番組には芸人のココリコ・遠藤章造が案内人という肩書きで出演していた。これがまず余計だ。冒頭でこういう趣旨のことを言う。
「豊中生まれでよく土手に来た」
「今でも、大阪に帰ると土手に来る」
「飛行機が大好きだ」
「飛行機が大好きな僕が土手で出会ったもうひとつの物語を見てもらう」
これは、嘘ではないが嘘である。はっきり嘘だと分かるのは「案内人」というスーパーである。遠藤は千里川土手に来たのは上記コメント収録のためであって、ここに集まる人々を取材したわけではない。案内人というより「枠付け人」である。
こういう「枠付け人」は、視聴率を取らなければならない(枠を付けたからといって、視聴率が上がるわけではない。営業のプレゼンをするときにスポンサーを騙す材料になるのが関の山である)民放では腐るほどある。しかし、NHKではいらないだろう。
遠藤が案内人を務めているからか、ナレーションも遠藤である。遠藤の「かけがえのない」とかいう美辞麗句が聞こえてくると途端にしらける。「かけがえのないことだ」と言うことは、ナレーションが語ることではなく、視聴者が感じることだ。
これは何も遠藤が悪いわけではなく(ナレーションが下手だ、と言う責任はあるが)キャスティングした方が悪い。遠藤に出演料を払う分を編集費に充てた方がよい。
それに「花は咲く」のBGMが繰り返し流れてうるさい。
「いい番組だなあ」と思って視聴したのにNHKオンデマンドで再度見たためにこんなことになってしまった。余計なことをしなければ良かった、というわけだ。
こういうルポルタージュ番組は、かつて「そこが知りたい」(TBS)など、民放にもいくつかあった。そこには熟練のディレクターが沢山いた。
いま民放でルポルタージュが編成されることはまずない。視聴率が取れないからだ。そういうことで民放にはルポルタージュが撮れるディレクターがもう、いない。
上記の番組を見る限りNHKにはまだ素材を見つける能力のあるディレクターはいるようだ。ただ、良い素材を見つけたら素材そのものを大切にすることだ。
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