NHK「LIFE!」でわかるウッチャンナンチャン内村がテレビでコントをやってはイケない理由
メディアゴン / 2015年9月6日 6時50分
高橋維新[弁護士]
* * *
2015年9月3日、内村光良(ウッチャンナンチャン)をメインに据えたNHKのコント番組「LIFE!~人生に捧げるコント~」(以下「LIFE」)が放送された。
現在、地上波から「コント番組」と銘打ったコント番組はなくなりつつある(http://mediagong.jp/?p=1028)。現在コント番組ということを前面に出している「コント番組」をやっているのは、この内村のほかには、志村けんぐらいのものである。
なぜコント番組が少なくなったか。
端的に言えば、おもしろくないからである。もっと正確な言い方をすると、「コント番組」より確実におもしろいものが他にあるからである。
コント番組というコンセプト自体が内包するジレンマとして、「この番組はコント番組です」と銘打ってしまうと、視聴者が「今から画面の中でおもしろいことが起こるのだな」と期待してしまい、ハードルが上がってしまうというものがある。
これを回避するためのひとつの手段が、コント番組であることを隠してコントを行う「ドキュメンタリーコント」である。このドキュメンタリーコントという手法は、「めちゃイケ」や「ガキ使」に典型的に見られる(http://mediagong.jp/?p=1028)。
ここまでに述べたのはコント番組全てに共通する問題だが、内村のコント番組には内村のコント番組特有の問題点がある。
台本がガチガチ過ぎる(ように見える)のである。
内村は、芝居が巧い。演技力が高い。元は演劇の修業をしていただけあって、本職の役者に匹敵するほどに巧い。だから、台本を忠実に守れる。監督や脚本家の要求を過不足なくこなすことができる。コントにかける姿勢も真摯であるため、台詞も一字一句正確に覚える。
「芸人」と呼ばれるジャンルの演者は、演技力や芝居に対する真面目さの振れ幅が大きく、内村ほど芝居が巧い人(宮迫博之・岡村隆史・田中直樹・塚地武雅など)もいれば、そこまででない人もいる。内村ほど真剣に台詞を覚える人もいれば、そうでない人もいる。そのため、台本通りの演技が求められるシリアスな芝居では、人を選ぶことになる。
しかし、コントのようなお笑いの芝居においては、台本を忠実に守れること、台本を忠実に守ることは、逆に弊害を生む。台本を忠実に守るということは、逆の見方をすると台本から一歩も外に出ないということなので、台本がつまらなかった場合はどうにもならない。
トチリやカミからくる笑いも起きなくなる。これらの笑いは、台本が実現された場合の「狙い通り」の笑いとは種類の違う笑いであり、アクセントになるのだが、台本が守られるとこの「アクセント」が皆無になるので、笑いも一本調子になる。結果、見ている方も飽きやすい。
また、台本の台詞が忠実に守られた状態で劇が展開すると、緊張感が生じてしまう。笑いにおいて緊張は大敵であり、緊張それ自体はフリの役割しか果たさない。
「緊張と緩和」理論からも分かる通り、その後「緩和」というボケが来ないと笑いは起きないのであるが、台本や台詞がよどみなく進行すると、緊張しっぱなしになってしまうのである。無論、台本で緩和を足しておく手段もあるが、本当に起きたハプニングよりは予定調和感が生じるのは否めない。台本が守られたコントは、笑いにおける「奇襲」や「意外性」をも減退させるのである。演者たちにはもっとリラックスしている様子を見せてもらった方が、学校における友達との会話に参加しているような安心感と自然な笑いを視聴者に提供することができる。
そのような意味で、台本をガチガチに守ることは、逆説的に笑いの本質に悖る所為である。台本は、できることなら緩々の方がいいし、台本を守るよりおもしろい方向性が本番中に見えたのならそちらの方向に進んだ方がよい。
その方が、トチリやカミというアクセントの笑いも生じやすくなる。台本がつまらなかった場合でもなんとかできる。演者も「台本を守らなければ」という緊張感がなくなってリラックスするので、客もリラックスして笑いが生じやすくなる。ハプニングも起きやすい。
アンタッチャブルは、漫才の台本をザックリとしか作らず、一字一句台詞を指定してはいないという。「オレたちひょうきん族」(フジテレビ・1981〜1989)にも、事前に用意するのはシチュエーションだけで、あとは明石家さんまに好き勝手に暴れてもらうというコントがあった。
「ダウンタウンのごっつええ感じ」でも、演者のアドリブに任されている部分の比重が非常に大きかった。笑いにおいては、台本という予定調和は弊害を生むことの方が多いのである。
内村にとっては、台本を守れるだけの高い演技力があったことが逆に悲劇であった。だから、内村のコントは台本を守るだけの一本調子のものになり、視聴者も離れていったのである。内村のこの高い演技力は、彼が芸人よりも役者に向いていることを示している。
もちろん、台本そのものがおもしろければそれを忠実に再現することによって大きな笑いを生み出すことは可能なのだが、そのような台本は極めて稀であるというのが実情である。リラックスした芸人たちの自由に任せた方が、おもしろいものが生まれる可能性が高いのである。
今回放映された「LIFE」も、このような台本ガチガチのコントの問題点が全部出ている。演者は、主役の内村のほか、役者と、ココリコ田中・ドランクドラゴン塚地という内村に匹敵する演技派芸人で固められており、台本を忠実に守ることが志向されている。視聴者の眼前に展開されるのは「役者のコント」に過ぎず、「芸人のコント」ではない。
大しておもしろくない台本を忠実に守らされている田中や塚地を見ていると、不憫にさえなってくる。この2人は役者のみならず芸人としてのポテンシャルも高いのだから、「芸人のコント」をもっと自由にやらせてやればいいのになと思う。
笑い所で人工の笑い声を足すという演出も古臭いだけである。このような演出は、裏を返せば、作り手が「笑い所が分かりにくい」と考えているということである。自分でおもしろいと自信が持てない作品を世に出すのはいかがなものだろうか。
今回独自の試みとして、生放送で視聴者に投票をしてもらい、その結果いかんでコントの内容が変わるという部分があった。出演者がみな演技派なので、生放送の部分も収録済みの部分も芝居のクオリティが全く変わらなかったのは確かだが、元の台本が大して面白くないことに代わりはないので利点としては生かせていなかった。
田中扮するプラス車掌というキャラクターが他の演者の変なところを暴露するというコーナーもあったのだが、NHKなので民放の同種の企画と比べれば暴露内容もそれを受けた演者のリアクションも控え目だった。なので、暴露の内容を聞いて笑っている演者たちを見ても、芝居ではないかという疑念が消えなかった。
内村に才能と実力があるのは認めるが、だからこそ、テレビのコントはやらない方がいいのではないか。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
板尾創路、関西演劇祭への熱い思い「演劇を盛り上げていけたら」 生の舞台の緊張感や達成感にやりがい
マイナビニュース / 2024年11月15日 12時5分
-
2億回再生“17歳にしか見えない50代マダム”動画に爆笑! 女優・赤間麻里子54歳のブレイクに、家族の「意外な反応」は
女子SPA! / 2024年11月9日 8時46分
-
空気階段・水川かたまり主演『死に損なった男』追加キャストに正名僕蔵、唐田えりか、喜矢武豊、堀未央奈、森岡龍ら
クランクイン! / 2024年11月5日 11時0分
-
水川かたまり主演、映画『死に損なった男』唐田えりか・堀未央奈らの出演発表 劇中コント監修はインパルス板倉
ORICON NEWS / 2024年11月5日 11時0分
-
宮世琉弥&松岡茉優「LIFE!秋」に登場 11月15日放送
cinemacafe.net / 2024年11月3日 12時0分
ランキング
-
1「また干されるよ」ヒロミが「もう辞めるか?」のボヤキ、視聴者が忘れないヤンチャ時代
週刊女性PRIME / 2024年11月26日 11時0分
-
2「火曜サザエさん」27年ぶり復活!「懐かしすぎ」ネット歓喜「さすが昭和」「時代感じる」「涙が…」
スポニチアネックス / 2024年11月26日 19時11分
-
3山下智久、国際エミー賞で快挙!主演海外ドラマ「神の雫」が連続ドラマ部門受賞「夢が一つ叶いました」
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年11月26日 15時27分
-
4私立恵比寿中学・星名美怜、突然の「契約終了」 残るメンバーは謝罪...ファン衝撃「本当にちょっと待って」
J-CASTニュース / 2024年11月26日 12時55分
-
5辻希美&杉浦太陽の長女、芸能事務所入り たった2時間でフォロワー8・5万人!両親も宣伝「おめでとう」
スポニチアネックス / 2024年11月26日 15時11分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください