<「コメディとコント」の違いって何だ?>コントは稽古の痕跡を見せずにアドリブでやっているように見えるのが最上
メディアゴン / 2015年9月7日 7時10分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
筆者は長く「コント作家」として活動してきた。その経験から、「コメディとコント」の違いはなにか? について考えてみたい。
コメディには脚本がある、コントにはない・・・かといえばと、いづれも「ある」。コメディは脚本により忠実にやるが、コントは脚本からの破調をむしろ良しとする。そうではないと主張する作家もいるだろう。コメディは長いがコントは短い。
筆者はドラマは書いたことはないが2時間を越えるコントを書いたことがある。あれはコメディではなく、コントであった。書いた本人がコントだと思っているのだからそうだ。
コメディは役者がやってコントは芸人がやる。
例えば、これがそうかも知れない。コメディは高倉健にもできるが、コントは高倉健にはできない。コメディは昔からあるが、コントはテレビができてから誕生した。
筆者には、どこで笑って良いか分からないが、シェークスピアにも喜劇(「ヴェニスの商人:1596〜1597」「空騒ぎ:1598〜1599」「お気に召すまま:1599年」など)があるように、コメディは昔からあった。日本の狂言もコメディだろう。
日本の大衆芸能におけるコメディは榎本健一が嚆矢である。浅草で旗揚げした彼の劇団「カジノ・フォーリー」や「プペ・ダンサント」「ピエル・ブリヤント」のは、座付のコメディ作家として菊谷栄がついていた。
菊谷の脚本である「最後の伝令」は、アメリカのサイレントコメディ映画「陽気な踊子」(1928・フランク・キャプラ監督)の翻案である。「最後の伝令」の原脚本を入手したが、これはかなり笑えるコメディだ。
こうした浅草系のコメディは「軽演劇」となって、隆盛を極める。
古川緑波、東八郎、渥美清、池信一、石田英二、三木のり平、由利徹、八波むと志、堺駿二、山茶花究、佐山俊二、清水金一、杉兵助、武智豊子、谷幹一、戸塚睦夫八波むと志、伴淳三郎、坊屋三郎、由利徹など。三波伸介、伊東四朗は、新宿の人であり、ムーランルージュでも軽演劇は行われた。
これら、浅草のコメディアンは有楽町の日劇にでることが目標だったが、その間にテレビの時代がやってくる。そのテレビで彼らの武器になったのがストリップショウの幕間で演じる寸劇、いわばコントであった。
その手練れが萩本欽一、坂上二郎の「コント55号」である。踊り子さんの準備ができあがるまでつなぐのがコントだから、時間の長短も自由自在、生放送のテレビにピッタリであった。新宿の三波、伊東、戸塚のてんぷくトリオには座付きとして井上ひさしがついていた。
おそらく、このあたりがコントの隆盛の始まりだ。テレビでやる笑いの番組はすべてアメリカを範としたから、そこにはギャグライターとも言うべき放送作家がついた。これらのひとはドラマを書くわけではないが、番組に出てくる人すべての台詞を書いたから脚本家である。
演者は台詞通りにやるのが決まりである。作・構成とクレジットされることが多く、青島幸男、前田武彦、津瀬宏、塚田茂、谷啓、河野洋、小林信彦、野坂昭如、大橋巨泉、永六輔といったメンバーだった。
こうしてみるとコメディからコントが派生したのではないかということが何となく想像できる。テレビ草創期には作家とコメディアンが「俺のホン(脚本)通りにやれ」「こんなつまんないホンで、できるか」と、健全なけんかがあったらしいが、今はない。大体、いまのバラエティの作家は脚本を書いていない。
コントには、ドリフターズ流の稽古をきちんとしてやるものと、コント55号流のアドリブ中心でやるものがあるという人がいるが、これは実態を知らない人の間違った情報である。
コント55号は稽古をみっちりやるがやったら一度稽古を忘れて舞台に掛けるのであって、稽古は同じくらいの長さやっている。時にはこれ以上稽古すると面白くなくなるので完成形にならないうちに「後は本番で」と言うこともあるから、それが誤解されて伝わっているのだろう。
明石家さんまはコント55号流の作り方であるが、共演者が覚えた台詞をそのままやると怒る、「一回一回舞台ごとに客が違うやろ」ということである。収録のテレビでもナマの舞台でも、台詞通りそのままはあり得ない、と言うことである。稽古の痕跡を見せずにアドリブでやっているように見えるのが最上である。
やり方は人それぞれだが、脚本家がホン通りやって欲しかったら、芝居をやればよい。コメディアンの場合、板の上(舞台の上)立ってしまえば王様なのだから、ホンのことなど思い出さずに自由にやれば良い。一度ストーリーをハズれても、もどってこれる融通無碍なものがコントだ。ホン通りやったらつまらないのだから。
明石家さんまが生瀬勝久の芝居に客演することがある。ここでは、だから芝居とコントが渾然一体となってしまう。ホン通りやる芝居と、自由にやるコント。観に行くとなんか僕はいつも違和感がある。これ、コントじゃいけないのかなあ、と。
作家が渾身の力で書き上げた脚本を、一字一句間違いなく覚え、稽古で練り上げて、本番に掛ける。その本番での台詞のとちりは笑いではなく叱責、ダメだし。笑いの神様など降りさせてはいけない、お見事。
なんかこういうの全然魅力を感じない。
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