<五輪エンブレム取り下げはネット世論の圧力?>「『ネットの声』は現実の世論ではない」を論ずることの無意味さ
メディアゴン / 2015年9月10日 7時0分
藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)]
* * *
インターネットユーザーによる言論的な活動や情報発信によって作られる、いわゆる「ネット世論」。これまで、ネット世論と「現実の世論」には大きな乖離があると言われてきた。
例えば、ネット調査と他の社会調査ではその結果が大きく異なること。選挙時におけるネット支持率と現実の得票数の違いなどだ。
もちろん、ネットの声がそのまま現実を反映していないことは言うまもでない。ネット世論の盛り上がりが「局部的で先鋭的に頑張る一部のネット民たち」によって担われている一面的な活動であることは周知だ。
しかしながら、インターネットとそのコミュニティが「STAP細胞問題」における論文の不正や剽窃を探し出し、その検証と告発が、研究の見直しにまで至らせた。現在騒動となっている「五輪エンブレム盗用問題」が盛り上がり、白紙撤回にまで至った要因に、ネット世論(とその活動家)が果たした役割は大きい。
その一方で、一部の熱心なネットユーザーの主張にすぎない「ネットの声」を、大手メディアが「世論」として取り上げ、過剰に評価することを危険視する見方もある。
例えば評論家・古谷経衡氏は、
「問題はこのような一部の熱心なユーザーの『狂騒』を既存の大手マスメディアが取り上げ、大々的に報道することにある。(中略)一部から始まった狂騒がメディアによって『世論』の中に放り込まれ、いつの間にかそれが世論になっていく状態は、「扇動」(中略)熱心なユーザーの『狂騒』を伝えるメディアは、このことに自覚的に成るべきだ。」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/furuyatsunehira/20150903-00049142/)
と述べている。しかし筆者は、このように危険性を指摘しつつも「ネットの声はマトモなモノがない」と印象づけるだけのオピニオンには、「論ずることの無意味さ」を感じる。
一見、ネットの炎上文化とそれに追従する大手メディアへの警鐘のように読める古谷氏の文章も、実は「大手メディアはネットの声を相手にするな」と主張しているだけでしかない。これではまったく建設的ではない。
重要なことは、「ネット世論と現実の乖離」があろうが、なかろうが(それが事実であれ)今日、ネットからの様々な情報発信に端を発し、大手メディアや社会全体が突き動かされ、一種の世論を形成する、という流れが確実に存在しているという現実だ。
理屈や理想ではなく、現実としてネットの声と活動が現実の世論に大きな影響を与えていることは間違いない。
一部の意見とは理解しつつも、ネットで騒がれた情報がテレビや新聞といった大手メディアで取り上げられる理由も単純だ。単に、情報源をインターネットに依存する時代になった、というだけの話だ。
私たちと同様に、マスコミの情報源も現在では多くがネットからだ。これまでテレビや新聞、雑誌などでしか入手できなかった様々な情報が、ネットで手軽に、そして十分に入手できるようになっている。もちろん、新聞、雑誌、場合によってはテレビでさえ、ネット上に同じ情報を掲載している。
メディアの接触時間として、ネットの割合が飛躍的に増加している。ただそれだけのことなのだ。ネットの接触時間が多いから、「ネットからの情報」がマスコミも含めた多くの人の目に入っているだけだ。インターネット時代の今日、情報源の多くがネットになっているということは現実であり、それを批判してもしょうがないのだ。
世論形成には、その情報の「確からしさ」などはあまり重要ではない(その是非はさておき)。接触時間の長いメディアにある「目に付く情報」が、マスコミに取り上げられ、世論形成を牽引する。それはこれまでテレビや新聞といったメディアでも担われてきたことだ。それがネットへとシフトしつつある、ということにすぎない。
そもそもネットの声をリアルな世論として扱っているような大手メディアは、筆者が知る限りあまり思い当たらない。むしろ「ネットの声」とネット民を「一部の先鋭的な狂騒」と捉えるのではなく、一定の精度をもった「社会の触覚」として観察・参考にした方が時代に則しているように思う。そして、多くの既存メディアもそうやってインターネットと付き合っているはずだ。
「ネット世論と現実の乖離が、どーの、こーの」という議論は、五輪エンブレム問題の周辺で起きている「プロから見ればパクリではない、あーだー、こーだ」という専門的なデザイン技巧の議論と似ている。多くの人にとっては、オリンピックというトピックの中では、およそ興味も関心もないことだ。関心はもっと現実的なことにある。
ネット世論がどんな形であれ、現実社会に実際的な影響を及ぼしていること。五輪エンブレム騒動でいえば、実際の不正を指摘し、検証し、そこから実際の「白紙撤回」という決定にまで至らせた事実。
私たちにとっての「事実」はそれだけであって、その周辺で「あーだ、こーだ」「どーの、こーの」と論じる局部的な議論こそ、「狂騒」でしかないように思う。
例えば、五輪エンブレムが取り下げられた発端やエビデンスは「ネット」である。しかし、それが取り下げられ、白紙撤回にまで至った理由は、「疑惑や騒動が起きたこと自体、オリンピックにふさわしくない」と考えた国民が多かっただけであるはずだ。その感覚に「一部の熱心なネットユーザー」の意思はあまり関係ないように思う。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
深層韓国 サッカーだけじゃない韓国スポーツ界の没落 対日〝噛みつき〟転化に要注意! LINEヤフー問題の噛みつきは予行演習か
zakzak by夕刊フジ / 2024年5月3日 6時30分
-
小倉優子、“子供への声かけ”で専門家に質問攻め 「リアルお母さんみ」「気持ち分かる」共感の声
Sirabee / 2024年5月2日 17時0分
-
大阪万博まであと1年、ピンチの日本に韓国ネット「今どき万博なんて」「釜山の誘致失敗は幸い」
Record China / 2024年4月15日 8時0分
-
「無罪の推定」を無視する日本のマスコミ報道には違和感しかない
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月6日 15時50分
-
米国では爆発的に成長中だが…大谷翔平選手も巻き込まれた「スポーツ賭博」を欧米メディアが問題視するワケ
プレジデントオンライン / 2024年4月5日 9時15分
ランキング
-
1《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン / 2024年5月3日 18時30分
-
2同僚女性遺体遺棄容疑の男、寝袋のようなものに入れて7〜8m下の沢に落としたか…女性はつきまとい被害を職場に訴え
読売新聞 / 2024年5月3日 21時25分
-
3「風呂キャンセル界隈」SNSで話題 うつ病当事者から困惑の声
毎日新聞 / 2024年5月3日 17時0分
-
4自民党、パー券公開基準引き下げで調整へ
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月3日 22時53分
-
5暴行現場の血痕洗い流したか 痕跡消すため工作か 那須2遺体
産経ニュース / 2024年5月3日 18時5分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください