<プロの物書きとアマチュアの違い>ハガキ職人がプロに成り上がる条件を考える
メディアゴン / 2015年9月25日 7時30分
高橋維新[弁護士]
* * *
NHK・Eテレの視聴者投稿型番組「ビットワールド」。最近では珍しい投稿型番組だ。
筆者は「週刊ファミ通」の読者投稿コーナー「ファミ通町内会」に現役で投稿をしている投稿者(ハガキ職人)であるため、この番組を見て「投稿者」という存在について一つ思うところがあった。
現在、テレビにおける読者投稿のコーナーはすっかり下火になっている。それは以前の記事(http://mediagong.jp/?p=12068)でも記したとおりであるが、メリットが特にないからである。
投稿者は「素人」であるため、確実におもしろい投稿や作り手の狙い通りの投稿をしてくれるわけではない。参加の楽しみを提供することができるかもしれないが、それを享受できるのは投稿が採用される少数の常連ばかりである。
「投稿」ができるからより多くの人を楽しませることができるわけではないのである。その割に、大量にやってくる玉石混交の投稿を選別するという労力が増してしまう。
このような特徴を持っている「投稿」を今も前面に推しているのは、実力派の常連が多数集まる僅かなコーナーのみである。それは主にラジオと雑誌である。
この投稿者の中には、純粋に趣味で投稿をやっている人もいれば、放送作家やライターなど、プロを目指している人もいる。実際のプロもいれば、プロくずれみたいな人もゴロゴロいる。現に、競争率の高いコーナーで一定程度の採用率を保っている投稿者たちは、プロになれる実力を持っているし、実際にプロになった人もいる。
「プロ」と「純粋素人」の間にいる「プロくずれ」には、様々な種類がいる。プロになれずに落魄した人、いったんプロになったけど食っていけずにやめてしまった人、プロとして仕事をすることもあるが副業でしかない人など、投稿のような表現活動で飯を食っていくことに対する姿勢や考え方は十人十色である。
では投稿者の中で、プロとして生き残れる人とそうでない人の違いはなんなのだろうか。筆者の見立てでは、忍耐力の有無である。
まず投稿というのは、設けられているコーナーに何か一言答えるとか、ハガキに書くイラスト1枚とか、ある程度短いネタでも可能だが、プロになるとそれだけではダメであって、どうしても一定の長さを出す必要がある。
投稿者として考えた「何か一言」がおもしろくても、それはボケ1個分でしかならず、間が持たない。プロになるには、15分の漫才の台本を埋め尽くすほどの数のボケを考える必要があるのである。
その意味で、ある程度長いネタを最後まで書き切る忍耐力が必要である。細かいネタであれば、数を用意する必要がある。
次に、プロは当然他に人から作品を批評される立場になるため、自分に対する批判に耳を傾けてそれを反映する忍耐力が必要である。アマチュアの投稿者であるうちは、ダメなネタは「撰者」という立場になっているプロに無言でボツにされるだけなので、自分に対するダメ出しも耳には入ってこない。
ただプロはこういうダメ出しを聞いて自分のネタをブラッシュアップしていく必要がある。そういう意味でも、忍耐力が必要である。瞬間瞬間の天才的なひらめきや発想があっても、それだけではプロになれないのである。
もちろん、こういう忍耐力がないとか、あるいはそこまで忍耐したくはないので投稿を楽しんでいるだけでいいとかいう理由で、プロにならないというのも一つの決断である。その決断をバカにするつもりは全くない。
しかし、こんなことを「プロではない筆者」が言っても恐らくあまり説得力がないだろう。一つだけ追加で言うならば、良薬は口に苦いものである。
筆者は、ここに書いたことが間違いだとは微塵も思っていない。実際にプロを目指しているけどうだつの上がらない「投稿者」がこれを読んでムッと来たとしたら、耳の痛い「真実」だから否定したがるのだろうと筆者は考えている。
そして、筆者がこの記事に書いたことに反論するのならば、きちんと中身を見てほしい。
書き手である筆者の属性のみを捉えて「ハガキ職人(弁護士)風情が何を言っても信用できない」などと言われても、全く説得力がない。中身に対する指摘がないので、中身を読んでもいないか、読んだけど理解できなかったかのどちらかではないかと疑ってしまう。
書き手の属性のみを捉えて議論をするのは、中身を読むのが面倒くさいときにできる「手抜き」の方法である。読まなくてもそれっぽいことは言えるので楽なのだが、中身に対する言及がないので薄っぺらい上に、間違いも生じ得る。
書き手の属性で主張の正誤を云々するという手法は、「中国人の言っていることは信用ならない」とか、「与党の話に耳を傾けちゃいけない」とかとえらく変わらない議論である。ちゃんとした人からは、見識を疑われるだろう。
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