<ENGEIグランドスラム>「台本を守ることしかできない芸人」は超一流にはなれない
メディアゴン / 2015年10月19日 7時30分
高橋維新[弁護士]
* * *
2015年9月26日に放映されたフジテレビ「ENGEIグランドスラム」を見て、「台本」と「アドリブ」について感じたことがある。
「ENGEIグランドスラム」のような「ネタ番組」でやるネタには、台本がある。芸人は、おもしろい台本が書けて、その台本を忠実に守れれば一流である。そういう意味では、「M-1」や「THE MANZAI」のタイトルをとったサンドウィッチマンやパンクブーブーやハマカーンは一流である。
ただ、一流になってもテレビで生き残れるわけではない。超一流は、おもしろい台本が書けて、その台本を守る能力も持ったうえで、あまりきちんとした台本がない状態でもアドリブでおもしろさを出すことができる。
結果、台本を崩して当初の予定とは違う方向(=台本がない方向)に進むこともできる。明石家さんまや、島田紳助や、ダウンタウンは、それができる。テレビによく露出する芸人は、みなそれができるのである。
テレビの世界は、基本的にアドリブである。見たVTRの感想をその場でおもしろく言わなければならない。食べた料理の味を即興でおもしろく表現できなければならない。他の出演者の天然ボケに即応して鋭くツッコまなければならない。
こんなものにいちいち台本は作っていられないし、台本を作ってしまうと視聴者にもそれが分かってしまう。台本を守ることが腐心されるとリラックス感が消えて、タレントたちがリラックスして会話している様子を楽しむということができなくなってしまう。また、視聴者が「事前に台本を作っているのだからおもしろくなっているのだろう」と考えて、ハードルが上がってしまう。
だから「台本を守ることしかできない奴」は、超一流にはなれない。台本を守っているだけの番組は、そうでない番組よりもおもしろくない。NHK「LIFE」の内村光良(http://mediagong.jp/?p=11720)や同局「ビットワールド」のバカリズム(http://mediagong.jp/?p=12068)は台本を守っているだけなのであまりハネていないというのは以前も指摘した通りである。
さて、ネタ番組におけるネタは、台本を守る方の芸である。これだと基本的にハネないのは今まで述べた通りである。
例えば今回の放映分でいえば、爆笑問題は事前に台本を作ってあの程度なら太田のアドリブに任せた方が確実に笑いが増えると思う(http://mediagong.jp/?p=12302)。ハライチの漫才も超一流であれば全てアドリブでできるはずである。なお、ここで言う「台本」とは基本的に芸人自らが書いた台本であり、作家が書いた台本は少し趣が違う。
今回アドリブが活きていたと感じられたのは、即興で絡んだテツと岡村、あまりきっちりとした台本を感じさせなかった今くるよと中川家ぐらいのものである。
固い台本を作るのであれば、視聴者のハードルが上がってしまうので、台本がないあるいは薄いと勘違いさせるほどにリラックスしてやるか(今回は出ていないが、例えばアンタッチャブルの漫才はそういう空気がある)、個々のボケが相互に絡み合ったものすごく完成度の高いネタを作るかのどちらかである。
アンジャッシュと東京03のネタはこの完成度に達していたが、他はそうでもない。ますだおかだやナイツのように単発のボケをただ積み上げていっただけのネタもあり、「事前に台本を作って考えているのにこの程度か」という感想になってしまう。
台本なしでできる芸こそ「至芸」なのである。
勘違いしてはいけないが、「アドリブの方がおもしろいということだから、ネタは考えなくてもいいし台本は守れなくてもいいのだ」とはならない。
アドリブは、結局引き出しの多さで決まる。岡村がテツと即興で絡めたのは、岡村自身のセンスももちろんあるが、以前にテツと「めちゃイケ」や「27時間テレビ」などで絡んだことがあるからである。
台本通りの動きができるということは、それが引き出しになっているということであり、多くの台本を覚えることでその一つ一つが芸人の血となり肉となる。そうやって身に着けた引き出しをTPOに応じて適切に出していくのがアドリブ芸である。
決してその場で思い付いたことを言ったりやったりしているだけではないのである。無論、即興のフリに対応できる引き出しがないとその場で考えざるを得ないので、そういう即応力も大事なのだが、色々なネタを考え、それを練習して引き出しを増やしておけば、確実に対応できる場面は広がる。
プロの芸人であればその種の日々の努力を怠ってはならない。岡村やザキヤマやフジモンはよく人のギャグをパクるが、それができるのは、他の人がやっているギャグに常にアンテナを張って、使えると思ったものがあればいつでも出せるように練習をするという努力を毎日行っているからなのである。それは、紛れもなく彼らの引き出しになっている。
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