<実写化の迫力>「図書館戦争」が放つメディアミックスの魅力
メディアゴン / 2015年10月20日 11時2分
齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
* * *
有川浩の「図書館戦争」シリーズは、人気のベストセラー書籍。装丁からしてアニメーション風の挿絵であり、初めからメディアミックスやアニメ化が想定されていたようでもある。またその内容からしても(戦闘ものでありつつ、男女の恋愛物語の要素も強い)アニメーション向きといえるだろう。
第2作の映画の封切り(10月10日)に合わせて、前作の映画とその続編ともいえるテレビドラマ(このために制作されたオリジナル)が続けて放映され、それを視聴した。
書籍のシリーズすべてを読んでいるが、アニメ版は見ていなかったし、1作目の映画も見る機会がなかった。映画版とオリジナルドラマ版で続けて実写をみて、まずはドラマと映画を組み合わせたうまい展開だと感じたということだろうか。
映画としてはもちろんよくできており、壮絶な戦闘シーンも自衛隊の協力を得たとのことでリアルすぎるほどリアルである。図書隊の訓練風景も、これも限りなく自衛隊にならったのかそれらしい。この図書館戦争シリーズのもうひとつの外せない要素=登場人物たちの恋愛も丁寧に描かれており、堂上と笠原の歯がゆくもまっすぐな恋愛も原作の通り。
本の雑誌「ダ・ヴィンチ」の読者投票で、この俳優にやって欲しいランキングで第1位になったという岡田准一と榮倉奈々のキャスティングもはまっており、パラレルワールドたる、もうひとつのあったかもしれない世界がすんなりと飲みこめる。あとは、あっという間の展開で見終わった後に十分な満足感も残る。
続編のテレビドラマも、映画と見まごうばかりの迫力で、こちらも見ごたえがある。原作や第1作の映画のファン層を、とりあえず第2作の映画の封切り前にドラマをみなくちゃ、と思わせるあたりは実に心憎い。
映画の宣伝でもあろうが、1週間後に売り出されるDVDも当然売りたいのだし、ゆくゆくは第2作の映画と合わせて、3部作のDVDを有川ファン、図書館戦争シリーズのファンは購入してくれると考えれば実に上手な戦略といえる。
ここまでの2作品の完成度の高さ、原作のイメージを損なわないキャスティングなどからすれば、第2作の映画の出来もいいと想像できる。隠すのではなく、あえて無料でたっぷり見せることで売り上げを伸ばすという手法の教科書的な例だろうか。見に行きたいと思わせるに十分である。
「現在公開中の映画はなにをやっているか」にすっかり疎くなってしまった筆者のような人間にとっては、ああベストセラーの映画化ね、と思いつつ試しにテレビで見て、それが思いのほか面白ければ、では映画館に足を運ぼうという気にもなる。
日ごろテレビを見ない若者も、図書館戦争の第2作が、映画公開の前にテレビドラマでオリジナルで放映されるとなると、映画の封切り前には見ておきたいと思うだろうし、見逃しても今はオンデマンドで有料視聴もできる。
あるいは最初からDVD発売を待って、そのあとで映画を見ることもできる。テレビ離れの若者にも、このコンテンツなら訴求できるし、選択肢の多さもポイントが高い、というわけだ。
もうひとつ、実は筆者が原作を読んだ時にはそれほど感じなかったことがある。本を読む自由を守るために図書館が武力を持つという設定と、実際に戦闘をするということがどういうことか、ということが、正直実写版を見るまで、それほどはっきりとイメージできていなかったということだ。
若者やアニメファンには受けの良い戦闘もの・ミリタリー物に恋愛や成長譚をからませたライトノベルにはよくある王道の作品だが、パラレルワールド(ありえたかもしれない異世界)ものとして、かなりよく作りこまれており、想定にもさほどの違和感がない、本を読んでいる間はそう思っていた。
が、実写で見ると、なんだこの想定は、こういうことなのか? ということが目の当たりになる。平和の象徴、知の殿堂、およそ武力や暴力とは無縁のはずの図書館という日常に、ある日、検閲と称する横暴な介入があり、それを阻止しようとしてまるで戦闘(というか本当に、近代的な極地的戦闘)が勃発する。
一般人を巻き込まない、人を殺生するつもりでの戦闘ではない、という建前は映画の中でも語られるが、「今、殺すつもりで撃ってきてたよな」というセリフにもある通り有名無実化し、そこにあるのは義があろうとなかろうと、リアルな戦闘、「何かを守るため」にせよほとんど殺し合いにすぎない。
実写版を見て驚いた理由が、この本の突きつけるテーマや設定がここまでのものだと、あらためて感じたからに他ならない。
「こんな設定ありえないでしょう」ということはさておき、本当に本が検閲されはじめたときに、それを阻止し、表現や本を読む自由を守ろうとして、現実に図書館が武力をもつことが起こるかもしれないとしたら・・・。
「if(もしも)」を実写化した迫力ある戦闘シーン(もちろん、書籍での表現も迫力はあるにせよ)。まだ20代前半の女性である笠原が、非常事態とはいえ敵を射つこともためらわず、「こういう結果となるのだ」ということが実写のもつ迫力で、否応なくせまってくる。
書籍の中にも、そうまでして守らねばならなくなった本を読む自由、書籍出版の自由などなどが語られるのだが、それが武力闘争と結び付くことが、書籍の中ではやはりそこまで現実のこととしては想像できなかったということだろうか。
堂上と笠原の恋愛など、戦闘シーンばかりではない挿話も多く、このシリーズを同じ志を持つ同士のまっすぐな恋愛小説、あるいは若い女性の成長物語ととる向きもあり、多くの若者の支持を受けたベストセラーたる理由もそこにあるのだが、激しい戦闘シーンと、その中でこそ大切なチームワーク、信頼関係なども、常にない設定で読者を引き付ける重要な要素でもある。
つまるところ、SF好きや本好きからすれば「よくできた設定だね」というだけのことが、実写版になった瞬間に「ありえないでしょう」という突っ込みとともに、もしありえたら、ということがアニメや書籍以上にリアルに感じられてしまう。
ある日、突然襲撃されることや激しい戦闘シーン、要人が拉致され容赦なく撃たれることや事情聴取という名の拷問まで、戦中の日本で隠ぺいされてきた多くのことが、目の前にでてきてしまい息苦しさを感じるということだろうか。
かつて日本が通った道、それとはわずかに違うにせよ、ある種の既視感とともに、十分にありえる未来、という感触が見終わった後に、かすかに違和感として残っていく。
TBSはこの図書館戦争シリーズ以外にも、「下町ロケット」で、原作の続編を朝日新聞に広告枠で連載し、後半のドラマがそれとリンクしていくというメディアミックスをしかけるという。ドラマというものは、たとえ視聴率が悪くともある種のファンを獲得できるだけのコアさをもっていればDVD化することで経費を回収しやすいコンテンツになりえるわけだが、他のメディア(映画や新聞)との相互作用がどの程度インパクトがるのかを探る上で、今回は格好のケースになるに違いない。
元気のない話題が多いマスメディアたるテレビと新聞。その2つが相乗りすることがあまりなかったことを考えると、一つの試金石になるのではないか。
そう考えると、ドラマの行方と、全国紙に掲載される小説の続編以上に、その相乗効果がどうなるのかが、なにやら楽しみになってくる。
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