<アメトーーク「相方大好き芸人」>久々に見たクオリティのある笑い タカアンドトシがMVP
メディアゴン / 2015年12月11日 8時0分
高橋維新[弁護士]
* * *
2015年12月4日放映のテレビ朝日「アメトーーク」のテーマは「相方大好き芸人」。コンビの芸人が4組登場し、各々の相方への愛を語るという内容である。
自分の相方がいかにすごい人かというのを語ることになるため、「何かを褒める回」に当たるのだが、きっちりとファニー(こっけい)さが維持されていた。なぜかと言えば、きちんと「バカにできる対象」が画面上に現れていたからである。それは、相方を褒めまくる芸人自身である。
筆者は以前、アメトーークの「何かを褒める回」をおもしろくするにはどうすればいいかというテーマで記事を書いた(http://mediagong.jp/?p=13534)。その中で提案した一つの手法が、「そんなに褒めるほどでもないものを偏執的に褒めている褒め手をバカにする」というものである。今回は、まさにそのコンセプトで笑いが生み出されていた。
MVPはタカアンドトシで異論はないだろう。タカは、ツッコミのトシに対する愛を言葉を尽くして表現する。トシが他のタレントにツッコめば嫉妬する。そのくせツッコまれただけでは満足せず、「自分のボケに笑ってほしい」と要求する。
本来、ツッコミ役の人間は「ボケの言っていることがおかしい」というのをお客に分からせる必要があるため、ボケ役のボケに笑ってはいけないというのがセオリーである。真顔でツッコむ必要があるというのが基本である。
そのため、タカの言っていることは真っ当なお笑いの考え方から外れており、その意味でズレがある。これは、「相方が好きすぎて言っていることがおかしい」というタカのボケである。
一方のトシは、タカほど相方のことが好きではないため、上記のタカの言説がおかしいというのがすぐに分かる。そのため、タカの言動に対して即時に適切なツッコミを入れることができる。それが、笑いを生む。要はタカアンドトシが即興で漫才をやっていたのであり、それがこの回の笑いの主なポイントだった。
これが大きな笑いを生んでいたのは、タカの言動がマジだからである。仮にマジではなかったとしても、マジに見えるほどの真実味があった(=そういう真実味が出せるほどの演技ができていた)からである。そして、おそらくタカの言動はマジなのである。
仮にタカの言動に嘘や芝居の陰が見え隠れしてしまうと、「ボケでわざと相方が好きすぎる変な人を演じているのだな」と視聴者が感づいてしまい、「わざとやっているからには事前に十分に内容を考えているのだろう」と思考して、笑いのハードルが上がってしまう。
タカの言動がマジだからこそ、タカがマジで「トシのことが好きすぎる変人」であるからこそ、視聴者はそこにズレを見て取るのである。
ただ、この点は痛し痒しであって、タカはトシのことが好きすぎるゆえに、トシにツッコんでもらうために日々活動することになり、トシがいないピンの場では思うように実力を発揮できていない。トシがいなければ、どれだけボケてもトシにツッコんでもらえないため、繰り出されるボケの密度がガクッと下がるのである。
加えてタカアンドトシ以外の第三者のタレントがいる場でも、タカは、トシが他のタレントにツッコむと必要以上に嫉妬してしまって、対抗意識から空回りしてしまう場合がある。
他方でトシは自然体でタカ以外のタレントとも絡むことができるため、ここにギャップがあるのである。タカアンドトシが伸び悩んでいるのは、タカのこの偏執的なトシ愛に原因があると筆者は考えているため、将来的にはなんとかできるのであれば何とかした方がいいと考えている。
ただまあ、タカのトシ愛がこのコンビの(大きな)魅力のひとつでもあるので、悩ましいところではある。
タカアンドトシほどではなかったが、ハライチ・ニッチェ・鬼越トマホークという他のコンビも相方愛を発揮できていた。他の芸人のエピソードに対する乗っかりやガヤも比較的高頻度で見られた。
そのため、基本的には全員に及第点をあげられる。ピン芸人として「偏執的な相方愛」をツッコむ立場の陣内智則はあまり動けていなかった印象があるが、問題点として感じたのはその程度である。
鬼越トマホークは出てくるエピソードが同性愛を疑わせるレベルに達していたが、その点を笑うことは好みがあり得ると考えるのでその当否には立ち入らない。ただ、「ある人のことが好きすぎるのを笑う」というのは、その延長線上に「同性愛者をバカにする」という部分が出てくるため、常に注意は必要である。
総評としては、十分おもしろい回だったと言える。何度でも同じことを言うが、中途半端な「ホメ回」は一切排除して、毎回このクオリティを維持して欲しいものである。
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