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<37年ぶり舞台「熱海殺人事件」>つか芝居のDNAを感じさせた、愛娘女優・愛原実花

メディアゴン / 2015年12月14日 7時30分

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貴島誠一郎[TBSテレビ・プロデューサー]

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1987年の紀伊国屋ホール公演から37年ぶりに復活した「熱海殺人事件」の初日を見ました。

故・つかこうへいさんの戯曲「熱海殺人事件」の初演は1973年の文学座アトリエ公演。1978年、つか演出で三浦洋一さん、平田満さん、加藤健一さん、井上加奈子さんのキャストで当時の新劇界最高の舞台・紀伊国屋ホールで初公演。

その後、三浦洋一さんから風間杜夫さんに受け継がれ、風間・平田のコンビは熱狂的な支持を獲得。小説として1982年につかさんが直木賞を受賞した「蒲田行進曲」は、深作欣二監督で映画化され大ヒット。つかこうへい・風間杜夫・平田満のトリオは人気と地位を不動のものとしました。

伝説として聞いた当時の公演は、残念ながら見ていません。しかし「新劇の甲子園」と呼ばれ野田秀樹さん、鴻上尚史さん、三谷幸喜さんを送り出した紀伊国屋ホール400席の定員に倍の800人の観客が「熱海」に詰めかけていたそうです。

現在は消防法の関係で、通路や立ち見を禁じられているので定員しか観劇できませんが、その熱狂ぶりが偲ばれます。初めて「熱海」を演じた平田さんは21歳で早稲田の学生だったそうです。

今回の演出は、学生時代に劇団☆新感線を結成し1980年の初公演が「熱海殺人事件」だった、つかさんと福岡の同郷・いのうえひでのりさん。現代に合わせての音楽や台詞の入れ替えは最小限にとどめ、つか演出を踏襲した音楽使いやストップモーションは、その後の第三世代の舞台演出にいかに大きな影響を与えたかが分かります。

平田さんによると、当初の「熱海」の舞台に置いてあるのは机と椅子だけ。口立てのセリフと身体の動きと音楽だけで2時間の芝居を成立させるため、俳優をギリギリまで追い詰める過酷なアスリート演出です。

二十代の風間さんや平田さんならともかく、還暦を越えた2人には更に過酷で挑戦的な舞台ですが、風間杜夫さんはどこまでも凛々しく色気があって、平田満さんは若々しくどっしりとした安定感で、圧倒的なセリフ量をマシンガンのように繰り出していました。身体で覚えたセリフは、あのスピードじゃないと出てこないそうです。

加藤健一さんの役を引き継いだ中尾明慶さんは、百戦錬磨の風間・平田という伝説に挟まれるプレッシャーを見事に跳ね返し、現在の若者の空気感を表現していました。

後に平田さんと結婚した井上加奈子さんの役を引き継いだ愛原実花さんは、つかさんの愛娘らしい奔放な演技で、そのDNAと舞台女優としての可能性を感じさせました。つか芝居の伝統はこの2人の将来性ある役者に引き継がれることになりました。

400席の紀伊国屋ホールよりも大箱の新しい劇場で公演したほうが、商業的にも多くのファンのためにも良かったのかもしれません。しかし、風間さんや平田さんは命を削る過酷な挑戦が故に、紀伊国屋ホールの舞台袖にサングラスで猫背の「つかこうへい」が確実に存在した場所で、時代を共にした戦友に見守って欲しかったのだと思います。

大箱の新しい劇場も増えた今、狭い紀伊国屋ホールの復活「熱海殺人事件」は、芝居を観客に楽しませるというよりも、舞台の圧倒的な熱量を至近距離で観客に緊張感を強いて挑みかかってくるような、インタラクティブな空間になっていました。

演出家と俳優と観客のガチンコ勝負で、天才戯曲師・つかこうへいは、エンターテイメントという言葉では到底説明できない「事件」を今でも突きつけているような気がしました。

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