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<UCLAが無償でドラマ監修>病気がテーマでもエンタテインメントが優先されるハリウッドの凄さ

メディアゴン / 2016年2月26日 7時40分

高橋秀樹[日本放送作家協会・常務理事]

* * *

大変興味深い講演を聞いた。

 「私たちの病気に関する情報は無料でドラマ制作者に提供されます」

と語るのは UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のサンドラ・デ・カストロ・バフィントンさん。

サンドラさんの仕事は病気や障害の正しい知識をエンターテインメントによって、世の中に知らしめることである。

 「人々は自分の興味のないことに対しては、決して振り向こうとしない。その人々に、HIVや性同一性障害や自閉症スペクトラムなどに興味を持ってもらうのに最も力を持っているのはエンタテイメントである」

というのがサンドラさんたちの主張である。サンドラさんは仲間たちとUCLAに中にGlobal Media Center for Social Impactを創設、ハリウッドや、四大ネットワーク、ケーブル、オンデマンドのドラマ制作者たちに無料で医療情報を提供し続けている。

エンタテイメントが、難しいこと、人があまり興味を向けないこと、認めたくないことなどを伝える形式として優れているのはその通りである。

悪い例で言えば、「プロパガンダは娯楽の顔をしてやってくる」のである。ナチスドイツの独裁も、戦前の日本の帝国侵略主義も、中国の全体主義も、最初は娯楽の顔をしてやってきて、人々の心に忍び込み蝕んだ。

サンドラさんたちが提供しようとしているのは、正しくて妥当な医療情報だから、プロパガンダでは勿論ないが、浸透させるという意味では同じくはっきり効果が上がるだろう。

筆者がびっくりしたのは、サンドラさんたちがドラマ制作者に情報を提供する時に決めているルールである。

・エンターテインメントが1番、私達の発したいメッセージは2番目だと心得る。
・ドラマクリエイターは私達の情報からあくまでも自由である。最大限に尊重される。
・目標は私達の持つ情報を使って人を惹きつけるストーリーを作る手伝いをすること
・私たちはドラマクリエイターをインスパイアするだけ。指図はしない。
・ドラマに自分たちの名前のクレジットを出すことはない。私達の背後にはなにもないし、ある特定の企業や人の利益を代表することはない。
・私達の情報提供は全てFree.無料である。

多くはドラマクリエイター側からサンドラさん達に相談が持ち込まれるのだそうである。

 「ずっと意識不明で寝たきりであるが1年後に目覚めるという設定にしたいが不自然でない疾病は何か」
 「顔面移植の例をいくつも紹介してくれないか」

これらの質問を受けてサンドラさんたちは、よりドラマチックにするために、よりリアリティを持たせるためにどういうシーンを入れればよいかなど、ドラマクリエイターたちをインスパアする。そうすれば、面白いドラマが出来上がり、結局は正しい医療情報が人々に伝わるというのである。

日本ではそうはいくまい。エンターテインメント(ドラマ)における医療監修はエンターテインメント(ドラマ)を面白くするために行われるのではない、テレビ局や映画会社が一般の人や患者団体から抗議が出ないようにコンプライアンス、コーポレートガバメントの側面で行われているのが現実である。

例えば、主人公をアトピーの少女にしたいと考える。すると監修者は「北陸の方にアトピーを扱うと執拗な抗議をしてくる医師がいる。面倒なことになるのでやめた方がいい」となる。

罪を犯した登場人物をアスペルガーの青年にしたいと考えれば、ドラマクリエイターはきちんと勉強していて「アスペルガーだから罪を犯すわけではない」ということを描きたいと主張する。すると監修者は「それを読み取ってくれる人はいるのか、危ない」と判断する。ドラマクリエイターの上の者が支持する。結果、ドラマは頓挫する。

日本のコンプライアンスは「やったら面倒なことになる理由は100個考える」が、「どうすれば問題にならずにできるかは一つも考えない」になっている。

サンドラさんたちは「情報提供は全てFree.無料である」とするが、無料なのはあらゆる干渉を受けないようにするためだと思われる。ただ、この情報提供はよく考えると無料ではない。

UCLAが人件費や全ての必要経費を提供しているのである。さすがハリウッド。

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