B'z稲葉浩志に見る「アーティストがテレビ局になる日」
メディアゴン / 2016年1月31日 7時40分
齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
* * *
コンテンツ作家やアーティスト自身がニュースの発信元となる、一種のメディアとなること。それがインターネットの世界ではたやすくできる、と感じた動画がある。
音楽ユニットB’zの稲葉浩志が、ソロ活動用のオフィシャルサイト “en-zine”(2014年開設)で続けている対談のコンテンツである。
今までも稲葉自身が関心のある分野から、福山雅治(テーマ:格闘技UFC)、二井原実・ラウドネス(テーマ:ヴォーカル)、木村信也・カスタムバイク制作者(テーマ:カスタムバイク)とかなりしっかりした対談番組を収録し公開してきた。
今回筆者が見たのは立川談春・落語家(テーマ:ロックな落語家 立川談志とドラマ「赤めだか」)との対談である。
簡単なスタジオ収録のセットを使っての対談だが、カメラワークもそれなりで、内容も編集され章立てもしてある。よくまとまっていて当然ながらとても見やすい。
なんと60分近い尺があるが興味深く最後まで視聴した。テレビの番組とまではいかないまでも、内容・ゲスト、それを閲覧しにくるファンの数・それを紹介する音楽系のネットニュースを閲覧する人の数と考えていくとなまじのローカル局のコンテンツより影響力が大きいのではないか。
当然ながら、このクラスのアーティストが自身で配信するしっかりとしたコンテンツだけに、プレスリリースを送られた音楽関係のサイトも記事として紹介しリンクをはることになる。
稲葉浩志自身、落語に関心を持ったのはDVD「歌舞伎座 談志・談春親子会」という落語会(師弟での2人会を親子会と呼ぶ)と会の前後のドキュメントを視聴したことがきっかけのようだ。
たまたま年末に、談志に入門した修業時代を書いたベストセラー「赤めだか」のドラマ放映があり、その関連落語会を稲葉が見に来たということから今回の企画につながっているとのこと。
彼のファン、B’zのファンの中で落語に関心のある人は少ないと思われる。しかし、稲葉が今関心をもっている落語、ということで新鮮な思いで対談を聞く人もいるだろう。そのうちのたとえば0.1パーセントが立川談春のエッセイを読むなりドラマを有料放送で視聴するなり、あるいははずみで談志・談春親子会のDVDを視聴するとなると、まったく新規の層に落語という芸能、落語家立川談志さんというのはロックな人らしい、と訴求できることになる。
最近は同じドラマを同じ時間帯に大勢の人が見る、といったことが少なくなった。それこそワールドカップやオリンピックなどの巨大スポーツイベントならともかく、あの年の夏、あれがあったね、というほどの共有体験を持ちにくいといわれている。
となると、ここに広告を出せば告知がいきわたる、という強い媒体がなくなり、あれもこれもとかつてに比べれば小さなサークルに向けて、きめ細かく告知を積み上げていかなければならない。
ミュージカルや演劇などでも、アイドルや俳優が何人のファンクラブをもっているかということが舞台への出演の際に重視される傾向があるが、それはこういったことから来ている。
狙った層に確実に情報を届けられるプラットフォーム(ファンクラブやアーティストのオフィシャル・ウェブサイト)があり、きちんと管理されていて、そのアーティストやアイドルへのロイヤリティの高いファンの率が高ければ、コンテンツはそのプラットフォームに告知すれば売れるということになるのだから。
プラットフォームとして強力であるためには、オフィシャルサイトがファンに向けた発信をまめにやるのは当然として、ファン向けの独自コンテンツも必須となる。この収録もどのくらいのスタッフと時間、機材等を使っているのかは不明だが、それなりの手間がかかっている分、質も担保されている。こういった独自コンテンツが話題を呼べてかつファンとの交流という点でかなりポイントの高いものだということが知れよう。
自身のオフィシャルサイトをメディアとすること、自分の趣味や関心を通じて、これだけの映像コンテンツを用意し配信できるとなるとマスメディアとの付き合い方も変わってくるのではないだろうか。
アーティストが自身をセルフ・プロデュースする能力が必要になるといわれて久しいが、ウェブによってますますその傾向がはっきりしてきたといえるのだろうか。雑誌かテレビのようなファンサイト。
そこには、いろいろな可能性を感じることができる。今後の展開を注視したい。
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