<テレビ衰退で「有名人」が消滅?>清原容疑者は知っていても清原選手は知らない若者たち
メディアゴン / 2016年2月10日 7時30分
メディアゴン編集部
* * *
今、清原和博容疑者は知らぬ者はいないほど有名だ。しかし、今の若い人たち、高校生や大学生ぐらいになると「元野球選手のオラオラ系タレント」程度が清原容疑者に対する認識だという。
つまり、清原容疑者が高校球児の頃を含め、野球選手として打ち立ててきた数々の記録や、野球選手としての「凄さ」などは、熱心な野球ファンでもない限り、実は多くの若い人は知らないのだ。
そもそも地上波テレビでは野球中継が減少しており、今の若い人は野球自体を見ていないだろう。しかし、今、清原容疑者は知らない若者はいないほど「有名人」だ。
例えば、市川海老蔵が「有名人」なのは歌舞伎役者だからではない。
テレビドラマに出演し、浮き名を流し、有名なアナウンサーと結婚し、ワイドショーが取り上げ、バラエティにも顔をだすから「有名人」なのである。すなわち、海老蔵を有名人たらしめているのは地上波テレビである。市川海老蔵を知っている人のうち、歌舞伎を見たことのある人はどれだけいるのか。
この「有名人」とは、テレビを利用した最大且つ特徴的なビジネスモデルのひとつだ。しかし、テレビ凋落と言われて久しい。このままテレビが衰退していくとしたら、「有名人」というビジネスモデルが維持できるかどうかは疑問だ。
もうひとつ例を挙げる。立川談春という実力を持った落語家がいる。このところ、一般の間でも有名になっている。その理由は、爆発的な視聴率を取った「下町ロケット」(TBS)に役者として出演したからである。落語界には柳家小三治という人間国宝がいるが、小三治師は知らなくても、談春なら知っている人は多い。もちろん、寄席で落語などを見たことがない人がほとんどだろう。
良きにせよ悪きにせよ、和泉元彌が狂言の存在を広く世間に知らしめたことは事実だ。そうでもしなければ、狂言という言葉さえ知らずに一生を終えた日本人が無数にいたはずだ。
このように、伝統芸能の世界では、テレビで「有名人」となった人が広告塔になって、その業界を周知させたり、シーンを引っ張るという役目を果たしてきた。そして、そのようなモデルも現在進行している「テレビの衰退」によって崩壊してしまう。
テレビが衰退したら「有名人」はどうやって生まれるのだろうか?
もちろん、テレビがない時代にも「有名人」は生まれていた。その時代は口コミによって「有名人」が作られた。例えば「西郷隆盛という大人物が江戸にいるらしい」ということは、幕末・維新の動乱にもあまり関わらなかったような片田舎の小藩へも口コミによって伝わっていた。
やがて新聞ができ、ラジオができた。ラジオは顔が伝わらないから、地方の興行では、東京で爆笑を取っている古今亭志ん生が、日本中で同時に落語をやっていた。なぜなら、無名の噺家が興行主から「志ん生という名前でやってくれ」と頼まれて、「志ん生という名前」で落語をしていたからである。
温泉旅館で「川端康成という高名な小説家らしい」と噂を流した詐欺師が、無銭飲食を続けるという設定の映画が不自然なく作れたのはそういうわけだ。
テレビメディア時代になって以降は、あらゆるジャンルで「テレビタレント」として「有名人」になり、それで生計を立てる人が多くなった。特に、大衆芸能というジャンルにおいては、お笑い芸人はテレビの中で「有名人」に成り上がる以外には生計を立てる道はなくなってしまった。
しかしその一方で、テレビは日々、衰退の道を辿っている。テレビがなくなる(か、それに準ずる程度に影響力が低下する)と、当然「テレビタレント」としての「有名人」は成立しなくなる。
テレビの衰退と反比例するように、インターネットメディアが隆盛だ。YouTube、Facebook、Twitter、Netflix、ニコニコ生放送・・・などなど。ここから「有名人」も生まれつつある。テレビ亡き後も、この中で「有名人」になることはこれからもできるだろう。
しかし、そこでの「有名人」は、テレビが作っていたような「有名人」ではない。よりピンポイントで、規模も何分の一、何十分の一な「有名人」になるはずだ。何かを牽引するような「国民的スター」は生まれないだろう。
つまり、地上波テレビの衰退は、そのまま「有名人」ビジネスの終焉になるわけだ。
テレビの衰退とともに圧倒的な「有名人」として金を稼ぐというモデルが崩壊していく可能性は否定できない。それは芸能産業のあり方も大きく変えるはずだ。
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