<なぜ「炎上」は起きるのか>五輪エンブレム選考に見る「日本のデザイナーは勘違いで時代遅れ」
メディアゴン / 2016年2月12日 7時30分
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メディアゴン編集部
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白紙撤回となった昨年の五輪エンブレム騒動から、急ピッチで進められた「新エンブレム公募」。昨年12月7日に締め切られたその応募数は、前回の104件を大きく上回る1万4599件となった。
そして先日、2月9日開かれた第10回エンブレム委員会では、最終審査の前に最終候補4作品を公表し、インターネットおよびハガキによるアンケート形式による意見聴取と、「(オリジナリティーを損なわない程度に)デザインの修正する可能性がる」といった予定と見解が示された。
佐野研二郎氏によるエンブレム騒動は、その凄まじい炎上により、2020年の東京五輪そのものへの不信感、ひいては日本のデザイン業界そのものへの国民的懐疑を生み出した。そのため、仕切り直しの新エンブレム公募では、早くから透明性や公開性が強くアピールされた。決定前の候補作の公表や意見聴取といった方向性は、前回公募で批判された「デザイン業界の内輪感」への反省であり、アピールであるといえよう。
2月10日に発売された藤本貴之氏(東洋大准教授)『だからデザイナーは炎上する』(中公新書ラクレ)は、五輪エンブレム騒動がここまで炎上してしまった背景や流れをまとめ、その原因として、現代のデザイン業界やデザイナーたちが抱える「勘違い」や「時代遅れな感覚」にその病巣を見出し、分析した好著だ。
例えば、王貞治氏を委員に迎えて鳴り物入りで設置された「東京2020エンブレム委員会」であるが、実際の審査実務として、別組織「審査委員」「審査員」が作られていたという事実は、熱心にオリンピック委員会の情報をチェックでもしない限り、普通の人は知らないだろう。
そして、その審査実務を担う「審査員」なる人たちの多くが、前エンブレム騒動で渦中となった、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)所属のデザイナーたちばかりであるという事実などは隠れた情報のひとつだ。もちろん、エンブレム委員である王貞治氏は、「審査員」にはなっていない。これでは「何のための王監督か?」「王監督を目くらましに利用?」と思わざるを得ない。
その一方で、当初19人でスタートした「エンブレム委員会」にいつの間にやら加わっていたのは、JAGDAの会長や理事の経験者たち。しかも公表された情報には、そういった記述はなく、意図的に隠しているのかと邪推してしまう。前回ほどではないにせよ、不信と疑問は残る。
前回のような炎上があってもなお、なぜ、このような状況が発生してしまうのか。日本の「デザイナーコミュニティ」が持つ「勘違い」や「時代遅れな感覚」にもその要因があるという指摘は、藤本氏自身がJAGDA会員であるため、リアリティがある。
また、同書では盗作や剽窃を含め、「似ていること」「参考にすること」「トレースすること」などを、すべて「パクリ」としてひとくくりに表現してしまう現在の風潮にも警鐘を鳴らす。一般に「パクリ」と言われる表現にも様々なものがあり、必ずしも犯罪でも悪でもない場合も少なくない。それらをすべて分類し、わかりやすく説明している。
「似ること」をすべて「パクリ」と表現することで、すべてを犯罪的な行為に置換してしまう風潮は、五輪エンブレム騒動が産み出した最大の「罪」であると言えるかもしれない。
いよいよ3月、4月には新エンブレムが決定する。もちろん、その前には最終候補4作品の公表もなされる。さすがに、前回のようなスキャンダルになることはないだろうが、五輪エンブレムの話題は、今後も日本のデザイン業界/デザインのあり方を考える上で、重要な「ケーススタディ」になることには違いない。
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