<笑福亭学光が認定「お笑い福祉士」>介護施設に笑いを届ける有資格者450人
メディアゴン / 2016年2月19日 7時30分
黒田麻衣子[国語教師]
* * *
先日、筆者の地元で『笑福亭鶴瓶・笑福亭学光 二人会』が開かれた。
落語会は、「落語界の松坂大輔」笑福亭喬若の落語で始まり、鶴瓶師匠・学光師匠がそれぞれ二席ずつ披露してくださった。千人に満たない客席は、お二人の爆笑噺に大いに沸き、笑い、人情噺ではそっと小袖で目頭をぬぐった。
地方都市では、テレビという箱を通さずにナマでプロの舞台芸術を楽しむ機会は、そう多くはない。プロの劇団による演劇やミュージカルは年に数回あれば良い方だし、歌舞伎やクラシックコンサートは年に1回あるかないか。ミュージシャンによるライブは、大きな会場がないので、スキップされることが多い。
そういった環境にあって、落語の寄席だけは、比較的、開催されている。とはいえ、全国的にも有名な噺家さんが来てくださることは、めったにない。
今回は、学光師匠に鶴瓶師匠の方から「徳島で落語会するんやったら出るよ」との言葉がけがあり、二人会開催をお願いしたところ、鶴瓶師匠が快諾くださったのだそうだ。
田舎町ゆえ、鶴瓶師匠をお迎えするには小さすぎるハコしかなくて、チケットは早々に売り切れ、当日券を求めたお客様が、朝早くから寒風吹きすさぶなか、会場前に行列を作っていた。(もっとも、「落語会」としてはちょうどよい大きさのハコだったのかもしれないけれど。)
鶴瓶師匠のような、落語愛好家以外にも名の知れた噺家がナマで落語を披露してくださるとなると、落語に興味のない人であっても、「行ってみようか」という気持ちになる。テレビでは味わえないナマの熱量に触れると、落語に興味も湧いてくる。
古典芸能を、伝統文化を次世代に継承していくためには、継承者自身が有名になり、こうして地方に足を運んでくださることが、とても有益だと感じた。筆者自身、古典文学を通して、日本の文化や伝統を教え伝える立場にあるので、多忙な中、徳島に足を運んでくださった鶴瓶師匠をありがたいと思った。
今回の落語二人会は、親や祖父母へのプレゼントとしてチケットを買い求めた人も多かったと聞く。子や孫からの愛情を胸に、会場に足を運んだ老齢の方々は、二重三重に胸弾む落語会であったに違いない。
そして、この落語会の運営を、ボランティアで支えたのは、「お笑い福祉士」の人たちだった。「お笑い福祉士」とは、この落語会の主催者である笑福亭学光師匠が制定した資格で、介護施設に笑いを届けるボランティアの皆さんだ。
徳島が発祥で、その輪は中四国や関西にも広がり、現在は全国に450人くらい資格を持った人がいる。学光師匠は、「お笑い福祉士」の養成と普及に力を注いでいる。
古典芸能を通じて広がる、新たな世界。継承と開拓。
落語には、派手な舞台装置も、きらびやかな衣装もない。座布団一枚とお扇子があれば、そこはもう立派な高台。だからこそ、ごまかしの利かないシビアな世界。それでいて、客には何の作法も求めない。
落語は、古典という重い伝統を背負いながら、どこまでも庶民的な文化だとあらためて実感した。
あなたの住む町でも、きっと近々、寄席が開催されている。一度、足を運んでみてはどうだろうか。
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