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教員免許を持たずに32年間も教壇に立てた高校教諭のカラクリ

メディアゴン / 2016年2月24日 7時30分

黒田麻衣子[国語教師]

* * *

山形県で、教員免許を持っていない女性が、教員採用試験に合格し、32年間も教鞭を執っていたことが大きなニュースになった。

多くの人は、なぜこのような状況が起きてしまったのか、不可解に思っていることだろう。そこで、事件の背景を、筆者なりに分析してみる。

まずは、筆者の実体験から述べてみたい。

筆者は、国立大学教育学部を卒業し、公立高教員採用試験に合格して、地元で高校教諭となった。筆者の卒業大学では、教員免許取得が卒業条件であったため、学務係が一括で免許申請の手続きを取ってくれた。

と、ここで一つ目のハテナが皆さまの頭には思い浮かぶかもしれない。

 「教育学部なのに、教員免許を取らなくてもいい大学があるの?」

あるのだ。「ゼロ免課程」と言って、免許ゼロで卒業できる課程がある。最近は、教育学部であっても、教員免許を取得しないまま卒業する人も多いのである。

逆に、教育学部以外でも、いわゆる「教職課程」を履修して単位認定を受ければ、教員免許が交付される。高校の教員には、文学部や理学部、体育学部や経済学部など、教育学部以外の出身者もけっこういらっしゃる。

また、卒業後であっても、通信制大学や放送大学の科目履修制度を使って、教職課程の単位を修得し、教員免許取得要件を満たせば、卒業時の「単位修得証明書」と合わせて都道府県教育委員会に申請することで、教員免許が交付される。

はい。ここで、二つ目のハテナ。

 「教員免許って、都道府県教育委員会なの?」

そうなのだ。筆者も、大学卒業時にいただいた免許状が、地元の教育委員会が交付したものであったことに驚愕した。

国家資格なのだから、文部科学省とかが交付してくれるものだと思いこんでいたからだ。教員免許状交付の手続きは、教育委員会が行っている。大学の学務係が一括で代理申請する場合、当該大学の所在地の教育委員会となるので、県外からの進学者であっても、大学所在地の教育委員会交付となる。

もちろん、全国で通用する免許状だ。運転免許証と同じだと思っていただけたら、わかりやすいだろう。

さて、就職試験は皆さん、大学在学時に受験する。教員採用試験も同じだ。在学時、つまり、厳密にはまだ教員免許状を発行されていない時期に採用試験を受験し、一発合格なら、免許取得していないまま、合格内定を手にすることになる。

「取得見込み」で受験し合格したわけだから、卒業後、正式採用までに免許取得しなければならない。

こうした一連の流れの中で、今回のような悲劇は、なぜ起きたのか。

まず考えられるのは、当該女性が、大学卒業後に受験した採用試験で任用されたということで、免許状のチェックが甘くなったことだ。

卒業前に「取得見込み」で合格していれば、「本当に免許取得したか?」と委員会も確認を怠らなかっただろう。しかも、彼女は、年齢からして昭和の時代に大学を卒業している。

当時の教育学部では、ゼロ免課程は皆無だった。つまり、「教育学部を卒業しているなら、教員免許は持っているよね」という暗黙の了解が働いてしまった可能性がある。

だから、本来なら採用時に提出させる必要がある「教員免許状の写し」を、確認しないままスルーしてしまったのだろう。もちろん、免許取得しないままに採用試験を受験し、任用された女性がいちばん悪いのだけれど、提出を督促しなかった当時の管理職や山形県教育委員会も、責任は重い。

採用時に、委員会が強烈に督促していれば、きっと当該女性も、早晩、免許申請をしていたことだろう。

教育現場では、一度採用されてしまえば、免許の原本を再確認されることは、ほぼない。

公立校では、毎年、書類に自分の取得している免許の種類(例えば、「高校の国語一種」など)を書くことはあるが、それを証明する書類の添付は求められない。採用時に確認済みであるとの見解からだ。

免許更新制度はできたけれど、施行当時、すでに採用されていた(免許取得済みであった)教員たちは、生まれ年で最初の更新期間を定められた。

ちなみに、筆者はたまたまいちばん遅いローテーションの生まれ年であったため、更新制度が始まって、まだ一度も更新していない。筆者は、来年度から更新のための講習受講期間が始まる。

つまり、筆者と同じローテーションに区割りされた人たちは、採用後、まだ一度も免許状の提示を求められていないことになる。今回の女性も、更新期限が迫ったことでやっと発覚している。

そもそも、教員免許状なんて、数十年も前にもらった「1枚の紙切れ」だ。今まで一度も使う必要のなかった紙切れを、全教職員が後生大事に取ってあるだろうか。

公立校の教員は、数年に一度、異動があり、勤務校が変わる。そのたびに、仕事道具の一切合切を持って、赴任地に移動する。

その何回かのお引越の最中に、「1枚の紙切れ」は行方不明になってしまった、と言われてしまえば、「さもありなん」と思ってしまう。

今回の悲劇も、そういったところだろう。教育現場は、もともと「性善説」の考え方をする場所だ。正規採用されている中に無免許の教員がいるなど、考えもしなかったのだろう。

とはいえ、教員はその資格でもって授業を担当し、担当した授業で目の前の生徒に、単位を認定する。無免許の教員に単位を認定する資格があるはずもなく、女性の犯した罪は重い。

いや、女性だけの責任では無い。国民に対する、教育界全体の裏切り行為である。

今回の事件を受けて、各都道府県では、全員の教職員に免許状の写しの提出が義務づけられることだろう。

今はただ、2人目3人目が出ないことを祈るばかりである。

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