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<ギャラクシー賞受賞「赤めだか」>二宮和也と北野武らによる落語家青春グラフィティ

メディアゴン / 2016年2月27日 7時30分

水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

* * *

2月22日、年末にTBSで放送された年末ドラマ特別企画「赤めだか」が、ギャラクシー賞の1月の月間賞を受賞した。優れたテレビドラマに与えられる同賞にふさわしい傑作だ。改めて観て、泣き、笑った。

【オープニング】

真っ赤なセットの中に、スポットライトを浴びた笑福亭鶴瓶が立っている。いきなり、亡くなる少し前の立川談志を病院に見舞いに行ったときの話を始める。その話芸に、ドラマのオープニングであることも忘れて、思わずひき込まれるが、それを遮って、薬師丸ひろ子のナレーションが入り、ドラマ「赤めだか」は始まった。

昭和後期の名人、故・立川談志の弟子の立川談春が、2005年から雑誌に連載したエッセイを2008年に単行本化した「赤めだか」が原作だ。

17歳で立川談志に弟子入りし、真打になるまでの青春グラフィティである。このうち、ドラマでは二つ目(前座の上、真打の手前)にあがるまでが描かれている。

弟子たちに理不尽な注文をくりかえす立川流家元・立川談志と、その師匠の注文にくらいついていく弟子たちの姿をコミカルに描いていた。その根底には、師匠の弟子たちへの愛情があり、弟子たちの師匠への尊敬がある-現代社会では芸事の世界くらいにしか残っていない、この<師匠と弟子>という関係性が、どこかいとおしく思われるドラマだった。

立川談春と言えば、今一番チケットがとれないと言われる人気の落語家だが、最近では「ルーズヴェルト・ゲーム」のイツワ電器・坂東社長や「下町ロケット」の佃製作所・殿村部長でも知られるようになった。

【<二宮>談春と<たけし>談志】

立川談春役に嵐の二宮和也、 立川談志役にはビートたけし。

二宮は以前から、話し方と発声が噺家さんみたいだな、と思っていたので、このキャスティングには膝を打った。その二宮は、ドラマの完成試写会で「観た人だけが得をする」と独特の言い回しでコメントをした。

聞きようによっては傲慢とも受け取られかねない言い方だが、そうではない。二宮は、原作の面白さ、ビートたけしの芝居、その他の豪華出演者、このドラマに仕込まれた数々の仕掛け、そして何よりドラマ自体の完成度に、自分のことはさておき、イチ視聴者目線で「観ないと損だよ!」をひっくりかえして言ったのだ。梨(なし)をひっくりかえして「ありの実」というようなものか。

一方の談志役のビートたけし。たけしは、立川流とたけし軍団を重ね合わせていたように思う。家元・立川談志と殿・ビートたけしのハーフ・ハーフのような芝居。これがまた楽しい。

談春は、完成したドラマを観て「談志でもなく、ビートたけしでもない、異様なものを見た」とコメントし、それをたけしは褒め言葉と受け止めたと述べている(番組公式サイトでの二宮との対談より)。

【弟弟子・志らくへの嫉妬】

談志の弟子のうち、志の輔(香川照之)は別格の兄貴分。その弟弟子にあたる、談々(北村有起哉)、関西(宮川大輔)、談春、ダンボール(原作では談秋。新井浩文)の4人の修行生活の泣き笑いが描かれる。

17歳で入門早々に<立川談春>という立派な名前をもらい、<坊や>と呼ばれて可愛がられていた談春は、ある日、談志から稽古をつけてやる、と言われるが、風邪をひいていて師匠に感染しちゃいけない、と稽古を断る。その日から談志の談春への態度が一変、目も合わせてもらえず、築地の魚河岸に1年間の修行に出されてしまう。

その間、構成作家の高田文夫(オールナイトニッポンでビートたけしの相手役で笑っていたのが懐かしい)の紹介で新しい弟子が入門してくる。<志らく>と名付けられたその若者は、早々に談志に才能を認められ、築地修行を断っても破門もされない特別扱い。談春は、志らくに嫉妬する。

ある日、談志は、志らくに稽古をつけた後、「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と言う。談春が陰にいるのを知っていて、聞こえよがしに話す。原作では、談春は二人きりの場面で直接談志から言われたという。このあたり、ドラマの演出の秀逸なところだ。

 「己(おのれ)が努力、行動を起こさずに、相手の弱みをあげつらって、自分のレベルまで下げる行為、それを嫉妬と言うんです。」

 談志が本気になると、ですます調になる癖があったことは、原作からもうかがわれる。

 「よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中が悪いのと言ったところで状況は何も変わらない。・・現状を理解し、分析しろ。そこには必ずなぜそうなったかという原因がある。それが認識できたらあとは行動すればいいんだ。そういう状況判断もできない奴を、俺の基準では『バカ』と言う。」

この<談志>のセリフを<たけし>の口から聞けただけでも、このドラマは観る価値があった。

それから談春は、志らくとつるむようになる。

談志から「なんかわからないことがあったら、志らくに教えてもらえ」とまで言われても、現実は正解なんだ、と受け止められるようになる。

志らくは談春に<二人勉強会>をやろうともちかける。この志らく役が、濱田岳。auのCMで金太郎や二宮金次郎を演じているのでお馴染みの方も多いだろう。この濱田・志らくが実に上手い。志らくの声の細さ、女役をやるときの色っぽさ、とろんとした目つき。

大ネタの「文七元結」を、<濱田>志らくと<二宮>談春がそれぞれ演じる場面があるが、濱田に軍配をあげざるを得ない。二宮君がラストで演じた「芝浜」もなかなかでしたが。

その後、4人は二つ目昇進試験を受け、みごと全員合格、二つ目披露が盛大に行われる。立川流を批判し続けた演芸評論家(リリー・フランキー)へ啖呵を切るシーンもあり、しっかりとドラマのカタルシスを感じさせて終わる。

ドラマでは出てこないが、その後、談春と志らくは「立川ボーイズ」としてテレビの深夜番組「ヨタロー」に出演。筆者もその番組で二人を知った。志らくは、ブレイクした頃のビートたけしを彷彿とさせた。酔っぱらってんじゃないの?と心配になるくらいの危うい感じ。

これに対して、談春は顔もいかつく、深夜のお笑い番組としては少々オールドファッションな印象。落語素人の若造だった筆者は、志らくや昇太の方に親しみを覚えた。

【音楽とキャスティング】

制作スタッフは、「半沢直樹」、「下町ロケット」のプロデューサー伊與田英徳に渡瀬暁彦、脚本は八津弘幸、演出はタカハタ秀太。

談志は「落語はリズムとメロディーだ」という。その言葉そのままにタカハタの演出は音楽のリズムとメロディーに乗っていた。

オープニングは「スーパースティション」。ドラマが走り始める場面では、「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」、「黒く塗れ」、「1000のバイオリン」、「田園」。ドラマチックな場面では、「レット・イット・ビー」。しんみりさせるシーンでは、たけしの「嘲笑」、「スローバラード」、「浅草キッド」(福山雅治カヴァー)。希望が見えてきた場面では、「デイドリーム・ビリーヴァー」、「Ya Ya あの時代を忘れない」などなど-。

80年代、90年代の青春にいつも流れていた音楽ばかり。この音楽に乗せた演出が冴えわたっていた。タカハタ自身の選曲だろうか。演出とぴったり合っていた。

キャスティングがまた楽しい。先代中村勘九郎役を息子の勘九郎が演じ、先代三遊亭圓楽を現・圓楽(元・楽太郎)が演じる。春風亭小朝と春風亭昇太は本人役で出演。さだまさし、柳家喬太郎、リリー・フランキーも大事な役どころ。

談志の弟子を辞めてたけし軍団入りした立川談かん、ことダンカン本人も配達員役で出演。落語界やその周囲への造詣と深い愛情が感じられる。

この信じられないようなキャスティング、タカハタのリクエストに伊與田プロデューサーが応えて実現したものだという。タカハタは自身のツイッターで

 「二宮談春たけし談志確定後、半ば冗談で提案した他の豪華キャスト陣をほぼ満額回答でキャスティングしてくれた伊與田P」

とつぶやいている。

【「赤めだか」というタイトル】

ドラマは盛大な二つ目昇進お披露目会のシーンで終わる。が、原作では、このあと、志らくが先に真打になるという現実の展開も描いている。後から真打試験を受ける談春は、意地と自信で、談志だけでなく落語界を驚かす仕掛けを用意する。みごと真打昇進を果たすのだが、それは原作のお楽しみとしておこう。

タイトルの「赤めだか」。原作では、ちっとも大きくならない談志の飼っていた金魚を弟子たちがばかにして、赤めだか、と呼んでいたことが由来。

ドラマでは、談志から「金魚を買ってこい」と渡された金を談春がダンボールのお別れの飲み代につかってしまい、残りの金で買った赤めだかを「新種の金魚」とうそをついて渡したことになっている(談志はあとで「赤めだかは金魚にならんだろう」と、ぼさっとつぶやく)。

「金魚かメダカか」はともかく、どちらもいくら餌をやってもなかなか大きくならない小魚たちに、前座の噺家たちが重ねられていた。

 【<鶴のひと声>から始まった企画>】

演出のタカハタは、2000年の笑福亭鶴瓶の落語ツアーの打上げの席で唐突に鶴瓶からこう言われたという。

 「タカハタ〜お前、赤めだか、せ〜!」

タカハタは隣にいた談春とポカンと顔を見合わせたという。

 「鶴のひと声から始まった赤めだか」

タカハタは自身のツイッターでつぶやいた。

ドラマが鶴瓶の話で始まり、鶴瓶の話で終わるのは、こういうしだいである。

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