テレビが映し出す「弱い人を見つけてイジメて喜ぶ番組」が流行る理由
メディアゴン / 2016年3月9日 7時30分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
「面白い番組」とはどんなものなのだろうかと、考えると、時代の雰囲気というのが案外重要な気がしてくる。時代の雰囲気が変わってしまうと「なんであの番組があれほど受けたのだろうか?」と思うようになる。
この雰囲気というのが意外に難しい。やはり世相を反映しているとしかいえない。バブルに向かった時代と破綻した後ではやはり違う。その時代その時代にテレビの番組は対応してきたのだろう。
逆に言えば対応したものだけが残され、対応しないものは消えて行った。かつて当たった番組をもう一度リメイクして当てるのは至難の業だ。
何でそんなにがんばるのか、とちょっと斜めに向いて生きていくようなものが共感をもたれる時代もあれば、困難にめげずにがんばる姿が共感される時代もある。
古い時代で言えば「スーダラ節」が流行る時代もあった。やはり特異な時代と言えるのだろう。世の中相当がんばる人が多かったから「気楽のススメ」が売れたのだろう。今、こんな感覚の歌や番組が売れるとも思えない。
最近、浅丘ルリ子の若い頃の映画を見る機会があった。「憎いあンちくしょう」と「夜明けのうた」だ。ともに1960年代の初めの映画である。二つの映画ともある雰囲気が似ている。ともかく現状に不満なのだ。でもそれが何なのか表現されていない。倦怠感そのものが、ある価値観のようになっている。
蔵原惟繕監督の映画でヌーベルバーグと言われ、当時支持された映画だ。今見ると、何にイライラしているのかがわからない。たぶん当時はわかったのだろうが、今はわからない。
60年の高揚があったものの、結局それが何も生むことはなく、次から次に新しい時代に書き換えられていく、所得倍増計画が始まった時代だ。どんどん人々はがんばっていく。生活は改善されていった。
だが、失うものもあったのだろう。それが雰囲気を造ったのだろうが、今は伝わらない。
この時期に「スーダラ節」が作られた。
「気分を伝える」ということは難しいのだ。共有している人にとっては自明のことだが、共有していない人にとっては説明されないと分からない。だが説明されると陳腐なものでしかない。何をイライラしているの? で終わってしまう。
今はどんな時代の気分なのだろうか? を考えてみる。苛立ちの時代はとっくに終わっている。
では何か? ちょっとヒントになるかなと思うことがある。
「弱い人を見つけていじめて喜ぶような番組」が相変わらず流行っていることだ。今は素人相手にやるわけには行かないから、そういう人を探し、芸人という呼び名で呼んでいる。それが高じて悲惨さ自慢の番組が増えた。ここに時代の雰囲気を感じる。
群れていたい時代なのではないか。群れていないと不安になる。群れから外れることがいじめになる時代。その儀式としていじめが次から次に起こる。いつから群れから外れることを怖れる時代になったのだろうか。
たとえば今、テレビも新聞も孤独死を悲惨なものとして執拗に迫る。本当にそうなのか疑問もある。施設の中でプライバシーもなく死ぬほうがよほど悲惨のように思える。「孤独死出来」る場所がなくなっているのではないか。
それほど群れが必要なのか。社会にそれほどコミットしなければならないのか。コミットしなくても良いと思えば逆にイライラもなくなるのではないか。「個食で結構」という考えもあるのではと思う。
今、大人も子供も一人遊び、一人勉強が流行っている。ゲームやインターネットとはそういう媒体だ。それが蔓延している。
だが社会の風潮がそれで、まだまだ群れることを求めている。番組作りも同じように思える。時代の気分はもう変わってきているのに、以前の気分で番組が作られている。仲間はずれを怖れる番組が作られている。これではますます見る人がいなくなる。
たぶん群れを求めていた時代があったのだろう。確かにそういう時代の方が自然だ。だが、求めていた群れは、理想どおりには行かなかった。そういった番組には今ほとんどの人がしらけてしまう。
理想の学校、理想の家族を求める番組にはリアリティーがなくなった。だからと言って、群れを維持するために群れの団結をいじめと言う手段で求め続けるのはもういい加減終わりだろう。
今、時代の雰囲気をうまく言い当てる人が必要だ。
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