<総合放送の崩壊>テレビは日本に残った最後の「護送船団ビジネス」
メディアゴン / 2016年7月4日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「総合放送」というビジネスモデルは崩壊しているように思う。「総合放送」とは、笑いも、トークも、音楽も、ドラマも、報道も、情報も、教育もすべてのジャンルを過不足なく放送することを言う。筆者は、これまでの放送作家人生で、これらのほとんどすべてに関わってきた。
「放送法」第百六条では、テレビ放送について次のように定めている。
「第百六条 基幹放送事業者は、テレビジョン放送による国内基幹放送及び内外基幹放送(中略)の放送番組の編集に当たつては、特別な事業計画によるものを除くほか、教養番組又は教育番組並びに報道番組及び娯楽番組を設け、放送番組の相互の間の調和を保つようにしなければならない。」
国内基幹放送というのは、おおざっぱに「テレビ局」と同義と考えてもらっていい。つまり、テレビ局は法律によって「総合放送」をすることを求められている。
では、民放各局に教育番組があるかというと、思いつくものはきわめて少ない。なぜなら「これは教育番組ですよ」と、放送局がある番組を指定し、決めているのだ。動物を扱う番組などは教育番組の範疇に入れられていることが多い。
この縛りは、今日のテレビ局にとっては足かせだ。視聴率を第一に考えた時に、数字を取ることが出来ない/取りづらいジャンルが厳然として存在してしまうからだ。変化の激しい時代や流行にも迅速に対応できない。
【参考】<テレビの病巣>上手な嘘がつけない最低なディレクターの存在
筆者が40代であった1990年代はまだテレビは何でも出てくる魔法の箱で、「総合放送」という表現がよく似合っていた。ところが今はどうか。
あれもこれもやって、あれもこれも視聴率を取らなければいけない。だから視聴者にスリ寄って行かざるをえなくなる。しかも、スリ寄り方を間違えていることも多く、「この視聴者に媚びるテレビは何なのか」と心ある人の反感を呼ぶことも珍しくない。やることやることが裏目にばかり出てしまう。クオリティだって低下する。
もちろん、テレビの世界には「見てもらってナンボ」という言葉がある。筆者も昔からよく言う言葉だ。
「どうせ番組をつくるなら、出来るだけ多くの人に見てもらった方がいいじゃないか。見てもらえないテレビほど寂しいものはない。テレビ局もそれで儲けているんだ。それに、多くの人に見てもえば、番組の志もより多くの人に伝わるではないか」
といった意味を含んでいる。
今の時代でも、この「見てもらってナンボ」は通じるのか。おそらく時代にはあっていないだろう。むしろ「見てもらいたい人に見てもらってナンボ」という風に替えなければならないはずだ。
キー局もそのことは分かっているのだと思う。特にマーケティングの部局にいて、視聴率調査会社「ビデオリサーチ」のデータを縦横に使える立場にいる人にとっては自明のことだろう。
では、なぜそうならないのか。それは放送法があるからだ。では、なぜ放送法は変わらないのか?
【参考】<ワイドショーはなぜ「しつこい」のか>「金と女と事件と他人の不幸と強欲」は視聴率がとれる?
それは、テレビ業界が日本に唯一残っている「政府丸抱えの護送船団ビジネスだから」である。利権があるうちはまだ変えない方が良い、監視下に置いた方が都合が良い、ということだ。そんなものは、そう遠くない将来、ITの技術革新や環境の変化によって押し流されてしまうことは明らかであるにも関わらずだ。
テレビの他に、もうひとつ残っていた護送船団ビジネスであった電力業界は、電力小売り自由化によって沖縄電力のを除く電力9社体制が崩れた。もちろん、本当は政府は電力を握っておきたかったはずだ。しかし、それが崩れ、出来なくなった。
・・・となると、残った「最後のひとつ」、どうしても握っておきたいのは許認可事業の放送であろう。放送はもともと「政府のモノ」だと思っているから、「停波発言」のようなものも飛び出す。
自由にビジネスモデルが変えられない企業など、そもそも資本主義の社会にあっていいものか、と疑問視する論調は、決して少なくない。しかし、それでも日本のテレビは、勘所を握られたまま、進んでゆくしかないのだろうか。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
NHKスペシャルで「ジャニーズ性加害問題」を語ったら…テレ東OBにかかった「一本の電話」が示すテレビ局の体質
プレジデントオンライン / 2024年11月18日 8時15分
-
なぜ裏方だった佐久間宣行はお笑い界、テレビ界で無視できないほどの快進撃を見せているのか?
集英社オンライン / 2024年11月13日 11時0分
-
「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ
集英社オンライン / 2024年11月12日 11時0分
-
「カンブリア宮殿」放送開始18年経ても快走のナゾ 一時の勢いだけでは「企業も経営者も取り上げない」
東洋経済オンライン / 2024年11月7日 11時30分
-
「ゴロ寝でドラマの見逃し視聴」がTV局のドル箱…フジテレビが足向けて寝られない"古くて新しい芸能事務所"
プレジデントオンライン / 2024年11月1日 10時15分
ランキング
-
1池袋暴走事故の飯塚幸三受刑者(93)が死亡 松永拓也さん「後悔や経験の言葉を託された。死を無駄にしたくない」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月25日 11時38分
-
2ALS嘱託殺人 被告の医師に2審も懲役18年 大阪高裁が控訴棄却
毎日新聞 / 2024年11月25日 10時51分
-
3高市早苗氏はいつ「タカ派政治家」になったのか…「ポスト石破」に一番近い女性政治家の"克服すべき弱点"
プレジデントオンライン / 2024年11月25日 8時15分
-
4【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
NEWSポストセブン / 2024年11月25日 7時15分
-
5「佐渡島の金山」の追悼式には不参加 韓国側が佐渡市で独自の追悼行事 《新潟》
TeNYテレビ新潟 / 2024年11月25日 12時1分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください