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<テレビで辛辣なショウビズ批評は可能か?>芸能ジャーナリズムの最先端を走る「サンデージャポン」

メディアゴン / 2016年4月3日 7時40分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

「芸能ジャーナリズム」という摩訶不思議な言葉がある。本来くっつきにくい芸能とジャーナリズムの合成語だから変に感じるのだろう。

なぜならジャーナリズムとは、ニュースを収集し、選択・分析を行い、世論形成や定期性などの諸要素を鑑みて、論評・解説を、継統的かつ定期的に流布する過程のことであるからだ。ジャーナリストとはつまり崇高な人々なのであって、「芸能ジャーナリズム」は本来、芸能スキャンダリズムとか、芸能御用報告とか、芸能ステルスマーケタリズムとか名乗るべきであろう。

ところがである。アメリカには「ショウビズジャーナリズム」と言う分野がきちんと成立している。

ハリウッドやブロードウェイのショウビジネスの世界をきちんと批評し、時には痛烈なダメを出す。その批評によって客の入りはもちろん大きく左右される。

筆者はかつて、この辛辣なショウビズ批評を日本のテレビでやろうとしたことがある。もちろん、プロデューサーは言下に「ダメです」と震えた。

しかし、かつては辛辣なショウビズ批評がテレビで放送されていたことはある。往年の名ワイドショー「小川宏ショー」(1965〜1982・フジテレビ)にある時、高名な歌舞伎役者が出演していた。司会の小川さんは、当然、公演中の舞台を見ており「あそこはダメだった」など辛辣に批評した。それを受けた役者の方も「そういうやり方もありですか」など反省したり、コメントしたりと盛んなやりとりをしていたのである。

批評し、批評される司会者と演者という2人のプロ。ここでは芸能ジャーナリズムがきちんと成立していたのだ。

勝新太郎さんという誰もが恐れおののく怖い役者さんが居た。勝さんは勝アカデミーを主宰、後進の役者を教えていた。その塾生であった小堺一機が勝さんの芝居を見に行った。

楽屋によって挨拶だけして帰ろうと小堺さんは思った。ノックしてドアを開けると勝さんの後ろ姿が見えた。ドーランを落としていたのである。

小堺さん「「勉強になりました」とだけ声を掛け、帰ろうと腰を浮かした。ところが、その時である、勝さんは胴間声でこう言ったという。

 「小堺、お前もプロならダメなところのひとつやふたつは見つけただろう。どこが悪かったか、言ってみろ」

言えるものではない。小堺さんの緊張する状況が分かる。

ひとつ言えることは勝さんが芝居を良くすることに貪欲だったことだ。はるかに年下の、まだ、芸能人見習いの小堺さんにさえ、どこかダメだったかを聞いて、芝居をよくしたいと思っていたことに、筆者は感銘を受ける。

芸能ジャーナリズムを成り立たせるには、勝さんくらいの気概が欲しい。「勉強になりました」は、何も勉強していないことを白状したようなものだ、と、いまの小堺さんなら思うだろう。

ところで、芸能ネタは一朝一夕には取材できないそうだ。まず、取材する側(たとえばテレビ)が取材される側(たとえば芸能プロダクション・芸能人)に多くを与える。宣伝してあげる。都合の悪いところには耳にフタしてあげる、などだ。

その長きにわたる「ご奉公」が認められると初めて、取材される側に取材する側が呼んでもらえることになるのである。時には饗応も付くのだろう。

つまり、芸能取材はギブ&テイクなくしては成立しない。今は取材する側のギブギブギブギブギブ、それでようやく、1回テイクくらいの割合かもしれない。

昔の話になるが、筆者は「ぴったし カン・カン」(1975〜1986・TBS)という番組をやっていた。現在、安住紳一郎アナが司会を務めている「ぴったんこカン・カン」(2003〜・TBS)とは全く別物で、芸能人・有名人の個人エピソードをクイズにするという番組だ。この番組は常時、視聴率30%を越えていた。

エピソードをクイズにすることなどない時代だったから、芸能人には警戒された。「『スター千一夜』のクイズ版です」と説明した。

 「たくさん聞きますけど、僕たちは週刊誌じゃないのでスキャンダルはやりません、嫌なことは答えなくてもいいです」

と担当者は著名人たちに説明した。ゆうに2時間かけての取材だった。今は1、2枚のアンケート用紙を配って芸能人に記入させるという安直な取材方法が主流になっている。あの手のアンケートは芸能人側からすれば、何度もやらされて飽きることだろう。本人ではなくマネジャーが書くことだってあろう。

そんなぴったし カン・カン」であるが、番組の知名度が上がると取材は格段にしやすくなった。大女優・山本陽子さんは取材部屋にはいって来るなり「あたし、ウンチもらしたことあるの。これ、クイズになるでしょ」と、言った。「すみません。なりません」「ならないか。そうよね。なるわけないよね」と言って、陽子さんは少女のようにケラケラ笑った。この番組のお陰で陽子さんが深夜に車を駆るカーマニアであることを聞き出せた。

木の実ナナさんは、いつもハンドバッグの隅に線香花火を忍ばせていた。気持ちが暗くなるとスタジオの片隅で密かに花火を見つめるのだ。透き通る肌の夏目雅子さんにも会えた。芸能界とテレビがよい関係の時代に仕事が出来た筆者は幸せだったのだろう。

現在、芸能界とテレビの微妙な関係をうまく映像化している数少ない番組といえば「サンデージャポン」(TBS)だ。ここに出演するサンジャポ・ジャーナリストという人たちは、芸能ジャーナリズムの最先端を走っている。

この番組がワイドショーをワイドショーにするというメタワイドショーの設定を持っているが故である。ギブ&テイクなし。聞きにくいことを取材にかこつけて聞くという趣向はおもしろい。

これを扱うのに爆笑問題はピカイチのキャスティングである。太田光が、一線を越えるコメントを飛ばし、田中裕二が日本一の危機管理のテクニックを見せる。ウラでやっている「ワイドナショー」(フジテレビ)は、松本人志のコメントだけが頼りなのでまだまだ叶わないだろう。

さらに言えば、「サンデージャポン」は新しいコメンテーターの発掘力を持っている。これは普通のワイドショーがやらなければいけないのに、やっていないことだ。

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