<強まる報道圧力>政府から独立しているはずの原子力規制委が朝日新聞に取材規制
メディアゴン / 2016年4月1日 7時30分
上出義樹[フリーランス記者/元・北海道新聞]
* * *
高市早苗総務相が繰り返す放送局への恫喝発言をはじめ、安倍晋三政権の高圧的なマスコミ対策のもとで新聞やテレビの萎縮が指摘されている。
そんな中、政府から独立しているはずの原子力規制委員会も「報道圧力」の片棒を担ぐかのように、朝日新聞社に対し、放射線測定体制の不備を批判する記事が原発周辺の住民らに「無用な不安をあおりたてた」として厳重抗議と取材の規制を行い、私も参加する同規制委の記者会見で問題になっている。
政府機関による取材規制は報道の自由、ひいては表現の自由にもかかわる行為であり、今回の朝日「処分」問題のポイントや背景を整理し、検証したい。
<1面と社説で川内原発の放射線測定体制の「不備」指摘>
原子力規制委が抗議した朝日の記事は3月14日付朝刊の1面トップと3面の解説、さらに15日付社説で、昨年8月に再稼働した鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原発周辺に設置した放射線量監視のためのモニタリングポストのうち、「ほぼ半数が高い放射線量を測れない」と指摘し、住民避難の判断に支障が起きかねないことを問題視している。
東京電力福島第一原発事故後の国の原子力災害対策指針は、原発から5キロ圏内は大事故が起きたらすぐに避難し、5-30キロ圏はまず、屋内退避した後、ポストの放射線測定値をみて国が避難すべきかどうか判断する。5-30キロ圏で、毎時20マイクロシーベルトが1日続いたら1週間以内に、毎時500マイクロに達したらすぐに避難するなどの基準を示している。
朝日の一連の記事は、川内原発1号機の5-30キロ圏にある48台のポストのうち、「22台は毎時80マイクロまでしか測れず、すぐに避難する判断には使えない」と、指摘している。
<朝日の記事を田中委員長が『不安をあおりたて犯罪的」と糾弾>
これに対し、原子力規制委員会はまず、15日付ホームページで、朝日の記事が「読者に誤解を生じるおそれがある」と反論。モニタリングポストの設置は「合理的なものになっている」と、測定方法などを具体的に説明している。
同規制委の朝日への反論は、16日の定例会と定例後に開かれた記者会見でさらにエスカレートする。田中俊一委員長は「立地自治体や周辺の方たちに無用な不安をあおり立てたという意味で非常に犯罪的」と糾弾し、「半分測れるとか、測れないとかが問題ではない。
われわれがモニタリングによって(避難を)判断するために必要十分かどうかだ」と強調。低線量と高線量用の2種類の測定器を適宜配置していることを説明し、「(半分くらいが)高い方が測れないというのは当たり前のこと」「どういう意図で書かれたか知らないが、私は看過できない」と朝日の一連の記事を断罪している。
16日の時点で、同規制委の事務方である原子力規制庁の松浦克巳総務課長(報道官)は、朝日新聞社に対し、「謝罪と記事の訂正を求める」との説明を行っている。
<電話取材は認めず録音対応の直接取材だけ許可>
しかし、朝日が17日付朝刊社会面で、「規制委、本社記事を批判」との見出しを付け、一般記事の体裁ながら、「避難を判断できるモニタリングの体制が整備されている」との規制委の見解を紹介。同規制委はこれを「事実上の訂正記事」(同規制庁幹部)として、謝罪や記事訂正の要求は取り下げ、松浦総務課長が18日の会見(ブリーフィング)で、朝日には「厳重抗議」の申し入れにとどめたことを説明している。
ただ、同紙が報じた規制庁職員の発言を含め記事の「誤り」は訂正されていないとして、今後、電話取材は認めず、録音対応による直接取材だけを許可するという奇妙な「処分」を朝日に科している。
同規制委が問題視しているのは朝日の記事だけでない。共同通信も14日、「監視装置、半数が性能不足」と、朝日と同趣旨の記事を配信しており、規制委はこの記事を掲載した地方紙も含め事実関係を調べるという。
<規制委のトップはメディアとの「いい関係」を強調>
こうした規制委とメディアの関係をめぐる一連の問題については、23日に開かれた田中委員長の定例会見を含め数人の記者から批判的な質問や疑問が出された。
田中委員長は今回の朝日の報道に対し、「(規制委とメディアの)信頼関係を裏切るような記事」との表現を使い、両者の「いい関係」の大切さを強調している。同委員長は、2014年11月に毎日新聞が「誤報」を理由に規制委から一定期間、記者会見への参加や取材を禁止された際にも、「信頼関係」や「いい関係」という言葉を使っている。
一方、原子力規制委員会設置法第25条では「国民の知る権利の保障に資するため」として、「情報公開の徹底」や「運営の透明性確保」を明確にうたっている。
そこで私は、16日と23日の委員長会見で、「われわれは政府機関との信頼関係や『いい関係』を築くために取材するわけではない。公共的な使命を担う点で両者は対等の関係であるはず。取材規制は原子力行政の透明性や報道の自由にも関わる問題であり、抗議や訂正の申し入れとは分けて考えるべきでないのか」との趣旨の質問を行った。
田中委員長は報道の自由をめぐる基本論議には踏み込まず、「事実認識が違ったまま(朝日から)電話取材を受けることには事務方に不安がある」と、「取材規制」の理由を説明。他の記者からは、通信社記事の掲載紙まで調べることに対し、「規制委のやり過ぎ」を指摘する質問も出た。
こうした記者やメディアからの反発も考慮してか、田中委員長は「ほどほどに矛先をおさめてはいかがかとの話も事務方としている」と、朝日問題での「軟化」を示唆している。
ただ、今回の朝日の記事には、脇の甘さが見られたことも否めない。原発再稼働に批判的な国民が多数を占める中、朝日新聞には、規制委や原発推進派のメディアから揚げ足を取られないように気を引き締めながら、世論をリードする正確な報道に努めてほしい。
(http://kamide.cocolog-nifty.com/より転載)
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