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<熊本地震で民進党ツイッターが炎上>「中傷ツイートは職員の責任」理論は炎上が加速するだけ

メディアゴン / 2016年4月17日 7時30分

藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)]

* * *

民進党の公式ツイッターが「炎上」している。

今回の熊本地震で迅速に対応したことが好評価の自民党。これに関連し、あるツイッターユーザーが、野党・民進党に対して発した「東日本大震災時の自民党のような対応を望みます」というささやかなツイートがことの発端だ。

それらメッセージに対し、民進党公式ツイッターからの返信は、災害支援とは全く無関係の政治的な自民党中傷の繰り返し。そこに一般ユーザー、一般国民からの批判が集中した、ということがおおまかな「炎上」の流れだ。

当該のツィートは既に削除されているが、ログはネット上で散見されるので、興味がある方はぜひ、検索してほしい。問題の民進党公式ツイッターのやりとりは以下のようなものだ。

東日本大震災時、野党だった自民党議員の支援活動を好意的に書いたメッセージに対しては、

 <民進党>未曾有の大災害の中、行政の手がゆき届かない中で、それは与野党なくどの党の議員もさまざまなチャンネルを駆使してやっていたことです。それを自分の党だけの手柄のように後から宣伝するようなことは慎まなければなりません。@MinshintoNews

・・・といったように、敵対党派とはいえ支援活動をした自民党議員を中傷しただけ。また、災害対応は与野党なく休戦して政府を支援すべき、といった要望に対しては、

 <民進党>多くの議員が与野党なく災害対応に協力した中で、一部の自民党の有力議員が原発対応についてデマを流して政権の足を引っ張ったのも有名な話です。@MinshintoNews

・・・という返信をする始末。刻々と被害が拡大している最中、災害支援や国民感覚とはおよそ無関係な喧嘩腰で政治的な返答だ。一般ユーザーからのメッセージが政治的ではない分、民進党の喧嘩腰の政治性が一層強調された形だ。

このような民進党の発言に対し、すぐに非難・批判が集中。事態を重く見たのか、民進党は同ツイッターにて、次のような謝罪コメントを出し収拾を図った。

 <民進党>本日未明、党公式ツイッターアカウントで党の見解ではない個人の見解を数度にわたり書き込んだ職員がおり、多くの皆さまに誤解を与え、また大変不快な思いをさせてしまいました。党として深くおわび申し上げます。当該職員には厳しく対処するとともに、今後このようなことのないよう努めてまいります。@MinshintoNews

さらに、民進党の岡田克也代表は「(このような騒動が)どうして起きたのか検証しなければならない」と発言。加えて、枝野幸男幹事長も「個人の意見を党の公式のツイッターで書き込んだのは問題。事実関係を確認し、厳しく対応したい」と述べた。

もちろん、このような矢継ぎ早の火消しも、もう手遅れで、既に国民からの非難や批判は、民進党の一存ではコントロールできない程度に「炎上」している。

最近、何かあればすぐに「炎上、炎上」と表現され、炎上未満のものでも、ネットで発生した苦情やトラブルは「炎上」とされてしまう。そのような早計な「炎上」乱用はすべきではないが、今回の一件は間違いなく「炎上」だ。

「本当の炎上」を理解する上で最適なサンプルは、五輪エンブレム騒動での佐野研二郎氏の事例だろう。炎上のメカニズムについては、筆者は拙著「だからデザイナーは炎上する」(中公新書ラクレ)でも詳述したが、一言で言えば、ネットでの非難や批判の枠を超え、リアルな社会や人間関係にも強い糾弾や影響を及ぼし始めるような展開を指す。

今回の民進党ツイッター問題も同様に、単なるネット上での批判にとどまらず、党の活動や運営にも今後長く尾を引くことになるはずだ。再出発した五輪エンブレムが、何かあればすぐに粗探しへと発展し、ひいては「東京オリンピック否定論」にまで繋がりかねない状況に陥っていることにも似ている。

【参考】<なぜ「炎上」は起きるのか>五輪エンブレム選考に見る「日本のデザイナーは勘違いで時代遅れ」

今回の炎上騒動が、致命的な「炎上」を誘発している最大の要因は、得意そうで全然できていない民進党のネットコントロールと、その理解の低さだろう。

まず、騒動後の謝罪コメントおよび岡田代表、枝野幹事長がいづれも、「職員が勝手にやった」という理論で釈明していることは致命的だ。そして、それが起きた原因を今後究明する、という当事者感覚の希薄な立ち位置である点もだ。

「職員(部下)が勝手にやったことだ」という説明で、自分から問題や騒動を切り離そうとする手法。これは、五輪エンブレム騒動の発端となった佐野氏への「パクリ」疑惑の際のやりとりと完全に重なる。

ちょっと考えれば、野党第1党の民進党の広報媒体である公式ツイッターに、右も左もわからない職員が、自分の私見を自由に書き込めるはずがない。党の広報チームが相談して、一つ一つ吟味したツイートをしているはずだ。むしろ、そうでなければ、もっとおかしい。

「党の公式見解」だから「公式ツイッター」なのだ。多くの有権者の一票と多額の税金を受けている野党第1党であれば、「わが党の運用方法は違います」とか「認識が甘かった」などという言い訳は通用しない。

「全部、部下の責任。自分たちは知りませんでした」という、一見すると取り繕えているような回避策も、結果的には自分で自分の退路を絶っているに過ぎない。この構図は、自分たちの発信する反論や理論によって、どんどんと退路を断ってゆき、最終的には白紙撤回にまで至った(そしてまだ沈静化していない)五輪エンブレム騒動とまったく同じだ。

このような「炎上」へと向かう展開を、拙著では次のように書いた。

 「それらはいずれも、主張したその瞬間は、正当性を主張している形を作り出すことができるだろう。しかし一方で、一つでもその『理論』や『ポリシー』にほころびがあったとき、あるいは合致しないと疑われる事例が発生した瞬間、すべては崩壊する。そうなると、反論・否定の立脚点を失うどころか、存在そのものが『信用できない』という、人格否定・全否定へとつながってしまう。」
 (藤本貴之「だからデザイナーは炎上する」p.52-53)

最近、「炎上」とされる騒動が非常に多い。もちろん未遂や過大評価もあるが、実際に「本当の炎上」も多いことは事実だ。

その背景にあるのは、デザインであれ、政治であれ、芸能界であれ、今日あらゆる情報が瞬時に世界中に伝搬し、しかもそこには無数の「観察する目」が張り巡らされているという現実だ。それは、問題に気づいたり、あるいはより高度な反論や強靭なエビデンス(証拠)によって相手を追い詰めるような方法がいくらでも存在することを意味している。

今回の民進党の対応は、そんな現代のネット感覚への無理解や甘さ、あるいは対応能力の低さを象徴した事例であるように思えてならない。若い世代の感覚と民進党との格差、ギャップの露呈でもあるかもしれない。

ところで、ありえないとは思うが、本当に職員が勝手に私的見解をツイートしたことが原因だったとしよう。もしそうであれば、民進党は損害賠償でその職員を訴えるべきであると思う。事実であれば、民進党の本部ビルに、職員が暖をとるために放火したに等しいのだから。

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