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<映画「スポットライト」>いかにして「再現ドラマ」にアカデミー賞を受賞させたのか

メディアゴン / 2016年4月23日 7時30分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

視聴率の取れるドラマにするには「女が必ず出て、恋愛が描かれなければいけないのか?」とドラマ制作者に質問したら、「そんなことはない」と、言うだろう。しかし、このところのテレビドラマを見て思うことは、「そういうドラマばかりなんだよなあ」ということ。

では、事実をベースに描くドラマはどうなるのだろう。事実をベースに描くといっても、「ドラマ」なのであるからフィクションを入れることは許される。例え私小説であっても、事実そのものではなく小説という名のフィクションであるのと同様だ。

こうした場合にフィクションを入れる時は、「大きなウソをつけ」と言われるそうだ。細々とした小さなウソはドラマを魅力的にしないのだという。

そんなわけで、事実をベースにした映画「スポットライト〜世紀のスクープ」(トム・マッカーシー監督・脚本)を見た。この映画は2003年にピューリッツァー賞を公益報道部門で受賞した『ボストン・グローブ』紙の報道に基づき、米国の新聞社の調査報道部として最も長い歴史を持つ「スポットライト」チームによる、ボストンとその周辺地域で蔓延していたカトリック神父による性的虐待事件と、教会ぐるみの隠蔽の報道の顛末を描いた作品。

当該問題に対してはローマ・カトリック教会の責任が問われ教皇ベネディクト16世が退位しているが、映画は第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を授賞している。

【参考】<東海テレビの勇気に賞賛>ヤクザの人権に迫るドキュメンター映画「ヤクザと憲法」

映画のベースになった当該記事は、アメリカ同時多発テロ(2001年9月11日)を、はさんで取材が続けられた。宗教戦争であった9・11テロのあとであっても、記事は潰されずカトリックの腐敗を訴え続ける報道ができたアメリカという国は、色々ダメなところも多いが、その点においてはすばらしい国である。

映画は、セリフも含め実際の発言をもとに作られたそうである。「事実に忠実に」が映画の基本方針である。そうなると「再現ドラマ」というモノを思い出してしまう。もちろん、豪華演技派俳優が出演する「再現ドラマ」だけではアカデミー賞はとれまい。脚本上で、何か「大きなウソ」がはめ込まれているのだろう。

朝日新聞において、本作のモデルとなった男女のボストン・グローブ記者がインタビューに答えている。まず、驚くのは映画の役者さんたちと本人たちがそっくりなことだ。事実の方を追求することで面白くする方法をとったのかも知れない。

女性記者のファイファーさんはこう答えている。

 「ドラマでは女性記者が大統領とベッドを共にするけど、そんなことはありえない」

調査報道編集部4人の中では彼女が紅一点だったが、女性を増やすような「小さなウソ」は付かなかった。メンバーの誰かと恋愛関係になる構想もあったが、彼女が断った。

 「私は、誰とも恋愛していないし、幸せな結婚をしていたから」

結局、映画としては地味な映画となっていた。しかし、地味ではあったが深く考えさせられる良い映画だった。役者たちは役に没入していた。役者たちがモデル人の人格の没入すること、それが「大きなウソ」だったのかもしれない。

その点で思い出したのは笠原和夫脚本・実録「仁義なき戦い」(深作欣二監督)である。

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