<熊本地震報道>テレビ各局で報道スピードの違いはなぜ出るのか?
メディアゴン / 2016年4月22日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
4月14日夜9時26分ごろのことでした。筆者は普段は視ないNHK『ニュースウォッチ9』を偶然視ていました。就活についてのVTRを受けてスタジオでトークしている画面に突然の警告音とともに〝緊急地震速報〟が大きく表示され、同時に、
「緊急地震速報です。強い揺れに警戒して下さい・・・」
と自動音声が流れます。〝緊急地震速報〟には熊本、福岡などの都市名が列記されています。女性キャスターが傍らから緊急時アナウンスマニュアルを手にとり読み始めます。
「緊急地震速報が出ました。熊本県、福岡県・・・・・では強い揺れに警戒して下さい。けがをしないように身を守って下さい・・・・・」
画面はすぐに〝緊急地震速報〟を表示したまま熊本の情報カメラ(市内を撮すリモコンカメラ)の映像に切り替わり、ライトアップされた熊本城がうすい白煙に縁取られながら揺れています。
後に気象庁が地震発生時間と発表したのが9時26分45秒ですから、これは生の映像だったのかもしれません。ややあって、それまで落ち着いていた女性キャスターの声のトーンが急に上ずり切迫した口調に変わります。
「いま、震度7を記録した地域があります。熊本県熊本地方で震度7を観測しました。」
震度7という数字に驚愕したのは筆者ばかりではなかったはずです。これが熊本地震のテレビ報道の始まりでした。
民放各局はバラエティ番組などを放映しながら、TBS(JNN)とフジ(FNN)は9時28分ごろ画面上部にスーパーテロップで『地震速報』を表示し、やや遅れて日テレ(NNN)も『地震速報』を表示します。しかしなぜかテレ朝(ANN)は一度も『地震速報』を出しませんでした。
地震発生から4分ほどたってNHKが熊本の地震発生時映像を繰り返していたころ、TBSとテレ朝が通常番組を打ち切り報道スタジオからアナウンサーが地震情報を伝えはじめます。しかし熊本の映像は入りません。
これにやや遅れたフジがアナウンサーを登場させた9時33分ごろになってようやくテレ朝が熊本の発生時映像を出し始めます。TBSはなぜか大分、宮崎、長崎の発生時映像を出しますが肝心の熊本の映像はありません。フジも熊本の映像を出せないまま発生後10分が過ぎて行きます。
【参考】<熊本地震 視聴率調査休止の是非>大災害時の報道は全テレビ局による分業が必要
発生13分後の9時39分、なぜかそれまで『秘密のケンミンSHOW』を放映し続けながら『地震速報』のスーパー表記を繰り返していただけだった日テレがいきなり画面をダイレクトに熊本のKKT熊本県民テレビに切り換えます。
このころになってTBSを除く各局は熊本の系列局と連携した放送が始まります。この時間になってもTBSは熊本からは情報カメラ映像以外は入らず、系列であるRKK熊本放送のニュースや地震発生時映像が入るのは地震発生後23分が過ぎてからでした。
こうした大災害が発生すると地元局は地元に向けての報道を第一とします。全国向けの〝ネット対応〟に対して〝ローカル対応〟と言われるものです。
熊本のテレビ各局は震度7という未曾有の事態に限られたマンパワーで自局ローカルの報道に全力を注いでいたのでしょう。筆者の想像ですが、とりわけTBS系列のRKKはネット対応よりもローカル優先の度合いが高かったのかもしれません。
発生直後から震度7は熊本県の〝益城〟と伝えられていましたから、益城の被害がどうなっているのかが大きな関心事です。各局ともより早く益城の状況を伝えようとしたはずです。
益城は熊本市内から東へ10kmほどですから道路状況が悪くなければ車で15分~20分の距離です。しかし各局とも益城への電話取材はあるものの、なかなか益城の映像が入りません。
そんな中、髪を乱したままの菅官房長官が会見した10時12分頃、NHKの画面に益城に向かう車載カメラの生映像が入ります。災害発生時では珍しい走行中の車からの生中継です。
この車載カメラによってフロントガラス越しに益城に近づく国道の状況が生々しく映し出されます。映像が持つ圧倒的な情報量こそテレビです。
大きな被害状況が映し出されているわけではありませんが、状況をビビッドに映したこうした生の画面は人を惹きつけます。
10時18分、視聴者が運転手目線のままで車載カメラは駐車場とおぼしき場所に止まります。そこは益城町役場の玄関前で、たった一灯の明かりの下にテーブルを拡げ戸惑いながら何かを始めようとしている数人の人たちが見えます。
やがて多くの被災者の方であふれることになるこの場所も、まだわずかな役場職員と地元の消防団や町民の方しかおらず、警察、消防、自衛隊などの姿は見えません。対策本部が立ち上がる前に益城に到着したNHKはこれ以降益城町の火災や被災状況を生中継し続けます。
【参考】<熊本地震>NHKは緊急ニュースを制限をかけずにネットで同時放送をすべき[茂木健一郎]
初動で他局に出遅れた日テレですが、体裁をかまわずKKT熊本県民テレビの映像に勝手に乗り降りして放送するような形で情報量を増やし、11時ころからはNHKを含む他局に先駆けてヘリコプターからの中継を開始します。
以後日テレは益城町の火災映像などの被災映像や避難所映像をはじめ熊本市内から新幹線の脱線状況などもヘリ中継を中心に伝え続けました。
その後、NHKとフジもヘリコプターからの生中継を始めますが、15日午前1時までの段階でTBSおよびテレ朝は自社ヘリ中継はなく、防衛省が提供した空撮映像を流すのみだったようです。
さらにNHKが10時18分ごろから開始した益城町役場などからの生中継ですが、民放各局はNHKに大幅に遅れ、テレ朝が11時42分ごろに生中継を開始、日テレは午前0時ごろに役場前から中継を始めます。
フジが現地生中継を開始したのは0時25分ごろ、TBSが生中継を入れたのはNHKに2時間以上遅れた0時30分過ぎだったと思われます。
別段各局が競争をしているわけではありませんが、メディアが災害発生時に求められるのはより早く、より正確で、より詳しい情報です。その責を果たすのは第一に映像という圧倒的な情報量を生で伝えることができるテレビです。重大な災害がおこれば人はまずテレビに情報を求めます。
テレビ各社はどこも災害報道には多くの経験とノウハウを積み重ね、普段から系列こぞって準備をしているのですが、今回ざっと俯瞰してみても対応結果にかなりの差が出ているようにも感じます。
今回の初動対応ではさすがだったNHKの他に、目立ったのは初動で出遅れた感のあった日テレでした。日テレは他局に比べてアナウンサーやキャスターがスタジオで解説やトークする画面が少なく、ヘリ中継を中心にひたすら災害状況を伝えることに徹した感があり、それが情報量の多さを印象づけていました。
日テレとは反対に解説やスタジオトークの時間が長かった印象なのがTBSとフジです。とりわけTBSは早い時間から情報の速報よりも記者や専門家が解説したり語り合う静かな場面が長く、初動段階での映像によるビビッドな情報量が少なかったという印象でした。
日テレとTBS・フジを対比させると、この差は今回たまたまのことなのか、巷間言われるような〝局の勢い〟の差なのか、少々気になるところです。
(原稿中の時間や内容はあくまで筆者のメモによるもので、間違いがあればお詫び致します。)
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