<熊本地震 非常災害対策船の常備を>災害大国なのに過去の経験が生きていない日本
メディアゴン / 2016年4月23日 7時40分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
大災害が発生すると大量のテレビスタッフが現地に入ります。彼らも人間ですから食事もしますし、トイレも行くし、睡眠を取る場所も必要です。
テレビスタッフは自衛隊などのようにそれらを自己完結できる装備を持っているわけではありませんから、原則的には現地で調達しなければなりません。しかし、被災者の方が食料にも困っている状況で救援物資に影響を与えるようなことはできません。
放送各社も多くの災害取材経験を積み、現地での対応ノウハウをマニュアル化しています。
筆者は阪神・淡路大震災の時に情報番組の担当でしたが、あの当時から現地にスタッフを送り出す際に上司が、食事やトイレなどは被災者の方々にぜったいに不快感を与えないように細心の注意を払うよう口を極めて注意していたことを思い出します。
しかし、残念ながら今回の熊本地震取材では、取材車両のガソリンスタンド割り込み給油やお弁当の写真をネットに上げたアナウンサーの無神経さなどが非難を浴びています。極限状態のような非常時だけに、なかなか対応ノウハウの伝承・徹底は難しいのかもしれません。
不祥事とはまったく別のことですが、ノウハウの伝承ということでは政府や自治体の被災者対応も同様です。災害大国日本はこれまで何度も何度も大災害に見舞われ、そのたびごとに関係部署が被災者対応をしてきたのですが、今回の熊本地震でも混乱や対応不足などが指摘されています。
震度7が2回、さらに繰り返される地震の激しさに、多くの方のご自宅が倒壊する危険があり、家に戻れないどころか、避難所の屋根の下に寝ることさえ怖しく、発災後1週間を経ても夜は屋外で過ごされるというのはかつてあまり聞かなかった事態です。
さらに今もって救援物資が充分に届かないところもあるようで、数々の大型災害を経験してきた日本でノウハウやシステムが生きていないのは驚きである。それと同時に、これから起きると言われる南海トラフだ、首都直下型だとかいう災害の膨大な被災者に対処しきれるはずもなく、もどかしいかぎりです。
そんな腹立ち紛れの中で、筆者の提案・考えを書いてみたいと思います。
【参考】<熊本地震で民進党ツイッターが炎上>「中傷ツイートは職員の責任」理論は炎上が加速するだけ
ヒントは開栄丸という船です。2006年2月に進水、全長100m、総トン数5000トン、建造費47億円。これは六ヶ所再処理工場からのMOX粉末と「もんじゅ」の照射済み試験燃料を運搬するはずの船ですが、「もんじゅ」があんな状態ですから運ぶものなどなく、ただ係留されたまま年間12億3200万円の維持費をかけ続けている船です。
開栄丸のような船が許されるなら、一昨年、広島で大規模な土砂災害があった時に、非常災害対策船とも言うべき船を常備しておくことも可能なのではないか。こういう場合に被災者の方々を収容すれば良いのではないかと思いました。
今回の熊本地震には4月21日時点で国がフェリーを借り上げて被災者収容に充てたり、海上自衛隊の『はくおう』(民間のフェリーを自衛隊が兵器・兵員輸送用にチャーターしたもの)を物資輸送と被災者収容に充てるようですが、これを災害対策のみに特化した船を造り、それを常備化したらどうだろうか、という提案です。
3万トンから5万トンクラスの大型クルーズ船、あるいは貨客船を中古で5隻ほど購入します。船舶として高性能を必要としないのですから新造船より安くて早く手に入る中古船の方が適当でしょう。
チャーターではなく購入するのは災害に特化した艤装をするためです。そこにはこれまでの避難所運営で培われた工夫や設備が組み込まれていなければなりません。
改装により1隻あたり、災害初期の最大詰め込み時で2000~3000人程度を収容できる被災者受け入れ船とします。ほんとうは20万トン級の世界一周超大型クルーズ船なんかだと一挙に5000人ぐらい収容できて良いのですが寄港できる港が限られるかもしれません。
発災から時間がたてば、収容被災者数は減り、新たに居住環境とかプライバシーとかいう必要も出てきますから、フレキシブルに対応できる設備の対応が求められます。
また単に被災者を収容するだけではなく、ある程度の医療サービスが可能な設備や、食事や入浴などの設備など、これまでの経験で手に入れた被災時ノウハウを生かした設備を整えます。
さらに船倉には大量の災害援助物資はもとより、小型重機、発電機、仮設トイレ、軽自動車、バイクなど経時劣化しない必要物資を備蓄します。船は動く災害対策備蓄庫にもなるわけです。デッキにはヘリコプター着艦設備を整え、要は設備が充分整った移動可能な大型避難所となる船です。
南北に細長く海に囲まれた日本は内陸のどこからでも50km~100kmほどで海に到達します。港は日本のどこで大規模災害があっても被災者対応拠点となりえます。
よってこれらの船をたとえば博多、大阪、富山、東京、青森などに常時係留し、大災害発生時には日本のどの大型港にも24時間以内に1隻は行ける体制を整えます。移動中に必要なら途中寄港をすることで、大量の救助要員を乗せ、あるいはさらなる資材や物資等を積み込み輸送することも可能です。
もし3.11クラスの超大型災害なら、順次5隻すべてが集結すれば万単位の被災者に対しほぼ自己完結型の対応能力をもつ施設が短時間で実現することになります。またアジア各国の自然災害にも援助のお役に立てるかもしれません。
船では津波災害時に役立つのかが心配のようですが、津波はそう何日も続くことはありませんし、沖に出て停泊すれば良いことです。
【参考】<熊本地震 テレビ報道のありかた>緊急事態の今だけは「視聴率調査」を休止すべき
また、今回の熊本のように、被災対応が自治体のキャパシティを越えるような場合は、船ごと近隣の自治体に一時移動すれば被災自治体の負担を軽減できます。このように、その災害なりの事情により、もっとも行くべき港に行けば良いのです
購入と改装の費用ですが、大型船の値段など素人で見当もつかないのですが、先ほどの開栄丸が新造の総トン数5000トンで建造費47億円なら、もっと大型で改装費がかかると言っても、中古1隻あたり数百億もかからないのではないでしょうか。
政府が選挙前に3万円ずつバラまく予算が3000億と言われておりますが、仮に1隻500億×5隻でも2500億円で500億円余ります。まさかこんなにはかからずに5隻用意できるのではないでしょうか。
維持費ですがそれ相応の国費投入は当然でしょう。加えて民間委託として、民間の工夫で平時は何か営利事業に利用しても良いのではないでしょうか。いざという時に動くという条件さえ満たせば良いのですから。
どんな災害でも海や港が長い時間閉ざされることはありません。そういう点では船は遅いようで早いのです。さらに大量の物資や人を収容したり一挙に運ぶことができます。
船は地震の揺れにも、豪雨にも強いのです。台風が心配ですが、台風災害に非常時対策船の出番が来るのは台風が去った後のことです。
災害が起きた場所の近くに24時間以内に巨大で充分な準備が整った避難所がやってくるという大型災害対策船は、災害大国日本に必須ではないかと筆者は妄想しているのですが、ただし、もしこれが有効な手立てなら賢明な日本の官僚が見逃しているはずがないようにも思うのです。
なにか大きな落とし穴があるのかもしれませんし、さらに厚生省や総務省あたりの所管ではなく、防衛省が兵器・兵員輸送用にも使うとして所管するとなると、大規模な海外派兵などという目的も見えて来て、自然災害対策とは別の怖い妄想も浮かんでくるのですが。
さて、いかがなものでしょうか。
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