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共和党候補トランプ氏が傷つけたアメリカの政治的良心[茂木健一郎]

メディアゴン / 2016年5月6日 7時40分

茂木健一郎[脳科学者]

* * *

アメリカ大統領選挙で、共和党はドナルド・トランプ氏が候補者になることがほぼ確実になった。トランプ氏には、祝福を送りたいが、同時に、いろいろと考えさせられる。

トランプ氏は選挙戦の過程で、「メキシコとの間に壁をつくる」とか「イスラム教徒の入国を禁止する」など、従来のアメリカ政治における正統的な価値観(自由や人権といった、普遍的価値)とは異なる、いわば「トンデモ」の主張をした。

トランプ氏が出演して、お茶の間での知名度を上げたリアリティ・TVでの決め台詞、「お前はクビだ!」と同じように、トランプ氏のトンデモ発言も、いわばキャラクター設定としてメディアが楽しむ、みたいな雰囲気の中で、徐々に支持が広がっていってしまった。

指名を確実にしたトランプ氏は、今後、そのトンデモ発言を封印して、より政治的に受容可能な発言にシフトしていくものと思われる。もし候補になり、また大統領になれば、メキシコとの壁はつくらないし、イスラム教徒の入国も禁止しないだろう。

【参考】映画「スポットライト 世紀のスクープ」はプロのジャーナリストを知るための素晴らしい教科書だ[茂木健一郎]

トランプ氏は、案外、普通の大統領になっていくかもしれない。また、見方を変えれば、初期のトンデモ発言は、注目を浴びて、選挙戦を有利にするための戦略だったかもしれない。その意味では、トランプ氏は、頭がいい「役者」なのかもしれない。

これらの諸事情を考慮しても、メキシコとの壁やイスラム教徒入国禁止など、数々のトンデモ発言を続けてきたトランプ氏が、共和党の候補者になったことは、アメリカ政治、とりわけ共和党の政治を根本的なところで「傷つけた」と思う。その傷は、良心的な人ほど、深く強く感じていることだろう。

アメリカのメディアの中では、今回のことで、「共和党は死んだ」という論評も出始めている。もともとは、奴隷解放を進めたリンカーンが、共和党最初の大統領だった。以来、保守派の文脈で、普遍的価値を大切にしてきた政党が、いわば「トンデモ」と「リアリティTV」にやられてしまった。

どの国でも、政治は特にトンデモ化する。その中で、さまざまな欠点を抱えつつも、英国との独立戦争や、アメリカ合衆国憲法の制定など、普遍的価値の松明を持って進んできた(という設定の)アメリカ政治にとって、トランプ氏が候補者になったことのダメージは、案外大きいのではないか。

トランプ氏が今後、より真っ当な方向に進むことを、祈るし、またそのような変化が起こるとは思うが、今回の一連の自体が傷つけてしまった政治的良心が回復するには、それなりの時間がかかることだろう。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

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